王女と怪盗
紆余曲折の末にウィアードテールの中の人の護衛をすることになった翌日。
舞奈も明日香も普段通りに登校した。
そして副担任が黄緑色な以外は平和な1日が過ぎた後。
帰りのホームルームが終わった直後に……
「……ったく、さっそく呼び出してきやがった」
舞奈は携帯を見やって口をへの字に曲げる。
あの陽キャ、依頼の翌日の授業が終わる時間ぴったりにメールしてきやがった。
だが引き受けた仕事なのだから仕方がない。
バカの陽キャが何かロクでもないことを仕出かす前に、セルフで監視役に連絡してくれているのだと無理やり好意的に解釈して通学鞄を背負う。途端、
「マイちゃん。この後、時間ある?」
園香が声をかけてきた。
「どうしたよ?」
「レナちゃんたちに街を案内しようかなって思うんだけど、マイちゃんもどう?」
言いつつ舞奈を見やって微笑む。
長身でスタイルの良い彼女が舞奈と視線をあわせようとして軽く身をかがめると、ワンピースのふくよかな胸が気持ちよさそうに揺れる。
「明日香もか?」
「うん。チャビーちゃんも一緒……だよ……」
園香の答えが尻すぼみになったのは、舞奈の視線に気づいたからだ。
正直、少し涙目になっていた自覚はある。
だって、ここのところ園香と落ち着いて話す機会はなかったのだ。
当然ながら園香は舞奈の事情を知らない。
仕事で陽キャの護衛をしなきゃならないなんて夢にも思わないはずだ。
だから皆でわいわい楽しいイベントなど思いついたのだろう。
あるいは舞奈とも久しぶりに遊ぶ機会を、とも考えてくれたのかもしれない。
だがタイミングが悪いことこの上ない。
舞奈は陽キャどもより園香たちと遊びたかった。
スカイフォールの王女たちとも。
レナちゃんは妙に舞奈に当たりが強いにしても、姉のルーシアさんはおっぱいも大きくて優しくて甘え甲斐がある。
そんな思惑に、そして行けない事情に気づいたのだろう。
「ま、また今度、一緒に遊びに行こうね……!」
「ああ、楽しみにしてるよ……」
やや引き気味に園香は去って行く。
そんな園香に背中で手を振り、舞奈もとぼとぼと歩き出した。
……で、陽子たちとの待ち合わせ場所の商店街。
「やっほー」
「よく来てくださいました舞奈さん」
陽子と夜空がニコニコと笑顔で手を振る。
仕草が若干、子供じみていると思うのは中学生という肩書に期待しすぎだろうか?
対して、
「そりゃまあ仕事だからな」
舞奈の口調が多少ムスッとしているのは仕方がない。
だが先方も気づく素振りすら見せないのは意図的にか素なのか。
陽キャの陽子はともかく、夜空ちゃんの方もなんというか……天然のようだ。
「今日はあのおっちゃんはいないんだな」
ふと気づいて問いかける。
「ピーター・センは保護者だもん。いつもいっしょにはいないわよ。あなただってパパを連れて冒険とかしないでしょ?」
「へいへい」
いちいち引っかかる陽子の言葉に生返事を返し、
「で、何処に冒険しに行くんだ? お嬢さんたちは」
「えーっと……何処かおすすめはある?」
「……あたしはあんたの護衛だぞ。遊び相手を引き受けたつもりじゃないんだがな」
続く言葉に口元を歪める。
なんというか……以前に廃工場で頼りない騎士団のセンセイをしていたレディ・アレクサンドラことサーシャの気苦労がちょっとわかった気がした。
「いいからいいから。固いこと言わないの」
「てめぇ……!」
陽子は何も考えていない表情で笑う。
舞奈は思わず睨みつけながらも、悶着を起こしても別に得はないことに気づく。
なので仕方なく――
「――御迷惑をおかけして本当に恐縮なのだけど、2人をお願いします」
「まあ、あんたがそう言うんならな……」
陽キャの肩に乗ったハリネズミにほだされてため息をつく。
長い髪からちょこんと顔を出した、ピンク色のハリネズミ。
名前はルビーアイちゃんと言ったか。
実は彼女もまた混沌魔術によって形作られた落とし子だ。
便宜上の術者である本人とは真逆に良識も常識もある。
なので見た目は小動物なのに、顔つきまで理知的だ。
混沌魔術は術者本人すらを惑わす狂気の魔術。
だから使い手が最初からバカで頭がおかしいと、その被造物は逆にまともになる。
知能マイナスにマイナスを掛けてプラスになっちゃった感じか。
そもそも彼女らが異郷の街を歩く程度のことで護衛なんか必要ない。
何せ見るからにバカそうな彼女は実は神話怪盗ウィアードテールの中の人。
混沌魔術の魔道具で変身する魔法少女だ。
側の夜空ちゃんも『夜闇はナイト』を召喚する祓魔師らしい。
正直、舞奈くらいの使い手でもなければ護衛どころか足手まといだ。なので、
「ったく、遊びに来るなら遊ぶ場所くらい調べて来いよ……」
それも行楽の醍醐味だろうに。
文句を言いつつも、女子中学生が楽しめそうな場所を思い出そうとしてみる。
正直、中学生2人ががん首揃えて遊ぶ算段が小学生頼りというのも釈然としない。
だが良い意味でも悪い意味でも悪意がないのは本当だ。
彼女らとは知らない仲じゃないのも。
そして……彼女らが年頃の女の子であることも。舞奈が女の子が大好きなことも。
なので、いろいろ考えた末……
「……あそこがいいかな。こっちだ」
「まあ、どこでしょう」
「あ、ちょっといきなり歩き出さないでしょ」
「目ぇついてないのかあんたは」
文句を背中で聞き流しながら歩き出す。
陽子はせわしなく、夜空もニコニコと続く。
家があるとか車があるとか、よくそんな事でいちいち騒げるなという感じで騒々しく陽子は歩く。夜空も何も考えていない感じで楽しそうに話を合わせる。
舞奈はやれやれと苦笑しながら2人の前を歩く。
控え目にツッコミを入れるハリネズミの表情は見えない。
そんな3人と1匹がが向かう先は、いつか皆で行ったアクセサリ屋だ。
というか、舞奈がそこしか知らなかったからだ。
普段の園香とのデートはたいてい他の用事のついでだ。
なので舞奈が街で知ってるデートスポットなんて他には飯屋くらいしかない。
だから、という訳でもないのだろうが……
「……ようチャビー」
「あっ! マイだ!」
道すがら、通りの向こうに見知ったツインドリルを見かけて声をかける。
チャビーだ。
「マイちゃんだ。用事は終わったの」
「いんや、最中だ。でも会えて嬉しいよ」
「うん、わたしもかな」
園香も気づいてやって来た。
思わぬ出会いに、2人で笑みを交わし合う。
「……他の面子も揃ってるようだな」
見やるとレナにルーシア、明日香も一緒のようだ。
まあ先方もプリンセスたちに街の案内をする手はずだったのだ。
同じ目的で店に行って鉢合わせる可能性は低くない。
「そっちの子も明日香ちゃんのお仕事の子?」
「まあ……そんな感じだ」
「そっか。マイちゃんたちも大変? なんだね」
園香の問いに曖昧に答える。
陽子たちのことを、明日香は仕事の関係者だと話したらしい。
も、というのはレナたちのこともそう話してるのか。
まあ正確ではないが嘘でもない説明だ。
だが、そうすると2人の間に奇妙な共通項が生まれてくる。
どちらも明日香の『仕事の相手』。
奇しくも双方、年の頃も小中学生ほど。なので、
「わかった! ルーシアちゃんのお友達だ!」
「……いや、一国の王女に無礼なこと言ってやるなよ。不敬罪だぞ」
得意満面なチャビーの言葉に思わずツッコむ。
先方は小国とはいえ一国の王女。
対してこちらは何処の馬の骨とも知れない陽キャ。
一緒くたにするのは流石に失礼だろうと舞奈は苦笑してみせる。だが……
「あら、夜空様ではありませんか?」
「ルーシア様、お久しぶりです」
「……なんだと?」
向こうからやって来たルーシアが夜空と仲良く挨拶など始めた。
舞奈は思わず真顔になる。
「夜空、知り合い?」
「ええ陽子ちゃん。お家のパーティーで何度かお会いしたお友達なんです」
首をかしげる陽キャに夜空がにこやかに返し、
「どうしたの姉さま? いきなり走り出して」
「ふふ、月瑠尼壇のお嬢様ですよ。覚えていませんか?」
レナと、さらに後ろから明日香も続く。
園香とチャビーを放り出して内緒話の最中だったようだ。まったく。
それより夜空ちゃんとルーシアさん(レナも?)は知人だったらしい。
陽キャはともかく夜空は首都圏のご令嬢だと聞いている。
おまけにスカイフォールは術者の国。
月瑠尼壇とやらは術者を輩出している名家らしい。
上流階級同士で何らかの交友関係を築いていたと言われれば納得するしかない。
園香とチャビーの、陽子たちを見る目が変わる。
つまりは、お姫様の御友人。
舞奈は何となく納得いかずに口をとがらせる。
麗華といい陽キャどもといい、意外過ぎる奴が王家と関係ありすぎだと少し思う。
そんな舞奈の思惑など気づかぬように、
「夜空様も御散策ですか?」
「ええ。友人に街を案内してもらっていたんです」
「まあ奇遇。わたくしたちもですのよ」
「じゃあ一緒に街を廻りませんか?」
2つの組は一緒に街を散策することになった。
なら最初から全員で動けばよかったじゃないかと明日香を睨む。
明日香は無言で目をそらす。代わりに、
「マイちゃん、なんというか……お疲れ様」
「……あたしを理解してくれるのはお前だけだよ」
園香が労ってくれた。
そんなこんなで8人になった一行はかしましく歩き……
「……ここだよ」
「へー! 可愛いお店じゃない!」
「流石は園ちゃんおすすめの店ね!」
「あっ殿下」
目的地のアクセサリ屋に到着する。
陽キャとレナは周囲の迷惑とか考えない大声ではしゃぎながら、我先に店に飛びこんでいく。いちおう王女の護衛の明日香があわてて後を追う。他の面子も続く。
舞奈も見慣れた店内は、皆がはしゃぐのも少しばかり納得なファンシーな空間だ。
小洒落た什器にアクセサリーや小物が所狭しと並んでいる。
若者……というか子供向けの商品なので、ケースに仕舞われていたりとかしなくて自由に手に取って選ぶことができる。
「可愛らしい小物がいっぱいありますわね」
「ええ、まったくですわ」
「えへへ、でしょー」
夜空はルーシアと同じくらい自然にチャビーたちと仲良くなった。
まあ、それが天然キャラの持ち味だと言えなくもない。
そのように、舞奈が皆を少し離れたところから見やっていると、
「あんた、ひょっとして賑やかなの苦手?」
「……そういうんじゃないよ。見てるほうが楽しいだけだ」
陽子が隣に立っていた。
平時とはいえ気づかぬうちに隣に立たれたのは不覚。
先ほどバカみたいにはしゃぎながら店に飛びこんでいったのを見ていて油断した。
だが、それ以上に彼女と並んで話せるのは少し好都合だと思った。
何故なら舞奈は彼女に話したいことがある。
それは――
「――その、なんだ。ありがとう」
「ま、当然のことをしたまでよ!」
「……何に対して礼言ったのか理解してないだろう?」
ボソリと言った言葉に適当に返事されて口をへの字に曲げる。
だが気を取りなおし、
「あいつがおまえのサイン欲しがってた奴だ」
チャビーを見やりながら語る。
視線を追ったか、陽子も釣られて幼女を見やる。
皆には存在を秘匿することにしたらしい肩のハリネズミも。
夜空と、園香と、ルーシアたちと話ながら、屈託ない表情で笑うチャビー。
一見すると無邪気な幼女が、最愛の兄を亡くしたことを舞奈は知っている。
そんなチャビーは漫画雑誌に特集が組まれたウィアードテールのファンになった。
近場の異郷で撮影会をすると聞いて、チャビーは彼女のサインが欲しくなった。
けれど、その日は別の用事があった。
なので代わりに舞奈たちが、ウィアードテールに会いに異郷へ赴いた。
そこで予想外の悶着を片付けた舞奈たちは、ウィアードテールの中の人こと陽子に気分よくサインを貰って帰路についた。そして……
「……サイン貰って、あいつ、すっげぇ喜んでた」
口元をゆるめる。
彼女が失くしたものの代わりを見つけられたような気がして。
その手伝いができた気がして。
嬉しかったと、快くサインを書いてくれた彼女に感謝したいと思わなかったと言えば嘘になる。だから――
「――センスあるじゃない!」
「あっ馬鹿野郎! いきなりバラす奴があるか」
おまえがウィアードテールだって秘密なんじゃないのか!?
あわてる舞奈を尻目に再び飛び出していった陽キャは、
「でしょ! いちごタンメンの貯金箱!」
「それを選ぶなんて流石ね! 上が蓋になってるんだよ」
チャビーと売り物の貯金箱を肴に盛り上がり始めた。
流石は陽キャ。馴れ馴れしさでも右に出る者はいない。
だが、まあ、それが陽キャなりの親愛の表現なのだとしたら……。
舞奈は微妙な顔をして、
「蓋が開かないよ……」
「回すと簡単に取れるよ」
「わっほんとだ」
「……それで金を貯めるの難しくないか?」
貯金箱トークに横からツッコみ、
「簡単に開くんだよ?」
「いやな……」
不思議そうな顔をするチャビーにやれやれと苦笑した。
その後、一行は園香の案内でひとしきり他の店を巡って商品を物色した。
そうして歩き疲れたところを見計らって『シロネン』へと向かった。
流石は園香。
もてなしにも隙が無い。
可愛らしい内装のケーキ屋は、相も変わらず女子中高生でいっぱいだった。
きゃぴきゃぴした雰囲気をかきわけながら、女子小中学生の一行は運よく空いていた大きなテーブル席を占拠する。
舞奈が以前にこの店を訪れたのはアーガス氏に奢ってもらったときだった。
なので同じように何となく周囲の会話に聞き耳を立てて――
――映画の女優みたいな外人の娘が……
――ディフェンダーズのイリアに似た金髪の……
――ヴィランのファイヤーボールに似た女の子が……
鋭敏な聴覚が聞き覚えのある名前を拾う。
(満喫してるじゃねぇか)
舞奈は苦笑する。
イリアはともかくファイヤーボールまで。
ヴィランたちの目的が何なのかは結局、わからず仕舞い。
だが敵の規模から、仕出かすのはこの街が大きな被害を被りかねない大災厄である公算が高いというのが各組織の識者に共通した見解だ。
しかも、おそらくはWウィルスを用いた。
そんな惨事を、満喫した街に対して引き起こそうと本気でするものなのか?
ファイヤーボールがそこまで深く考えていないのか?
あるいは大規模すぎるヴィランの集団の理念と、彼女個人の考え方は違うのか?
そうだとしたら、何らかの働きかけによって、あるいは彼女を倒すことによって寝返らせることができるかもしれない。
レディ・アレクサンドラやリンカー姉弟と同じように。
そんなことをつらつらと舞奈が考えていると――
「――マイちゃんは何にする?」
園香がメニュー片手に問いかけてきた。
「ん? じゃあそのバナナのパンケーキを……」
見知った写真を見やって惰性で決めかけ、
「……いや待て、そいつは以前に食った。すまんちょっと借りるぞ」
「はーい。ゆっくり選んでね」
園香に手渡されたメニュー表を見やる。
「(あんた、意外にどんくさいのね)」
「(うるせぇ、護衛の仕事をまっとうするために周りを見てたんだよ)」
ニヤニヤ笑いながら小声で言ってくる陽子に言い返し、
「(どうせ女の子に見とれてたんでしょ? 本当に節操がないわね)」
「(いやそういう訳じゃなくてだな……)」
反対側から睨んでくるレナから視線を逸らす。
まったく、こいつらは舞奈を何だと思っているのか。
そんな舞奈たちの側でチャビーと夜空、ルーシアはニコニコ。
明日香も上品に注文を済ませる。
その後、他愛もない世間話をしている最中に供されたスイーツに舌鼓を打つ。
結局、舞奈は今回もパンケーキを選んだ。
以前に食べたボリューム感と食感が忘れられなかったからだ。
だが今回はキャラメルがかかってナッツが乗った、少しばかり上品な代物だ。
塩キャラメルの濃厚な味わいが、これまたふんわり焼き上げられた生地に合う。
コリコリとしたナッツの食感も良いアクセントだ。
園香はモンブランを頼んでいた。
フォークで上品に口に運びながら、クリームのほろ苦い味わいを語って微笑む。
そんな園香の料理の才能をレナが褒め称える。
流れで幼い頃の思い出話を語り始める。
幼少のみぎりから料理が好きで、遊びに来たレナと一緒に簡単なものを作った。
それでも失敗していたレナを、園香はにこやかにフォローしてくれた。
そんな話をレナは楽しそうに語る。
レナと園香は幼馴染だ。
どうも幼いレナは姉のルーシアと違って気性が荒く、困った親御さんが園香の親御さんと相談して、当時からできた子供だった園香の家にホームステイしていたらしい。
そんなレナも園香もあまり話したがらない事実を語るルーシアさん。
だが、にこやかな彼女の表情に時おり浮かぶ寂しげな笑み。
妹と違ってそつのない淑女に育ったルーシアには、見聞を広めるべく留学先もそつなく決まった。四国の一角にある、とある街だ。
地元の気のいいヤンキーたちは、可憐で心優しいルーシア王女の虜になった。
彼らを束ねる月輪も、異国からの客人をあたたかく迎えた。
右も左もわからぬ異国の地で、ルーシアは多くの頼もしい友を得た。
そんな男気溢れる彼女の友人たちは、ウィルスに汚染された街から彼女を逃すべく一丸となってゾンビどもに立ち向かい……全滅した。
そんなレナとルーシアが頼んだのはフルーツがたっぷり乗ったショートケーキ。
明日香も同じものを食しているので、何か吹きこんだのかもしれない。
ニコニコと話を聞いてるチャビーの前は、お気に入りのチョコレートケーキ。
濃厚なチョコレートケーキの上にバニラアイスが乗った代物だ。コクのあるチョコと冷たいアイスが舌の上で溶けて極上の味わいになると、以前に聞いたことがある。
陽子たちもそれぞれ頼んだ(意外に普通なチョイスの)ケーキに舌鼓を打つ。
そのように食事を堪能し、腹もくちくなった一行は『シロネン』を後にした。
その際に代金を、夜空とルーシアが当然のようにカードを取り出して払おうとした。
どちらも自分がおごる以外の条件で他人と外食したことがなかったらしい。
互いにおっとりと牽制し合った挙句、明日香がカードで支払うことになった。
もちろんおごりではなく必要経費として双方に請求するあたりが明日香らしい。
その後、一行は公園へ赴いた。
ベンチの隅で寝ていた野良猫を陽キャがいじり倒す様に舞奈はドン引き。
その後はベンチを占領して世話話の続きをした。
少し暇になったので、腹ごなしに皆でキャッチボールをして遊んだ。
陽子が『偶然もっていた』『ピンク色の』ボールで。
……落とし子の使命とは言え、陽キャのお守りは楽じゃないと思った。
あと夜空ちゃんとルーシアさんが、そろって思いの他どんくさかったのが護衛として不安だと思った。2人の勝負を傍目で見てる分には面白かったが。
そんなこんなで空に赤みが差してきて、
「いやー遊んだ! 遊んだ!」
陽子は笑う。
「みんなありがとう! わたしと夜空は帰るわね」
「ホテルまで送るよ」
「別にいーわよ」
「……いちおう、あたしはあんたの護衛なんだがな」
「そうじゃなくて、迎えが来たのよ」
指差した先、舞奈の背後に小太りなアメリカ人がいた。
依頼を受けた時にいた男だ。
不覚にも再び背後を取られた舞奈は訝しみつつ彼を見やる。
今度は油断したとかではなく、気配がなかった。
だが、そんな彼は何食わぬ表情で笑う。
「ピーター・セン!」
「やあ陽子ちゃん。夜空ちゃん。楽しかったかい?」
「ええ! とっても!」
「久しぶりに羽目を外しましたわ」
(久しぶりか?)
内心で舞奈がツッコむ先で、
「まーたーねー!」
陽子たち3人は去って行った。
「じゃ、ここらでお開きかな」
「わたしはルーシア殿下を大使館まで送ってくわ」
「りょーかい。そんじゃああたしは園香たちを送ってから帰るよ」
陽子の影響か少しフランクな口調で言葉を交わし、
「ちょっと志門舞奈」
「ん? どうしたよ? ……ってて」
レナに耳をつままれ少し離れた場所に連れて行かれる。
「……さっきの娘、知り合いなの?」
「ま、そんなところだ」
質問に何食わぬ口調で答える。
また園香の前で軟派な真似をとなじられると思ったら、
「――何者なの?」
真剣な表情で問いかけられた。
「さっきの彼、混沌魔術の大魔法で呼び出される外なる神の1柱よ」
続く言葉にこもる感情は、畏怖。
陽子に向けられたものだろう。
一見すると姉と同い年ほどの、だが混沌魔術の使い手。
魔法の国の王女なればこそ、混沌魔術とその使い手であるエイリアニストの恐ろしさは熟知している。まあ陽子は術者ではなく魔法少女だが。
そして、そんな相手と知人面した舞奈に対しても底知れぬものを感じている。
だが舞奈は別にそういう風に彼女に一目置かれたい訳じゃないから――
「――あいつはただの、バカの陽キャだ」
それだけ言って、レナに背を向け、
「マイー! 早く帰ろーよー」
「マイちゃん、お話は終わったの?」
「ああ! 今、終わった!」
チャビーと園香にのんびり手を振った。




