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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第18章 黄金色の聖槍
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黒き災いを鎮める者

 王女たちの学校訪問の帰りにルーシアから衝撃的な事実を告げられた日から数日後。 あるいは陽キャの案内の途中で萩山らに会って、話した日の翌日。

 放課後に【機関】支部を訪れた舞奈を、


「あ~ら舞奈ちゃん、いらっしゃい~」

「おねーさんもお久しぶりー」

 化粧と愛嬌でいろいろ隠した小柄で巨乳な受付嬢が笑顔で出迎える。

 舞奈も普段通りに相好を崩す。

 そうしながらも、


「ファイクサーか技術担当官(マイスター)はいるかい?」

「ん~~。フィクサーもニュットちゃんも会議中かなぁ~」

 何食わぬ表情で問いかける。

 対する答えに「そっかー」と軽く答えながらも素早く思考を巡らせる。


 今日、舞奈が支部を訪れたのには理由がある。


 ルーシアから聞いたスカイフォールの預言。

 3人のプリンセスいずれかの血肉やその慣れ果てを欲し、犠牲を強いる現実。

 それに舞奈は抗いたかった。

 抗うための材料が欲しかった。

 糞ったれな預言のことを【機関】の識者に相談し、意見を求めたかった。

 何故なら彼女らは、舞奈の知らない、理解すらできない魔法について知っている。

 今回の預言についてももしや……と期待するのは道理の通った話だ。

 だから記憶の中から他に相談できそうな顔ぶれを探し……


「……ならソォナムちゃんか、もうひとりのSランクでもいい」

「ソォナムちゃんは出かけてて~~」

 受付嬢は珍しく勿体つけたように言いあぐね、


「諜報部の事務室に小夜子ちゃんとサチちゃんがいるけど~?」

「……Sランクちゃんもいるってことか。会議室でなければ執務室か?」

「そうだけど……あっちょっと~!」

 言って舞奈は歩き出す。


 小夜子もサチも、ソォナムと同じ諜報部の占術士(ディビナー)だ。

 だがスカイフォールの預言について、舞奈やルーシア以上の事は知らないだろう。

 それを知り得る可能性がある【機関】の面子は、巣黒支部を統べるファイクサーかその金魚のフンのニュット、預言を得手とするソォナムくらいだと舞奈は思う。


 あるいはケルト魔術と呪術を共に極めた、巣黒のもうひとりのSランク。

 ヴィランたちの黒幕とおぼしき『ボス』とやらは、例の【智慧の大門マス・アーケインゲート】の指輪を創ってヴィランたちに貸し与えた何者かと同じ人物である公算は高い。

 そいつと同じ流派の大魔道士(アークメイジ)からなら有用な情報も期待できる。

 それにケルトは欧州ではメジャーな流派だ。

 同じ欧州の魔法国家の預言についても何か知っているかもしれない。


「つばめちゃんを、いじめないでよぉ~~!」

「……あたしを何だと思ってるんだ」

 受付嬢の柄にもない大声を背中で聞きつつ、二階へ続く階段を登る。

 件の彼女の名前はつばめちゃんというらしい。

 ケルト魔術と呪術を共に極めたSランクを誰がいじめられるというのだ。

 なにせ存在自体を一般の執行人(エージェント)から秘匿されるほどの超大物なのだ。


 そして会議室が会議で使用中なら、彼女がいるのはフィクサーの執務室だろう。

 以前、あの部屋の窓から普通に猫が入ってきたのを見たことがある。

 Sランクの彼女がよくいるのだろう。

 ケルト呪術には猫を友とし操る術がある。

 もちろん支部を統括し、上層部とも接点を持つ調整役の執務室ではある。

 だが大魔道士(アークメイジ)のSランクなら半プライベートで使っていても不思議じゃない。


 そんなことを考えて苦笑しつつ、着いた先は鉄のドア。

 気配と……にゃあにゃあと鳴く猫の声で中にいるのは瞭然だ。

 会議室と似た造りで年季も入ったドアのノブに無遠慮に手をかけ、ふと思いつき、


「邪魔するぜ、子猫ちゃん」

 コンコココンッとノックしてドアを開ける。


 雑なノックと、鉄のドアを開ける鈍い音に答えたのは複数の猫の鳴き声。

 加えて蚊が鳴くように小さな少女の声。

 舞奈でなければ聞き逃してしまうほどだ。


 見やると床やキャビネットの上に陣取って思い思いの体勢でくつろいでいた毛色もサイズも様々な猫たちが、唐突な来訪者を値踏みするようにこっちを向いている。

 可愛いが、何せ数が数なので舞奈じゃなければ一瞬、後ずさったと思う。


 そんな中、来客用のテーブルの上で短足猫のマンチカンが虫を捕まえてかがみこむ。

 虫は猫の手に押さえつけられてもがく。

 だが猫が噛みついた途端に消える。

 Sランクは生物創造の魔術【生物召喚(サモン・クリーチャー)】で創った虫で猫と遊んでいたらしい。

 割と高度な術を遊びで使うあたりは流石Sランク。


 そんな彼女も目の前にいた。

 正確には、来客用のソファに埋まるように座っていた。

 印象的には猫の群にまぎれる感じか。


「あ、あの……」

 巣黒支部が誇るもうひとりのSランクは、三つ編みおさげに眼鏡の少女だ。

 身体つきは華奢で、背丈は小5の舞奈より少し高いくらい。

 高等部指定のセーラー服を着ているので辛うじて先輩なのはわかる。

 そんな彼女こそが巣黒支部が誇る、もうひとりのSランク。

 マンティコア戦の偵察で、KASC攻略戦で、彼女と轡を並べたことはある。


 彼女の信じられないような噂や戦果を耳にしたことは何度もある。

 彼女が成した奇跡のような魔法を見たことも何度かある。

 だが落ち着いて話すのは初めてだと思い出す。


「はじめまして……でいいのかな? 志門舞奈だ」

「えっと、あ、あの……。ティム……椰子実(やしのみ)つばめです……」

 差し出した手を前に、眼鏡の少女は怯えるように小さな声で返事を返す。

 自身も手を差し出そうとして躊躇している様子だ。

 顔の印象の大半を占める大きな黒縁眼鏡の奥の瞳は、おびえるような上目遣いで小5の舞奈を見やっている。


 主の緊張を感じ取ったか膝の上の猫が「ナァー」と鳴く。

 だが、いつか観た日アサのアニメの魔王みたいな威厳は欠片もない。


(ええ……)

 舞奈は手持無沙汰な手をわきわきさせながら逆に狼狽する。


 今までの挙動から薄々は感じていたが、彼女は想像以上のコミュ障らしい。

 人見知りなクラリスが普通に見えるほどだ。

 その存在が周囲に秘匿されている理由は、このあんまりな性格を余人に知られないためなんじゃないかと舞奈は思った。


 だが、まあ、困っていても仕方がない。

 舞奈だって繊細な女の子の扱いが初めてな訳じゃない。

 経験上、こういう場合は舞奈が率先して動かないと一生かかっても話が進まない。


「あんたに聞きたいことがあるんだ」

 できるだけ優しげに声をかけながら、彼女の向かいのソファに腰かける。

 華奢で小柄な女子高生の身体は抱きしめたいくらい可愛らしいが、余計なことをするとソファの隙間に逃げこんで二度と出てこなくなりそうなので自制する。

 そんなことを考えただけで彼女はビクッと震える。

 彼女も舞奈のことをいろいろと聞いているのかもしれない。

 用心深い彼女に冷静に話を聞いてもらうためには細心の注意が必要だ。


「ヴィランどものこと、あんたも知ってるはずだ」

 舞奈の言葉に、椰子実つばめは無言でうなずく。

 挙動はおどおどしているものの、淀みなく肯定する様子に安堵しつつ、


「奴ら、転移に【智慧の大門マス・アーケインゲート】の指輪を使ってた。そいつの出所を知りたい」

 静かに問いかける。


 対する彼女は博識な人間がよくするように一瞬、押し黙る。

 考えをまとめようというのだろう。

 だから舞奈も急かさずつばめの可愛らしい顔を見やって微笑むうちに、


「あ、あの……魔道具(アーティファクト)大魔法(インヴォケーション)を焼きつけられる魔術師(ウィザード)は限られてて……」

 彼女は意を決したように、たどたどしく語りかける。


「それに複数の術をこめたり量産したりできる術者となると……」

「だろうな」

「で、でも【智慧の大門マス・アーケインゲート】の指輪ってだけじゃ……」

「……だろうな」

 Sランク大魔道士(アークメイジ)の自信なさげな答えに、だが舞奈はニヤリと笑う。


 彼女はスピナーヘッドの件を知っているらしい。

 つまり必要な情報は逐次、伝わっているということだ。

 ならば話は早い。


 それに彼女が言い淀む様子は、思い当たる節はあるが確証が持てない人間のそれだ。

 テックが普段そんな感じだからわかる。

 十分に吟味して裏どりをしていない情報を真実として話したくないのだ。

 つまり目前のおどおどした少女は舞奈の知らない何かを知っている。

 そして彼女の言葉はテックのそれと同じくらい信頼に足る。だから、


「全員の指輪に同じ紋章がついてたし、そういうのからわからないか?」

 舞奈は何食わぬ調子のまま言い募る。

 慎重な識者から真実の言葉を引き出すために必要なのは、推測を確証へと変える追加の情報だ。それも舞奈が濃く短い人生で得た教訓だ。だからこそ、


「紋章のデザインがわかればいいんだけど、その、そこまで見てた人がいなくて……」

「なら、あたしが見てる。心を読めば細かいところもわかるはずだ」

 舞奈も惜しみなく自身の手札を晒す。


「えっ!? 【思考感知(ディテクト・ソウツ)】は使えるけど……」

 彼女は驚いた後、


「別にあたしは構わないぜ。知っての通りあたしは心を読む魔法に抵抗できないし、そもそも読まれるのには慣れてる」

「そういう風に言う人、珍しいね……」

 ひとりごちるように小さな声で言ってから、つばめは呪文を唱え始める。

 やはりマーサみたいに数語の呪文で施術するやり方は一般的ではないらしい。

 加えて彼女にとって読心は、クラリスやゴードン氏と違って手札のひとつ……しかも普段あまり使わない手段なのだろう。


 彼女が施術を終えた頃を見計らって、指輪を見た状況を思い出す。

 以前の作戦で戦ったクラフターが脂虫の群れを呼び出した時。

 先日に出会ったファイヤーボールが撤退する際。

 天に掲げた左手の指に光っていた指輪。そこに装飾された紋章。


「あの……。凄いですね」

「ん?」

「いえ、その……普通の人とは比べ物にならないくらい、いろんなものを些細な事まで正確に観てて、はっきり記憶してるから……」

「まあな」

 思わず、といった様子でひとりごちる彼女を見やって舞奈は笑う。


 魔法も異能力も使えない舞奈が最強でいられる秘訣のひとつは注意力だ。

 まだ最強じゃなかった3年前からそうだった。

 直観を情報に変え、生き残るための手管に変えるために注意力と記憶力は不可欠。

 常日頃から他者よりいろいろなものを見ている自覚くらいはある。

 見てるだけじゃない。

 聞いて、嗅いで、そして感じている。

 肌を通して空気が伝えてくれるもののすべてを知識と力に変えるために。


 それを改めて指摘できるあたりが、椰子実つばめもまた最強である証か。


 小さな彼女に親近感と好意を抱いた舞奈は、調子に乗って女体のことを考える。

 黒いレオタードを着こんだ、妖精のように美しいクラフターの白い四肢。

 次いで先日に出会ったファイヤーボールの躍動する身体。

 風が伝えてくれる大人の女性の匂い。温度。風を切る肉体の質感と重さ。


 もちろん目の前にいる、とびきりのカワイ子ちゃんだって同じだ。

 思わず抱き寄せて愛でたくなるような小柄で華奢な身体も、度の強い眼鏡の奥の瞳が潤む様子も、空気が伝えてくれる唇の湿度も、温度も、舞奈はずっと忘れない。

 他の女の子と同じように何度だって思い出す。


「あ、あの……ごめんなさい……指輪のこと……考えてください……」

「……すまん」

 つばめはおずおずと言い募る。

 心なしか頬が赤い。

 彼女もクラリスと同じくらい……あるいはそれ以上に、はずかしがり屋らしい。

 しかも彼女には悪い虫を威嚇してくれる妹もいない。

 だから舞奈は慌てて思考を本筋に戻す。


 少し落ち着いたつばめは再び呪文を唱える。

 途端、眼鏡の彼女の目前に何かが浮かびあがる。

 指輪だ。

 少しサイズ感が違うものの、舞奈が想い浮かべたそのままの形。

 だが実態はない。

 光学投影による幻影【幻影の像ファンタズマル・イメージ】の魔術。

 読心の魔術で読み取った舞奈の記憶を、幻影の魔術で投影したのだ。

 それをつばめは、取り出した携帯で写メに取る。


「へえ、そうやって記録するのか」

「あ、はい……。その……見たものを直に念写とかできないから……」

「なるほどな」

 そんなことを話しているうちに会議室同様に立て付けが悪い鉄のドアが開き――


「――おお舞奈ちん、来てたのだか」

「Oh! シモンデス。無事ですか? ツバメ」

「舞奈ちんや、つばめちんにヘンなことしてなかっただよな?」

「どいつもこいつも、あたしを何だと思ってやがる」

 ニュットがやってきた。

 イリアも一緒だ。


「あのねニュット、この紋章に見覚えある?」

 つばめは舞奈に対するより少し気心が知れた様子で糸目に問う。


「むむ、たしかスカイフォール王国の……」

「いや、レナちゃんたちが身に着けてるのとは違うように見えるが」

「……バッハ王子の紋章デスね。王家じゃなくて個人の印デス」

 ニュットの言葉を舞奈が遮り、イリアが答える。

 流石は海外の平和維持組織のハカセ役といったところか。


「王子ってことは、男の魔術師(ウィザード)ってことか?」

「そうデス。男だてらにスカイフォールの宮廷術士長に師事し、ケルト魔術を修めた神童だと界隈では有名だったそうデス」

「なるほどな……」

 続く言葉にひとりごちる。


 一般的に男性は異能力者になれる代わりに術者には不向きだ。

 だが才や修練によって、性差を縮められない訳ではない。

 そのような……まあ、ガッツのある男ならば、そのまま高度な魔術を会得して物品に焼きつけることができるほど習熟したと言われても納得はできる。

 そんな男がヴィランや怪異と組んで厄介事を引き起こす理由に想いを巡らせ……


「……待ってくれ。レナちゃんやルーシアさんに兄貴がいるなんて聞いてないぞ」

「いる……というか、いた、デスか?」

「彼女たちが物心つく前に姿を消したのだよ」

 思わず首をかしげたところ、そんな答えが返ってきた。

 ニュットは他国の術者のゴシップにも詳しいらしい。

 だが今は好都合だ。


「事故か何かか?」

「いんや、失踪なのだ。修業の半ばで何かあったらしいのだな。当時は舞奈ちんと同じほどの年齢だったはずだから、生きていれば今は大学生くらいの年頃だか」

「ずいぶん年の離れた兄妹だな……」

 腹違いか? とそこで尋ねるような野暮はしない。

 舞奈にとって重要なのは奴の手札と能力だ。

 ゴシップじゃない。

 王族なんだから家庭環境も複雑なのだろうと適当に解釈する。


 だが気になるのは、彼が修行の途中で失踪したという事実。

 習得の難易度の高いというケルト魔術の修業は耐えがたいほど辛かったか?

 あるいは自身の実力が周囲に認められていないと憤ったか?


 スピナーヘッドが言っていた異世界うんぬんという話は、脱落者だった彼自身を受け入れてくれる世界を作るとかそういう話なのだろうか?

 なんとなく話のスケールが小さくなったなあと少し思う。

 だが、まあ人が何かを仕出かす理由なんて、案外そんなものなのかもしれない。

 そもそも、そのバッハ王子とやらが黒幕だという確証もまだない。だから、


「じゃあさ、スカイフォール王国に伝わる預言ってのを聞いたことはあるか?」

 もうひとつの相談したかった話に、うなずいたのは3人とも。

 こちらは3人ともが既知だったようだ。

 やれやれだ。


「把握はしていた。だが成す術はなかったのだよ」

 ニュットは珍しく口惜しげに口元を歪める。

 その挙動で気づいた。


 おそらく彼女らも、このことを知ったのは騎士団の面子が釈放された時分か。

 それから支部の識者ともいえる彼女らと科学者でもあるイリアは預言による犠牲を回避すべく調査と研究を続けていたのだろう。

 だがプリンセスの犠牲なしに、来るべき災厄をしのぐ方策は見つからなかった。


「プリンセスから採取した血液には確かにWウィルスへの対抗作用があるデス」

「らしいな」

「but、その理由が突き止められないデス……」

 イリアは口惜しげに言葉を紡ぐ。

 実際に悔しいのだろう。

 飛び級で博士号をとった天才科学者としても、ディフェンダーズの一員としても。


「プリンセス以外の耐性保持者との関連性もわからないままデス。but……」

 言いつつイリアはマントから何かを取り出し、


「……くれるのか?」

「はいデス」

 舞奈に手渡す。

 眼鏡のようだ。

 割と奇抜なデザインの……良く言えばパーティーグッズっぽい代物だ。


「Wウィルスへの高い耐性保持者が光って見えるデス」

「ほう……」

 言われて試しにかけてみる。

 ニュットやイリア、つばめや猫たちは特に変わらない。

 だが目前に自身の手の平をかざしてみると、燐光に覆われている。

 なるほど、とまじまじと見やっていると――


「――その話、ルーシアちんから聞いたのかね?」

「ああ」

 ニュットが意識したとおぼしき平坦な口調で問う。

 だから、こちらも何食わぬ口調を繕って答えた舞奈に、


「なら預言には、たぶん舞奈ちんが知らない続きがあるのだよ」

「続きだと?」

 ニュットは告げる。


「うむ。プリンセスの血肉の慣れ果ては複数が集まることで威力が倍増する。ひとつより2つ、2つより3つ」

「……どういう意味だ?」

 思わず低い声色で問い正す。

 まったく気に入らない。

 もとより不吉で無慈悲な預言の続きも、好意的な解釈が思いつかないくらいに厄介で血塗られていた。


「舞奈ちんが思った通りの意味なのだよ」

 ニュットも不自然なほど事務的な口調で答える。


「――ルーシアとレナ、ルーシアとレイカ、レナとレイカの血液それぞれを混ぜ合わせると、ウィルスへの対抗作用は爆発的に増大したデス」

「糞ったれ!」

 耐えかねたようにイリアが語る。

 舞奈は思わず罵り声をあげる。


 なるほど、だからルーシアは意図的にこのことを伝えなかったのだろう。


 預言はプリンセスのうち誰かひとりに犠牲を強いている。

 舞奈は今まで、そう思っていた。

 そのひとりを選ぼうとして、そんなことはできないと思いなおして、3人すべてを救える道を探ろうと預言の秘密を探ろうとした。


 だが実際は違った。

 もっと救いのないものだった。


 最悪の場合、3人のプリンセス全員が犠牲にならなければ災厄は鎮まらない。


「糞ったれ……」

 舞奈はひとりごちる。

 つばめもイリアもニュットも、口惜しげに黙りこくる。


 それでも今の舞奈たちにできることがないのは事実だ。

 だから、今日のところは舞奈も大人しく引き上げるしかなかった。


 預言の犠牲が必要となる前に敵のWウィルスの使用そのものを阻止できるという、万にひとつの可能性を信じて。


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