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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第17章 GAMING GIRL
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禍川支部陥落

「おーいスミス! きたぞー」

 放課後、舞奈は『画廊・ケリー』を訪れた。


 昼間に調べようとして何の手掛かりも得られなかった、遠い他県での不穏な何か。

 その答えを流石にスミスが知っているとまでは思わない。

 それでも可能な限り多くの知人と話し、何らかの答えを得てすっきりしたい。

 そんな少し明日香のようなことを考えながら、いつも通りにネオンの『ケ』の字の横線が消えかけた看板の下を通ると、


「しもんだ!」

 元気なバードテールのリコの他、


「あ、舞奈さん。こんばんはー」

「丁度良いところにいらっしゃいました」

「こんばんは舞奈ちゃん」

 奈良坂に桂木姉妹が出迎えた。

 皆で食事用の丸テーブルを囲んでいたらしい。


「……なんか賑わってるなあ」

「奈良坂さんが、おやつを作ってきてくださったんですよ」

「えへへ、わらび餅ですよ」

 言われて見やる。

 テーブルの上の大皿に盛られているのは、ぷるんとした半透明の餅だ。

 甘く香るきな粉と黒糖がたっぷりかかっている。


「うまいぞ! しもんもたべろ!」

「どれどれ、こりゃ確かに美味そうだ」

 リコに促されるまま楊枝でひとつつまんで食す。

 ゆっくりと噛みしめ、もっちりした歯切れの良い食感を楽しむ。

 きな粉のほのかな甘さと黒糖の濃厚な甘味が口の中でアンサンブルを奏でる。


「にしても奈良坂さんは凄いなあ。食べるものを自分で作れるなんて」

「いや、爽やかな顔で言われてもなあ」

 せめて味とか出来栄えとかを褒めてやれよ。

 一見するとスマートに発せられた、料理という概念すらよく知らないブルジョア紅葉のアレな発言に思わずツッコみ、


「いやあ、粉を混ぜるだけなので簡単なんですけどね」

「ま、あんたにとってはな」

 照れる奈良坂を素直に労う。

 そんな風に女の子同士で仲良くおやつを食べていると、


「あら志門ちゃん、いらっしゃ~い」

「おっスミスじゃないか」

 ハゲマッチョが椅子を持ってあらわれた。

 くねくねとしなを作りながら、テーブルの横に椅子をちょんと置く。


「イスが5こになった!」

 リコがはしゃぐ。


「裏で何かしてたのか?」

「ええ、紅葉ちゃんたちのP90とファイブセブンのメンテナンスをね」

「あの金ピカか……」

 改造銃扱いで正規のメンテしてもらえなくなったんだなあ。

 スミスの言葉に遠い目をして苦笑しつつ、


「もうすぐグラタンが焼き上がるけど、食べてく?」

「そりゃ最高だ! もちろん頂くぜ!」

 言いつつ椅子に跳び乗り、リコと一緒に足をぶらぶらさせる。

 小5の舞奈が椅子に座って足がつかないのは仕方がない。

 そして逆三角形のスーツの背中が店の奥に引っこんでいく様子を尻目に、


「例のパッチテスト、あんんたたちも受けたのか?」

 何食わぬ調子で話しを振ってみる。

 リコもいるが、まあ別に機密とは言われていない。

 それでも飯の最中にする話でもなかったかなと少し思った矢先に、


「実はわたしとハットリさんは『高い抵抗力あり』と言われました!」

「おっ凄いじゃないか」

 おやつを準備した当人が話に乗ってきた。

 自慢げな奈良坂に笑顔で相槌を打って、


「ちなみに舞奈さんと明日香さんは『ほぼ無効化が可能』だそうです」

「結果でてたのか」

「はい。技術担当官(マイスター)から聞きました」

「そりゃまあ機密じゃないがなあ……」

 続く答えに舞奈は口をへの字に曲げる。

 尊敬の眼差しを向けてくる皆の視線が嫌な訳じゃない。

 だがウィルスへの耐性は別に舞奈の努力の結果とかではない。

 加えて個人情報の大切さとか気にしててなさそうなニュットの顔が脳裏をよぎった。

 どうしようもないなあ、あの糸目は。


「わたしと姉さんは『常人程度の抵抗力』」

「つまり抵抗力なしってことですね。あと小夜子さんとサチさんも」

 紅葉と楓が特に面白くもなさそうに答え、


「もしや料理の腕前と関係が?」

「いやモヤシ炒めができるくらいで無効化できるウィルスなんか効く奴のが稀だろう」

 妄言を吐く。

 そもそも明日香も料理の腕は大概だし、サチさん料理はできるぞ。

 舞奈はやれやれと苦笑しながら楓の妄言を切って捨てる。

 そして、ふと思いつき、


「……奈良坂さんとハットリさんってことは、妖術師(ソーサラー)と関係があるんじゃないか?」

「舞奈さんは妖術師(ソーサラー)なんですか?」

「いや、そういう意味じゃなくてな……」

 言った途端に楓にツッコまれる。

 小癪にも意匠返しのつもりか。

 どうやら自分に耐性が無いのが面白くないらしい。


 だがまあ、ツッコミが的確なのは認めねばならない。

 そもそも以前にアーガス氏に聞いた話では、妖術師(ソーサラー)の一種である超能力者(サイキック)が大半を占めるディフェンダーズの面子もWウィルスの影響をまともに受けていたらしい。

 触れた途端に皮膚の色が変色し、身動きすらできなくなったと聞いた。

 まあ流石に巣黒の面子の結果だけを見て統計を出すのは無理があるのも確かだ。


「その検査って全国でやってるんだっけ? 他の支部の仏術士はどうなんだろう」

「ソォナムさんも普通だったそうですよ」

 舞奈の問いに奈良坂が答える。

 地方のおばちゃんみたいに他人の情報ダダ漏らしである。

 そんな奈良坂は、


「他の支部の話と言えば……」

 やぶからぼうに話しだす。


 なんでも先日、寺院のネットワーク経由で緊急連絡があったらしい。

 著名な仏術士が属する他県の【機関】支部との連絡が途絶えたのだそうな。


 それだけ聞くと何らかのトラブルに巻きこまれている可能性が高い。

 だが何せ要領を得ない奈良坂の話だ。

 面白おかしいゴシップとして話のネタにするには丁度良いのかもしれないが、何か行動を起こす指針にするには何もかもに信頼性がなさすぎる。


 辛うじて理解できる範囲では、問題の仏術士は地元のチーマーを束ねる僧らしい。

 割とアレな人なのだろうか?

 まあ隣県の支部ともめごとを起こしたとかでなければ良いのだが。


 にしても、流石は表向きには普通の宗教として国内に浸透した仏術士。

 そんな横のつながりまで持っているとは知らなかった。

 そんな中で、奈良坂自身の評価はどんな感じなのだろうかと興味はある。

 客観的に評価すれば、奈良坂の施術能力そのものはエリートだ。

 攻防いずれの術もそつなくこなし、中でも身体強化の腕前は並以上。

 さらには結界創造の大魔法(インヴォケーション)すら使いこなす。

 その類まれな才が、粗忽さですべて台無しになっているのも事実だが。


 ……それはともかく、近いうちに支部へ赴き、ちゃんと話を聞こうと思った。

 他にもいろいろ話したいこともあるし。

 幸いにも諜報部の中川ソォナムは、奈良坂と同じ仏術士だ。

 そして彼女とは正反対に理知的で有能だ。

 舞奈がそんなことを考える一方、


「実はパッチのウィルスを我が魔術で無力化すべく、解析しようとしたのですよ」

 楓は腕にできた小さなシミを見やりながら、


「けど駄目でした」

 苦笑する。


 まあ抵抗力の有無にかかわらず何もしなくてもシミは数日で消えるらしい。

 だが【高度な生命操作】技術を内包するウアブ魔術師であり、将来は医学部のある大学への進学を決めた彼女は腕試しをしたくなったらしい。


「不完全ながらも対抗薬を開発したというイリアさんにも、それを再現したという師匠にも、我が技量は至らぬと認めない訳にはいきませんね」

 殊勝に言った楓の口元には、だが笑み。


 術者として、医学を目指す者として、彼女は目標を見つけたのだ。

 話の流れから師匠というのはシャドウ・ザ・シャークことKAGEのことか。

 能力面はともかく人となりはあまり見習って欲しくないが、手遅れかもしれない。

 そんなことを考えながら舞奈の口元にも、まあ笑み。


 皆が自分なりに前向きに、将来を見据えて生きているのは良いことだ。

 そんな平和な世界を守るために、皆も舞奈も戦っているのだから。


 皆の様子を残り少なくなったわらび餅を食べつつ見ていたリコが、


「なあしもん。リコもパチッやりたい」

「パッチテストのことですか?」

「いや止めとけ……」

 袖まくりして小さな腕を見せながら鼻息荒くそう言った。

 奈良坂は首を傾げる。

 舞奈は苦笑する。

 そんなところに、


「おまちかね、グラタンが焼けたわよ」

「おっ! 待ってました!」

 店の奥からやってきたスミスが椀を並べる。

 いずれの椀からも、ボリュームたっぷりに盛られたチーズが溢れそうになっている。

 覗きこんだチーズには食欲をそそる適度な焦げ目。

 香る多種のチーズとホワイトソースが鼻孔を心地よく刺激する。

 なので皆もウィルスの話はそこまでにして、スミス特製のグラタンを愉しんだ。


 その後にスミスも交えて少し話をした後、皆は解散した。

 舞奈も新開発区を踏破し帰宅した。

 その様にして舞奈の1日は何事もなく終わった。


 だが同じ頃。

 巣黒から遠く離れた四国の一角。

 なのに巣黒支部に似た打ちっぱなしコンクリートのビルの一角で――


「――糞ったれ! キリがねぇぜ!」

「殺っても殺っても沸いてきやがる!」

 茶髪に特攻服姿の少年が叫ぶ。

 同じ格好をした他の少年たちも口々に続く。

 悪態の合間に、襲い来るくわえ煙草の団塊男を殴り飛ばす。


 ヤニで濁った眼をしたゾンビのような人型怪異が群れ成し迫る。

 それを粗暴だが勇敢な少年たちが押しとどめていた。


 少年たちの年の頃はいずれも中高生ほど。

 髪型は雑に染めた金髪や赤毛からスキンヘッドまで十人十色。

 手にした得物も種々様々。

 かたや炎や稲妻をまとう木刀や鉄パイプ、かたや拳だ。

 それでも皆が背の『禍川総会』の刺繍も鮮やかな特攻服を着こんでいる。


 対して襲い来るは、薄汚い野球のユニフォームを着こんだ団塊男。

 指先からカギ爪をのばし、ヤニで濁った瞳を見開き、くわえ煙草の口からよだれと煙とうめき声を漏らしながら生者に襲いかかるゾンビのような狂人ども。

 即ち屍虫。

 人型の低級怪異である脂虫が、怪異の術によって変化したバケモノ。


 カギ爪を振りかざして襲いかかる屍虫を、スキンヘッドが放電する木刀で殴打する。

 別の屍虫を【虎爪気功(ビーストクロー)】が圧倒的パワーで叩きのめす。

 だが間髪入れず、次の屍虫が喚き声と悪臭を振りまきながら跳びかかってくる。


 遠く離れた他県の【機関】支部が、群れ成す屍虫の襲撃を受けていた。

 今は辛うじて執行人(エージェント)たちが食い止めている。

 だが陥落も時間の問題だった。


 元ヤンキーの少年たちの戦闘能力は並以上。

 なればこそ脂虫が悪しき魔力で変化した屍虫を、定石より少ない人数で叩きのめす。

 まれに出現する大屍虫にすらツーマンセルで対処が可能だ。


 それでも敵の数は無尽蔵。

 街中の喫煙者が怪異と化して襲いかかってくるのだ。

 強化された拳で殴り倒しても、異能の炎で焼き尽くしても次が沸いて出る。

 そして隙あらば机や椅子を積み上げてでっちあげたバリケードを乗り越えてくる。


 対して保健所の敷地の隣に位置する本拠地に立てこもって籠城戦を強いられた少年たちの顔に浮かぶのは疲労や負傷だけではない。

 年若い彼らの顔には、拳には毒々しい色の斑点が浮かんでいる。

 大気に混ぜこまれた毒――Wウィルスに侵されているのだ。さらに、


「が、月輪(がちりん)尊師! 3番隊、全滅です!」

 別の通用口から瀕死の少年が転がりこんできた。

 全身に打撲や裂傷。

 勇ましい特攻服は破れ、ボロ雑巾のような有様だ。


 他の戦線を支える少年たちは、さらなる苦戦を強いられている。

 そんな彼の悲痛な叫びに、少年たちの間に動揺が走る。だが、


「狼狽えてはなりません」

 月輪と呼ばれたひとりの男が静かに諭す。


 細身だが鍛えられた身体を法衣に包んだ若い僧だ。

 精悍な顔立ちに引き締まった口元。

 法衣の色は少年たちの特攻服と同じ色。

 そんな彼のひと言で、皆が落ち着きを取り戻す。それどころか、


「この苦境、何としても乗り越えるのです。その暁には僭越ながら拙僧が打ったうどんを振る舞わせていただきましょう」

「尊師の手打ちっすか!?」

「野郎ども! こいつは弱音を吐いちゃあいられないぜ!」

 続く言葉で少年たちの士気を数倍にも高めてみせる。


 仏術士【月輪】は【機関】禍川支部の異能力者たちを束ねる総長である。

 支部の呼称は必ずしも県名から名付けられる訳ではない。

 だが禍川支部が、【禍川総会】が四国の一角を守護する事実は変わらない。


 異能力は若い男にのみ発言する。

 故に自身に宿った力の所以も知らぬまま徒党を組みヤンキーに身をやつす者もいる。

 そうした輩を腕の立つ仏術士が〆て舎弟とし、地元の支部の執行人(エージェント)に迎え入れることも全国的によくある話だ。

 何故なら我が国において仏術は古くからあり、地元に根付いた魔法の流派だ。

 そして熟達した仏術士の心と力は、訳もわからず異能を手にした少年たちを導き、率いるに足る。


 元巣黒支部の【雷徒人愚】もグルゴーガンに〆られた元ヤンキーだった。

 そして今まさに禍川支部を守る【禍川総会】も、若き仏術士である月輪の実力と男気に統率された勇敢な少年たちによるグループだ。


 そんな月輪は転がりこんできた少年の側に跪いて掌をかざし、真言を唱える。

 すると土気色をしていた少年の顔色が少し良くなる。

 体力を回復させる【軍荼利明王法(クンダリニナ・ダルマ)】。

 尊師が行使した奇跡の御業に、少年たちの士気も上がる。だが、


「駄目です! 県外への通信は繋がりません! 携帯どころか有線の電話も!」

 甲高い少年の悲鳴。

 バリケードの後方で、ひょろりとした眼鏡のヤンキーが凶報を告げる。


 側に転がる幾つもの携帯電話。

 奥の部屋から電話線で繋がった固定電話とノートパソコン。

 直接戦闘は苦手だが器用な彼は外部との連絡を回復させるべく奮戦していた。

 だが駄目だった。そんな彼の側で、


「ごめんなさい、魔法的な通信もすべて遮断されています」

 年若い少女が続く。

 年の頃は中学生ほどの、金髪碧眼の美しい少女。

 だが繊細な彼女の顔は無茶な施術による疲労と憔悴にやつれていた。


「……何者かに外部との連絡を妨害されているようですね」

 若き尊師は口元を歪め、


「ここは姫だけでもお逃げください」

 少女に告げる。


「奥の間に転送用の魔道具(アーティファクト)が設置されています。それを使って他県に脱出、我が支部の異変を伝え、増援を募ってください」

「ですが月輪様! わたくしの付与魔法(エンチャントメント)がなくなれば皆様方が……!」

 狼狽える少女に、


「そいつは聞き捨てならないっすね!」

「俺たちをママがいないとケンカもできないガキンチョだって言いたいんすか!?」

「そ、それは……」

 少年たちが軽口を返す。


「そ、それでは、わたくしではなく月輪様が他の支部の皆様方に嘆願を……」

「なりません」

 月輪もまた少女の言葉を切って捨てる。

 襲い来る屍虫を二重の身体強化による一撃で叩き伏せながら。


「この支部の倉庫には、我が師ベリアルの偉大なる遺産が眠っています。拙僧は、それを命に代えても奴らから守り抜かなければなりません」

「ならさ尊師! そいつを使って奴らを叩き潰してしまいましょうや!」

「そっそうですよ! ベリアル様が遺されたのなら魔道具(アーティファクト)でしょう! 同じ術者である尊師ならそれを使えるかもしれません!」

「このメガネは! セコイことばっか考えやがって!」

「ええっ!? 最初に言い出したのは俺じゃあ……」

「ふふ、我が師から遺産の詳細については聞いていないのですが、どうしようもなくなったら切り札として使わせていただきましょう」

 言って月輪は笑う。

 少年たちも笑う。


 その言葉が強がりであることは瞭然だ。

 一見すると気弱な彼女は同胞の強化と守護に秀でた付与術士(エンチャンター)

 彼女の加護があるからこそ、ウィルスに侵された異能力者たちの集団が、同じウィルスで強化された屍虫の群れに対抗できている。

 そんな彼女が場を離れれば、どうなるか。

 その結果は明白だ。


 仏術士である月輪に広範囲の仲間を強化する手札はない。

 頼みの綱の遺産とやらも、本当にあるのかすら、使えるのかすら、敵に対して有効なのかすらわからない。

 そんなことは、この場にいる誰もが知っている。


 だが故に、彼ら全員が本気が本気だとわかる。

 ヤンキーとも男気とも無縁な少女ですら。だから……


「どうせならグンマーから人連れてきてくだせぇっすよ! あそこにはベリアル様とそのお仲間様たちがいるらしくて――」

「――いや、それなら『巣黒(すぐろ)』に応援を頼むべきでしょう」

 前衛の茶髪の言葉を遮り、眼鏡君が懲りずにニヤリと笑う。


「知らねぇ県だな。日本か?」

「てめぇが知ってる県なんざぁそんなにねぇだろ!」

「いえ、県ではなく市の支部なんです」

「【機関】の支部が市に?」

「その通り! この世の魔境・巣黒市の……巣黒支部の執行人(エージェント)は全員が手練れで、戦術結界を張れるレベルの仏術士がBランクに甘んじているとか」

「なんだそりゃ!?」

「しかも、あの伝説と謳われたSランクまでいるという!」

「調子に乗って適当ふかしてんじゃねぇぞコラ!」

 眼鏡の大言壮語にヤンキーたちから怒涛のツッコミが浴びせられる。

 だが皆の顔に浮かぶ表情は凄惨な笑み。


 傷つき、疲れ、毒に侵され、それでも彼らを突き動かしているのは意地だ。

 だから他支部の根も葉もない噂に彼らは鼓舞される。

 やけくそのように。

 あるいは世界で最後の勇者たちがヴァルハラを語るかのように。

 勇気というプラスの感情が魔力となり、彼らの身体に宿る異能力を賦活させる。


「ふふっ。ならば巣黒支部の猛者に負けぬよう、拙僧も本気を出さねばなりませんね」

 言いつつ無音で念じられた経により、月輪の身体がオーラをまとって膨れあがる。

 即ち【増長天法ヴィルーダケナ・ダルマ】【持国天法ドゥリタラーシュトレナ・ダルマ】。

 仏術士が得手とする2段重ねの身体強化。

 そこに更なる魔力が加えられたのだ。


「おっ! 尊師の本気出ました!」

「姫! 早くSランクを連れてこないと、尊師がぜんぶ片付けちまいますぜ!」

「……ごめんなさい月輪様、皆。援軍を連れてすぐ戻ります!」

 少年たちの軽口に背を押されるように、少女は開け放たれたドアへと駆けこんだ。


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