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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第4章 守る力・守り抜く覚悟
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巣黒支部

 そして放課後、舞奈と明日香は保健所の脇にある【機関】の支部を訪れた。


「あらぁ~、舞奈ちゃん、明日香ちゃんも、いらっしゃ~い」

 受付のカウンターで、小柄で巨乳な受付嬢が挨拶する。


「おう! こんちはー」

「いつもどうも」

 2人揃って挨拶を返す。

 受付嬢はニッコリ笑う。

 舞奈も笑う。


「話は聞いてるわよ~。会議室にどうぞぉ~」

「では、うかがわせていただきます」

「ほ~い」

 明日香は受付嬢に会釈しながらカウンターの前を通り過ぎる。

 舞奈は投げキスしながら明日香に続く。


 そして掲示板に貼られたポスターを見やって、口元を苦しげに歪ませる。


 本人は気づかれないと思っているし、普通は気づかないが、明日香は気づいた。

 でも気づかぬふりをした。


 この小さなツインテールの相棒は、どうでもいいことに笑ったり怒ったり文句を言ったりするくせに、本当に大事なことは決して話そうとしない。

 強く一途な想いを秘めているのに、表現がひねくれすぎていてわかりずらい。

 大人顔負けに最強で世馴れているのに、どこか不器用で危なっかしい。

 そんなパートナーを見やり、明日香は肩をすくめる。


 そうこうしながら受付から少し離れた待合室の、さらに奥の廊下を進む。

 会議室は2階にある。

 本来は執行人(エージェント)への通達や作戦会議のための部屋だ。

 だが部外者の仕事人(トラブルシューター)ながら内々の依頼を受けることの多い舞奈と明日香は訪れることも多い。勝手知ったる場所だ。


「お、舞奈ちゃん。今日は明日香ちゃんと一緒にお仕事かい?」

「おっちゃんだ。なんか久しぶりだな」

「どうも、こんにちは」

 頭頂の禿げ上がった警備員に挨拶しつつ、慣れた廊下を進む。


「そういやさ」

 舞奈が気さくに世間話を振ってくる。

 先ほどの苦しげな表情などなかったかのように。


「奈良坂さんと最初に会ったのって、さっきの待合室なんだ。あのお嬢ちゃん、弱っそうな執行人(エージェント)に絡まれててさ」

「お嬢ちゃんって……高校生よ」

「んなこたぁ知ってるよ。細かいなあ」

 明日香も舞奈に合わせ、どうでもいい会話を楽しむ。


「それに、あなたから見て弱そうじゃない執行人(エージェント)なんているの?」

「そりゃおまえ……」

 どうでもいい話をしつつ2階へ続く階段に差し掛かったところで、


「……少なくとも、あいつらじゃないことは確かだ」

 学ランを着崩したガラの悪い少年たちがたむろっていた。

 大柄なリーダーを中心に、思い思いの格好で階段に座っている。

 というか、占領している。


 ちょうど今しがた話をしていた執行人(エージェント)たちである。

 つまり、奈良坂に絡んで舞奈に痛い目を見せられた【雷徒人愚】である。

 その後に新開発区で泥人間から逃げてきた【雷徒人愚】である。

 つい先日も、生活態度を指導されて逆恨みした保護者が教室を占拠していた。


 明日香は露骨に嫌な顔をする。

 明日香はこういう無意味なトラブルが、無意味だからという理由で嫌いだ。

 対して舞奈は苦笑しつつ、


「どいてくれよ。通れないだろ?」

 めんどうくさそうに言ってみる。

 だが少年たちは、こちらを見やってニヤニヤ笑うのみ。


「……ったく、低レベルな嫌がらせしやがって」

 舞奈はぶつくさ文句を言って、


「そっちがその気なら、力ずくで通ってもいいんだぞ?」

 そう言って拳を鳴らした瞬間、少年たち全員が飛び上った。


 言ってみた舞奈もこれにはビックリ。

 明日香も思わずリーダーを見やる。

 リーダーが呪い殺されたような表情で怯えるので、あわてて目をそらした。


 恐らく最初に会った時の泥人間の集団に追われる恐怖、追っ手を一瞬で屠った舞奈と魔術を見せつけた明日香への畏怖が身体に染みついているのだろう。

 なら絡んでこなければいいのにと明日香は思った。

 生真面目な明日香は、無意味なことが嫌いだ。


 それでもリーダーは無理矢理に平静を装って、


「や、やってみろよ!」

 裏返りかけた声で叫んだ。

「と、仕事人(トラブルシューター)風情が執行人(エージェント)にケンカ売って、タ、タダで済むと思うなよ!」

「あたしはあんたらが、声を上ずらせながら絡んでくる理由が知りたいんだが?」

 舞奈は苦笑しながら問いかける。

 だが言った直後、その理由に思い当たった。


「ひょっとして、母ちゃんとケンカでもしたか?」

 先日に教室を占拠した保護者は、舞奈たちが一芝居売って追い返した。

 警察沙汰にしなかったのは、ある意味で校長の温情である。

 だが保護者たち本人はそうは思っていないだろう。

 だから帰って息子に八つ当たりしたのだ。


 明日香は思った。

 側の舞奈も人のことを言えないが、この親子はそろって知能が足りなさすぎる。

 それが証拠に、


「て、てめぇ! もう許さねぇぞ!!」

 リーダーはまっ赤になって雄叫びをあげる。

 図星だったらしい。

 その身体が気功のオーラに包まれ膨れあがる。

 増大した筋肉に耐えきれず、着ていた学ランがはちきれる。

 身体を強くする【虎爪気功(ビーストクロー)】の異能である。


 仕方なく、取り巻きたちも気功のオーラをまとう。

 リーダーのボクシングスタイルに合せた高枝切りバサミを構える。

 こちらは素早くなる【狼牙気功(ビーストブレード)】。


 その頭上を、丸々と肥えた少年が浮遊する。

 気功で空を飛ぶ【鷲翼気功(ビーストウィング)】だ。


「いや、許さないって。その後どうするか考えてから行動しろよ……」

 舞奈は凄むとか威圧するとかもせず、呆れたようにひとりごちる。

 さすがの舞奈も、高校生の度を過ぎた無思慮っぷりに困り顔だ。

 明日香もだいたい同じ心境だ。

 だから少女と少年たちは、しばらく間抜けな表情で立ち尽くしていた。その時、


「――ちょいちょいっと死人兵士エインヘリアルを作ればいいのだ。実は【勇者召喚フォアーラードゥング・エインヘリアル】の魔術の解析に成功してな。ちょうどルーンもあるし、試してみたいのだよ」

 2階から足音と話し声。

 誰か来たようだ。


「試してみるのは構わんが、死体をどうするのかね?」

「それは、こう、使えない異能力者あたりを、ちょいちょいっと――」

「流石にその発言を容認する訳にはいかないな」

「無論、冗談なのだよ」

「当然だ……ん?」

 少年たちの背後からあらわれる形になったのは、2人の女性だ。


「むむ、能力者なのだ。何か聞いたかね? 聞いてないのだな。まあ、あちしは冗談を言っていただけなので、聞かれていても何の問題もないのだがな」

 ひとりは明日香に似た長い黒髪、寝起きのような糸目の少女。

 着ているのは皆と同じ蔵乃巣(くらのす)学園の、高等部の制服だ。


 技術担当官マイスターニュット。

 巣黒(すぐろ)支部において魔道具(アーティファクト)の作成と整備を担う。

 先程、さらっと悪の狂科学者みたいなことを言ってたのは彼女である。


「たしか君たちは最近Aランクになった……ここで何をしているのかね?」

 もうひとりは、ぴっちりとした黒いスーツの妙齢の女性。

 屋内だというのにサングラスで目元を隠した、冷たい雰囲気の女だ。


 彼女はフィクサー。

 上層部の指示と意向を執行人エージェントに伝える調整役である。

 つまり【機関】巣黒(すぐろ)支部の実質的な最高責任者であり、今回の依頼人だ。


 そんな2人の権力者を見やり、少年たちは顔面蒼白になって怯える。

 なんというか、わかりやす過ぎる反応である。


「俺様たちは……オレは……ボクは……そ、その、遊んでたんです!」

 そう言い残してリーダーは風のように逃げ去った。

 取り巻きも続く。

 太っちょも続く。


「あの体格で【鷲翼気功(ビーストウィング)】なのは凄いことなのだ。あれは体重と同じ大きさまでの持ち物を運べるから、子供くらいなら楽勝なのだよ」

 ニュットがどうでもいいところに感心した。


 リーダーの足元に先程はちきれた学ランが再生し、踏んずけたリーダーは転ぶ。

 続く取り巻きがリーダーにつまずいて転ぶ。

 それらを、しんがりの【鷲翼気功(ビーストウィング)】が押して運んでいく。


「……コントのレベルが上がったな」

 笑うというより失笑しながら、舞奈がひとりごちる。

 フィクサーと明日香は少年たちを呆然と見送った。


 その直後、フィクサーは舞奈たちに気づいた。


「おお、【掃除屋】か。遅いので様子を見に来たのだが」

「すんません。ちょっと……友人にばったり会って、話しこんでたんだ」

 舞奈は苦笑する。

 明日香は肩をすくめる。


「そうか。まあ、来ていたのなら問題ない」

 先程の少年を見ていると、舞奈の言い訳にはツッコミどころが多い。

 だが【機関】巣黒支部を束ねるフィクサーにとっては些事なのだろう。

 2人の様子などお構いなしに、


「丁度いい。さっそく依頼について話したい」

 フィクサーは舞奈と明日香を会議室に連れて行った。


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