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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第4章 守る力・守り抜く覚悟
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危機

 息を切らせたサチを追い抜き、小夜子たちが通るはずのルートへ向かう。

 空気に混じる血と汚物の臭いを嗅ぎわけ、舞奈は走る。

 そんな舞奈を、明日香とサチが追う。


 だが3人が駆けつけた頃には、戦闘は終わっていた。

 学ラン姿の異能力者たちが、戦闘の余韻の醒めやまぬまま伏兵を警戒する。

 その中からセーラー服の少女があらわれた。


「あ、舞奈ちゃんに明日香ちゃん。加勢に来てくれたの?」

「まあな。でも終わっちゃったみたいだ。やっぱり小夜子さんは強いや」

「そんなことないよ」

 笑いかける舞奈に、だが色白なセミロングの少女はニコリともせずに答える。


 執行人(エージェント)デスメーカーこと如月小夜子。

 彼女は以前は執行部に所属していて、舞奈とも顔見知りである。

 戦闘経験も豊富で有能なのだが、考え方が後ろ向きなのが玉に瑕だ。

 どんなに褒めても裏があると勘ぐって喜ばない。


「それよりサチをほったらかして来たの?」

「違うよ! そのサチさんが先に走り出したんだよ!」

 終始、このような感じである。

 ある意味で、サチとは正反対の疲れる性格である。


 そうこうするうちに、明日香とサチが追いついてきた。

 サチは運動不足なのか、仮にも小学生の明日香の後でぜいぜい言っている。

 そんなサチを見やり、小夜子はほっとした表情で微笑む。

 それは、あの根暗な彼女がこんなにも、と思うほどのやわらかな笑みだった。


「状況はどうでしたか?」

 明日香が尋ねる。

 小夜子の表情が執行人(エージェント)のそれに変わる。


「操られた脂虫が数匹と、泥人間が1ダース。あと泥人間の妖術師(ソーサラー)がいたわ」

妖術師(ソーサラー)だと?」

「うん。いきなり戦術結界が形成されて奇襲されたの」

 その割に、こちらの被害は異能力者が何人か怪我をしただけのようだ。

 彼女の性格はともかく、腕の方は確かである。だがそれより、


「思ったより戦力が充実してるな……」

 小夜子からの情報に、舞奈は口をへの字に曲げる。

 そして、ふと気づいた。


「小夜子さん、その胸のって……」

「胸って、舞奈ちゃんはあいかわらず……あっ」

 小夜子の胸は過多なストレスを思わせる控えめな胸だ。

 そんなシンデレラバストのセーラー服の胸に、不吉な何かがこびりついていた。


 手だ。


 千切れた手首が、小夜子のネクタイをつかんでいた。

 潰れた断面からヤニ色に濁った何かが滴る。

 脂虫のものだろう。

 さすがの舞奈も顔をひそめる。

 サチは思わず息を飲む。だが、


「ああ、あのときの」

 小夜子は気にもならない様子だ。

 むしろ自分の胸元を見やって青ざめるサチを気にしている。

 見苦しいと判断したか手をむしり取り、無造作に捨てようとしてふと気づく。

 懐から諜報部御用達のビニール製のポウチを取り出して、入れる。


 そして胸元からペンダントを取り出し、ほっとした様子で見やる。

 小さな銀色のペンダントだ。

 表面には黒曜石の鏡がはめこまれている。

 裏には古代アステカの神【煙立つ鏡(テスカトリポカ)】が彫刻されている。


「あいつら、このペンダントを狙ってたみたい」

「ペンダントを?」

「この脂虫、妖術師(ソーサラー)から『胸元につけているものを奪え』って指示を受けてたわ」

 不機嫌を通り越して恨みがましい口調で、言う。


 小夜子のペンダントは恋人の形見だ。

 それに手を出そうとした脂虫の手首から上がどうなったかなんて、考えたくもない。


 小夜子の探知魔法(ディビネーション)は、心臓を占うことで対象の知識や経験を読み取る。

 この術に対して、いかなるブラフも黙秘も効果がない。

 たとえ自害しても情報を守ることはできない。

 最強最悪の尋問術だ。


 だから彼女がそう言うのなら、間違いなく脂虫は指示を受けていたのだろう。

 胸元のアクセサリーを奪えと。


「それにしても、サチさんの勾玉と言い、怪異の間で魔法のアクセサリー狩りが流行ってるのか?」

 舞奈は大げさに肩をすくめてみせる。

 臓物が潰れる胸糞の悪い絵面を脳裏から振り払うように。

 そんな舞奈に、小夜子は不機嫌そうに反応する。


「このペンダント、別に魔道具(アーティファクト)じゃないわよ?」

「そうなのか? じゃ、なんでまた……」

 舞奈は考えこむ。


 そして、ふと思った。


「もしかして泥人間は、サチさんの【八坂の勾玉】が欲しかったんじゃないか?」

「人違いってこと? さすがにそれはないと思うけど」

 明日香が肩をすくめる。

「だいたい、顔形だって雰囲気だってぜんぜん違うじゃない」

「あたしたちから見ればな」

 舞奈は得意げに笑う。

「でも、あたしは泥人間の顔なんか皆同じに見えるぞ。おまえだってそうだろ?」

「まあ、それはそうだけど……待って、そういうことなら」

 明日香も何かに気づいた様子だ。


「あの犯行予告って、九杖さんを護衛させるためなんじゃないかしら?」

「どういうことだよ?」

「九杖さんを脅して、異能力者が護衛についた人は九杖さんの可能性が高いわ。それに泥人間は人間の顔がわからないけど、妖術師(ソーサラー)は人の身に宿った魔力を見れる」

「ああ、なるほどな……」

 舞奈はなるほどとうなずく。


 古神術士のような呪術師(ウォーロック)は、周囲の魔力を操るから本人に魔力は宿っていない。

 施術の度に魔力を作りだす魔術師(ウィザード)も同様だ。

 魔力を見る目では、どちらも普通の人間と同じに見える。

 だが異能力者はその身に魔力を宿した少年たちだ。


 だから脅迫状を送り付けた。

 そして護衛についた異能力者を目印に『九杖サチ』を襲撃した。

 人違いだったが。


「怪異のクセに小賢しいこと思いつきやがって」

「なるほど、それなら戦術結界まで使った大掛かりな襲撃の意味がわかるわ」

 小夜子が不機嫌そうに言った。


 呪術師(ウォーロック)である小夜子本人は身体に魔力が宿っているわけではない。

 だが、念のために異能力者が同行していた。

 だから『魔力の宿った人間に護衛された、魔力のない人間=九杖サチ』と見なされて襲われたのだろう。


 対して本物の九杖サチには、魔力とは無関係な舞奈と、魔術師(ウィザード)の明日香が護衛についた。だから敵にはサチだとわからなかった。

 ある意味で間の抜けた事態ではある。


「じゃ、異能者といっしょにいる女の子が危ないな」

「あと妖術師(ソーサラー)もね。彼女らは修行によって魔力をその身に宿すわ」

「【心眼】は仏術士だけど、彼女を護衛しているのは魔術師(ウィザード)呪術師(ウォーロック)よ」

 サチが言った。


「何と何の兼任だって? Sランクってのはそういう意味のバケモンかよ」

 思わず舞奈は苦笑する。

 その途端、(おまえも同類だ)という3人の視線が突き刺さる。

 舞奈は術すら使わないのに、そのバケモノと同じSランクだと公認されているのだ。


「ま、そっちに行きたい奴は放っておいていいだろう。どうせここの酷い版みたいな目に合うんだから、ご愁傷様だよ」

 舞奈はやれやれと肩をすくめる。

 その時、むずかしい顔をしていた小夜子がはっと気づいた。


「……園香ちゃんの護衛をしてるの、仏術士の【鹿】よ」

 その瞬間、そこにいる全員の顔が青ざめた。


「なんであの娘が護衛なんかやってるんだ!?」

 執行人エージェント【鹿】とは、気弱で無力な奈良坂のことだ。 


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