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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第19章 ティーチャーズ&クリーチャーズ

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大人を探して1

 よく晴れた平日の朝。

 ホームルーム前の教室で、


「マイちゃん、パパが変なお願いをしてごめんね」

「いいってことよ。子供だけで冒険するのが危ないってのは本当だからな」

 舞奈は園香に笑みを返す。


 先日の夕食パーティーで、舞奈は明日香やチャビー、園香と共に新開発区の近くの林までムクロザキの蜘蛛を探しに行くことになった。

 舞奈や明日香にとっては気楽なハイキングだ。

 少なくとも以前のようにヴィランのアジトや死酷人糞舎に殴りこむよりずっと。


 だが普通の小5女子である園香の冒険に、園香父は条件をつけた。

 大人の引率役を見つけることだ。

 その条件は妥当だと、舞奈も思ったのは本当だ。

 だから二つ返事で引率役の大人探しを引き受けた。


 ……だが面倒な仕事なのも嘘ではない。


 だから放課後。

 舞奈は校門前に位置する警備室の前で――


「――ということがあったんだよ」

「それは災難でしたね……」

 帰り際、クレアに愚痴っていた。

 内容はもちろん件の毒蜘蛛のこと。

 ムクロザキのこと。

 そしてムクロザキの不誠実極まりない対応のこと。


「ここ数日でそれらしい不審者を見かけた覚えはないですね」

「そこはあんたたちを信頼してるよ」

「ですが申し訳ございません。そういう事情でしたら我々が探索に同行できればよかったのですが、今度の土日も警備で……」

「クレアさんが謝ることじゃないよ。土日までお仕事お疲れさん」

 頭を下げる金髪美女の警備員に、あわてて労わりの言葉をかける。


 相手が不利益を被っていたら、自分に非が無くても頭を下げる。

 それは賢い振舞いだと舞奈は思う。

 誠実さはプラスの感情の何よりの栄養だ。

 思いがけず殊勝な態度は相手をなだめると同時に慰めを与える。

 それでも食ってかかってくる奴はぶちのめしていい奴だと切り分けることも可能。

 それが大人としてあるべき姿なのだ。

 ムクロザキとは違って! だが、


「ですが今週末なら、もうひとつのチームが完全に非番のはずですよ」

「モールさんたちか……」

 続くクレアの言葉に口ごもる。


 蔵乃巣(くらのす)学園の警備員は、実は2チーム4人だったりする。

 もうひとつのチームは中東出身のモールさんと香港出身の(シャ)さん。

 どちらも女警備員だ。

 夜間の警備や、クレアやベティが非番の時は彼女らが警備をしている。

 もちろん2人ともクレアたちと同じくらい経験豊富な傭兵だ。


 だが彼女らはなんというか……あまり見た目が子供向きじゃない。


 そもそも当校の警備員が女性なのは、腕が立ちながらも学生には威圧感を与えないという一見して相反する学園側の要求に少しでも沿おうとするためだ。

 そしてモールたちは前者の条件はクレアたち同様、十分以上に満たしている。

 怪異どもの殲滅だって手馴れたものだ。

 だが後者の方はというと……


 ……ともかく、そういう訳だから彼女らは主に夜の警備を担当している。

 普段のにこやかな警備員がいない隙に学校に悪さをしようと企んだ犠牲者は、運よく生き残ったとしても二度と同じ事をしようと思えないほど心に傷を負う。

 彼女らは、そういう人となりの愉快な人たちだ。


 なので、いくら手が空いているとは言え、彼女らが園香たちの引率ですと親父さんに紹介するのは他を当たってからでもいいだろうと舞奈は思う。

 それに仕事が休みだからという理由で大人が暇だと決めつけるのも失礼だ。

 そんな事を考えながら舞奈が難しい顔をしていると――


「――おっ舞奈様じゃないすか。何か面白い話っすか?」

 上から声をかけられた。

 振り返ると背の高い丸顔の警備員がいた。ベティだ。

 見回りから帰ってきたらしい。


「楽しそうな話をしているように見えるか?」

「違うんすか?」

「あんたな……」

 舞奈は口をへの字に曲げる。

 ベティはいけしゃあしゃあと笑みを返す。

 他人の苦境を面白がっている口調だ。

 だが舞奈は苛立つより先に気になっていたことを思い出し、


「まあいいや。こんな蜘蛛を見たことあるか?」

 携帯を取り出し、件の蜘蛛の画像を表示させてベティに見せる。

 そのくらいの操作は舞奈にだってできる。


 写真のデータはテックから貰っていた。

 テックは情報を入手してくれるが、手と足を使って探すのは舞奈たちの仕事だ。

 いつもそうだし、今回もそうだ。

 だから目標の姿を常に確認できた方が探しやすかろうと心づもりのつもりらしい。

 そんな極彩色の蜘蛛の画像を見やりながら、


「いやー知らない蜘蛛っすねー。大陸にいる種類じゃないっすか?」

「そうらしいな」

 何も考えてなさそうな表情で答える。

 無駄に楽しそうな丸顔を見上げながら舞奈は口をへの字に曲げる。


 件の蜘蛛はアフリカに生息しているらしいことを思い出して尋ねてみたのだ。

 いちおうベティはヴードゥー女神官(マンボ)だ。

 ネットに載ってない情報を知っているかもしれないと思った。

 彼女に的確な答えを期待していた訳じゃないが、期待外れな解答なのは本当だ。

 それにこいつ、モールたちより子供向きとはいえ別に聖人君主じゃない。

 渋面の舞奈にトラブルの気配を感じ取ってワクワクしているのが態度でわかる。

 まったく、警備員のくせに……!


「必要なら姪っ子に頼んで何匹か送らせましょうか?」

「いらん!」

 続く言葉に思わず叫ぶ。


「これ以上増やさんでくれ……」

 何故にこの面白黒人はピンポイントで厄介事をかさ増ししようとできるのか。

 夏休み前の子供みたいな表情で見下ろすベティを見上げながら、舞奈は早くも疲れた表情で深々とため息をついた……。


 ……とまあ、その後に警備員と別れた舞奈は【機関】支部へ向かう。

 週末の引率を募るためだ。


 当然ながら【機関】は大人の組織だ。

 支部には大量の大人がいる。

 フィクサーもそうだし、諜報部の職員だってそうだ。

 まあ彼女ら、彼らを大人だからという理由でフィールドワークに駆り出すのは忍びないとも舞奈は思う。

 ようやくヴィランに関わる一連の事件の後始末を終え、ひと息つけた頃のはずだ。


 それでも実行部隊のハットリなら今は手が空いているはずだ。


 彼女は優秀な回術士(スーフィー)だ。

 園香父が危惧するような何かが本当に起こったとしても的確に対応できる。


 それに加え、何より物腰が柔らかく常識がある。

 先日の決戦でも、火力は最強だが人見知りが過ぎるSランク椰子実つばめのお世話役として火力偏重のチームに配属されるくらい筋金入りの常識人だ。

 彼女なら園香父も納得せざるを得ないだろう。

 まあ東トルキスタン出身の【三日月】教徒である彼女は覆面で顔を隠している。

 だが園香父も他国の王族の娘をさらっと預るくらいの国際人だ。

 そういった知識や心構えはあるはずだ。


 あるいは萩山の連絡先を教えてもらうという手もある。

 そもそも以前のツチノコ探しの際に園香たちを救ったのも彼だ。

 園香も彼の顔を知っている(実はハゲなのは知らないはずだが)。

 それを踏まえれば園香父も納得させることができるだろう。

 大学生活を満喫しているらしい彼だが週末に他の予定とかはなさそうだし。


 舞奈は彼のアパートの場所も携帯の番号を知らない。

 だが今では彼も【協会(S∴O∴M∴S∴)】の術者だ。

 支部の誰かが連絡先くらい把握してるだろう。


 そんな皮算用をしながら支部に赴いた舞奈を、


「ちーっす」

「あ~ら舞奈ちゃん、いらっしゃい~」

「今日もお仕事おつかれさん」

 今日も今日とて化粧と愛嬌でいろいろ隠した受付嬢が笑顔で出迎える。

 小柄で巨乳な嬢に鼻の下をのばしながら、ふと舞奈は思いつき、


「じ~っと見たりして、どうしたのぉ~?」

「お姉さん、今週末はヒマ?」

 精一杯に子供らしい可愛げのある笑みを浮かべて尋ねてみる。


 どうせ大人を連れてハイキングするなら、大きいお胸と一緒のほうが楽しい。

 それに嬢は舞奈が知ってる大人の中では常識人の部類に入る。


 もちろん彼女が荒事や野外での捜索が得意なようには見えない。

 だが心身共に立派な大人なのは事実だ。

 万が一に大人がいるからというだけじゃ解決できない荒事(脂虫の集団とか歩行屍俑とか)に見舞われた場合は舞奈が対処するのだから、連れが誰だろうが同じだ。

 だから引率を胸の大きさで選んでも何ら問題はない。

 そう舞奈は考えた。

 対して嬢は少し訝しみながら、


「暇だよ~? たぶん朝から夕方までここで座ってるだけだしぃ~~」

「……そっか。お仕事お疲れさま」

 可愛らしく答えた。


 まあ当然と言えば当然だ。

 彼女だってクレアやベティと同じ、職員として支部に努めているのだ。

 世間様が休日だからという理由で好きに休める訳じゃない。

 ほんとうにお疲れさまだ。


 なので当初の予定通り、ハットリか萩山の居場所を調べることにする。


「実はプライベートな遠足の引率役を探してるんだ。ハットリさんはいるかい?」

「舞奈ちゃんと明日香ちゃんだけじゃ戦力的に不足ってことぉ~?」

「クラスメートと近くの林までハイキングに行くだけだよ」

 再度の問いに対する反応に苦笑する。

 まったく舞奈は何だと思われてるのか。


「あたしにとって危険な場所に、友達を連れていかない分別はあるつもりなんだが」

「だよね~~」

「で、ハットリさんはいるかい?」

「ん~。諜報部の子たちと外回りに行ってるかな~~」

「いないのか……」

 まあ仕方がない。


「それじゃあ萩山光と連絡は取れるか? 【協会(S∴O∴M∴S∴)】のラスターだっけ?」

「ん~、えり子ちゃんなら知ってると思うけどぉ~」

「そっかー」

 こちらもわからないらしい。

 ひょっとしたら緊急時になら【協会(S∴O∴M∴S∴)】なりを通して連絡がつくのかもしれないが、面倒なのかもしれない。

 もちろん舞奈に強要する権限はない。なので、


「えり子ちゃんも今は外回りだよ~」

「あいつもお疲れさんだぜ。あたしもちょっと回ってくるよ」

「いってらっしゃ~い」

 嬢に見送られながら支部を出る。


 念のため、去り際に警備員のおっちゃんの姿を探してみた。

 だがタイミング悪くビル内の巡回の最中らしい。ちぇっ。


 なので次の目的は、ヤニ狩り中の執行人(エージェント)チームだ。

 まあ足で探し物をするのはいつものことだ。

 新開発区を捜索しろとか言われないだけマシだと思うことにする。

 この機会にハットリやえり子、萩山の連絡先を聞いておくのも悪くない。


 そんな事を考えながら統零(とうれ)町の灰色の街を歩く最中……


「……おっやってるやってる」

 口元にニヤリと笑みを浮かべる。


 何処からか漂ってくる糞が焦げたようなヤニの悪臭。

 不自然にボリュームだけが抑えられた喧騒。

 それらから目をそらして立ち去ろうと囁く内なる声。

 普段の自分の考え方とは違う、だが慣れ親しんだ感覚。

 認識していれば抵抗は可能な表層意識への介入――認識阻害による人払いだ。


 どうやら早速、ヤニ狩りに出くわしたらしい。


 ヤニ狩りというのは人の姿をして人の街を徘徊する臭くて下等な喫煙者――脂虫を捕まえて袋詰めにして支部に奉納することだ。

 もちろん脂虫は怪異なので捕獲しようが痛めつけようが倫理的な問題はない。

 放っておくと際限なく悪さをするし、怪異に操られて人間を襲うこともあるから定期的に数を減らす必要もある。

 だが人間の顔と立場を簒奪した奴らを考えなく殺すと法的な問題が発生する。

 いわば法律のバグみたいなものだ。

 公共の往来で人(に似た怪異)を拉致する絵面もあまり宜しくない。

 なので術によって人目を遠ざけるのだ。


 そして、この状況は思いがけずラッキーだ。

 珍しく仕事が順調に終わりそうな感触に、舞奈は思わず笑顔になる。


 術による認識阻害が可能なのは術者だけ。

 しかもヤニ狩りに同行する術者なんてハットリやえり子くらいしか知らない。

 近くにいるのがどちらにしろ大人探しの仕事の大半は終わる。

 万が一に同行してるのが舞奈の知らない他の術者だとしても、ハットリやえり子がいるチームの居場所を聞けるはずだ。

 あるいは綺麗な女の人なら誘ってみるのも悪くない。


 そんな邪念を拠り所に、人為的な心の声に逆らって悪臭の元めがけて歩く。

 どうやらヤニ狩りは近くの路地裏で行われているらしい。

 なので足を速めた途端――


「――あっ舞奈ちゃんだったのか」

 問題の裏路からのろのろと何か出てきた。

 学ラン姿のチー牛だ。

 つまり予想通りにヤニ狩り中の諜報部の執行人(エージェント)


 誰か来るのに気づいて迎えに来たらしい口ぶりなのに少しばかり驚く。

 同行している術者が術に熟達している証拠だろう。

 良いことだと舞奈は思う。

 物事が順調に進んでいると、気持ちも前向きにやさしくなる。


「いつもヤニ狩りお疲れさん」

「それほどじゃないよ。今日は手伝ってくれる人もいるしね」

「だろうな。ハットリさんか? えり子ちゃん……なら腕を上げたか?」

「ははっ舞奈ちゃんもビックリする人だよ」

「おっそりゃ結構」

 どっちだろうな。

 前を行くチー牛の言葉にゴキゲンな表情で答えながら裏路地に入った途端――


「――やあ」

 全裸美女がいた。


 均整の取れたグラマラスな曲線美。

 顔には片眼鏡。

 即ち【組合(C∴S∴C∴)】の高等魔術師、ハニエル山崎。


 側では岩石の大天使(ウリエル)が拘束したくわえ煙草の薄汚い背広の手足を、チー牛たちがギコギコ楽しそうにノコギリで斬っている。

 ヤニ狩りに協力してるのがハニエルなのは間違いない。

 舞奈の接近を察知したのも彼女だろう。


「……執行人(エージェント)のヤニ狩りにつき合うなんて珍しいじゃないか」

 答える舞奈のトーンがいきなり低くなる。


 まあハニエルが綺麗な女の人なのは事実だ。

 加えて探索の同行者としてなら申し分なく有能なパートナーなのも事実だ。

 何せ【組合(C∴S∴C∴)】の高等魔術である。

 トラブル(歩行屍俑の集団とか)があっても難なく対処できる。

 それだけじゃなく失せ物探しの手札も豊富だろう。


 だが園香やチャビーの引率と考えれば話は別だ。

 園香父の前に全裸女なんか差し出したら、週末の冒険どころか下手をすると園香との交際そのものを禁止されかねない。


 まあ、いちおうハニエルは認識阻害によって自身の姿を欺いている。

 父も大人だから認識阻害の効果は受ける可能性は多分にある。

 つまり服を着ていると思いこんでくれるかもしれない。

 だが認識阻害は幼子の無垢な視線には弱い。

 そして子供の心無いひと言で疑念が生まれれば認識阻害による変装は破られる。

 チャビーの手前、それに賭けるのはリスキーが過ぎる。


 彼女らは頼んでも絶対に普通の服とか着てくれないし。


 そんな事を考えながら、舞奈はみるみる疲労する。

 そもそも偶然に出くわした相手が望んでいた人物だったことなんて、舞奈の人生では数えるほどしかない。舞奈の人生はいつもそんな感じだ。

 ラッキーなんてまやかしだ。

 そんな舞奈の思惑に気づきもせずに、


「我々も【機関】との関わり方を変えて行こうと模索している最中なのさ」

「そりゃ良かった」

 ハニエルはいけしゃあしゃあと語る。


「でもって今回は現場の手伝いを、と考えてね」

「思いつきか」

「凄いと思わないかい? 舞奈ちゃん」

「……ああ驚いたよ悪い意味でな」

 無駄に形のいい胸を張ってドヤる全裸と、はしゃぎ気味な少年の言葉に苦笑する。


 いやチー牛どもにはハニエルは全裸に見えていないのか?

 少し確かめてみたい気もした。

 だが今の舞奈は時間的/精神的に余裕がない。

 さっきまでは気力に満ち溢れていたのだが今はない。なので、


「ハットリさんが同行してるチームは何処だ? それかえり子ちゃん」

「んー。街のほうにいると思うけど」

「そっか……」

 舞奈の問いに、チー牛どもはのんびり答える。


 よく知らないらしい。

 自分たちが巡回するルートしか把握していないのかもしれない。

 所詮は彼らもバイトの高校生だ。

 まあ仕方がない、街に戻るか……と舞奈は無理やりに気力を奮い立たせ、


「けど何故にハットリさん?」

「いやな、今週末にちょっと探検に行くんだが、子供たちだけじゃアレなんで引率を頼める大人を探してるんだ」

「えり子ちゃんも!?」

「あいつはほら、萩山の住所を知ってるらしいからな」

 本気で舞奈のおつむを心配してきたチー牛を睨みつける。


 こいつら舞奈の戦闘能力を絶対的に信頼してるのに、日常生活での扱いはこんな感じだ。食い意地の張ったエロガキくらいにしか思っていない。

 まあ事実だから仕方がないが……。

 気力を挫かれると思考も少しネガティブになる。


「それならわたしがつき合おうか? 日曜なら暇だし」

「暇なのかよ。っていうか子供の引率っつったろ?」

 横から口を挟んできたハニエルにツッコむ。


 純粋な子供に認識阻害は効かない。

 そんなことは彼女が誰より知っているはずだ。

 というかハニエルも以前に度々、子供に全裸を看破されている。


「それなら心配ない。わたしの腕も上がっている」

「その腕試しの代償は、あたしの世間体なんだがな」

 舞奈は言いつつ口をへの字に曲げる。

 まったくロクな大人じゃねぇな。

 だが全裸もそれ以上食い下がるつもりはないらしい。


「ラスターの住所なら、チャムエルが知ってるはずだよ」

「あいつもヤニ狩りの手伝いなのか」

 というか奴も駄目なことには変わりないがな。

 最初の問いに対する答えにやれやれと苦笑する。


 そうしながら他のチームがいそうな場所を可能な限り詳細に尋ねる。

 そして彼らと別れて表通りに戻る。


 その後、再び統零(とうれ)の灰色の街をだらだら歩く。

 知った顔のガードマンが挨拶してきたので手を振り返す。


 適当なガードマンをナンパする……訳には流石にいかないだろう。

 まあ確かに彼らはピクシオンの頼みと言えば同行してくれると思う。

 だが何と言うか……各方面の色々な人が困ったり戸惑ったりしそうだ。

 それに蜘蛛の特性を考えると、できれば引率も男性じゃないほうが良い気がする。


 統零の街はどこもかしこもコンクリート色。

 だが空は憎らしいくらいに青空だ。


 蜘蛛もどうせなら鹿田先生がいるときに逃げてくれればよかったのにと少し思う。

 少し前まで舞奈たちのクラスの副担任だった彼女は、様々な断片的な情報を総合すると元スカイフォールの宮廷魔術師長にして今はディフェンダーズの影の首領。

 そして強力な虫使いのケルト魔術師でもある。

 郊外に消えた1匹の蜘蛛を探すのも容易いだろう。


 だが役目を終えたらしい鹿田先生は、盛大なお別れ会の後に去って行った。

 ほんの数日前のことだ。

 もちろん連絡する伝手なんてない。

 彼女に何を望んでも後の祭りだ。


 そもそも舞奈が直接に関与できない状況が、舞奈に都合よく動いた試しはほぼない。

 今回も同じだった。なので、


「しゃーない最悪は明日香のポケットマネーでガードマンでも雇うか」

 ひとりごちつつ舞奈は街の方向へと歩き続けた。


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