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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第3章 教室がテロリストに占拠された日
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戦闘2 ~銃技&戦闘魔術vsヴードゥー呪術

「すんません……(たぎ)っちまいました」

 ベティの双眸が赤く光る。


「(……どういうことだ?)」

「(術が暴走してるわ。まったく……)」

 明日香は舌打ちする。


 ベティは呪術の才こそ持つものの、優秀な術者というわけではない。

 不完全な施術によって、術に精神を支配されてしまったらしい。

 想定外の事態である。


「(おいおい、しっかりしてくれよ……)」

 舞奈はため息をつく。


 そして、ちらりと奈良坂を見やる。

 彼女が得意とする2段重ねの付与魔法(エンチャントメント)は、ベティの術より強い。

 素早いベティを独力で捕まえることはできないだろうが、舞奈と共闘すれば拘束することは容易だ。


 だが、執行人(エージェント)は机の下に隠れようとして、友人に引きずられていた。

 思わず舞奈はジト目で見やる。

 奈良坂は無力な一般生徒として、他の生徒と一緒に大人しく退避すべきだ。


 そう思って脱力した次の刹那、ベティは嵐のような勢いで斬りかかってきた。

 仕方なく、舞奈は椅子を駆使して連撃を凌ぐ。

 椅子の背がみるみる削れ、パイプが歪む。


「まったく、ベティときたら……」

 生徒を避難させながら、クレアはぼやきく。

 服の下に提げたネックレスを引っぱりだす。

 その形状は、円と十字を組み合わせたケルト十字。


 クレアは術者ではない。

 だが、ベティの暴走に備えて【機関】の魔術師(ウィザード)から魔道具(アーティファクト)を買っている。

 ケルト十字のネックレスには、魔法消去の魔術【対抗魔法(カウンター・マジック)】がこめられている。


「(こっちの魔法消去は?)」

 舞奈は攻防の合間に明日香に問う。

「(チャンスは1回よ。むこうとこっちで1回づつ)」

 魔法消去は、異能力や魔法をマイナスの魔力によって消し去る技術だ。

 だから抵抗され、同等の術によって魔力の流れを反転させられることがある。


 魔力を『投擲』して『手放す』攻撃魔法(エヴォケーション)は抵抗されにくい。

 逆に 術者が常に『手綱を握っている』付与魔法(エンチャントメント)は抵抗されやすい。

 例え相手がベティのように未熟な術者だったとしても。


 そしてマイナスの魔力を反転されると、攻撃者が手にした術具が破壊される。

 今回の明日香ならば散弾銃(M870)だ。

 だからチャンスは1回。

 そしてクレアのケルト十字は、そもそも使いきりだ。


「(少し付き合ってあげて。術者が弱れば術も弱るわ)」

「(適当に痛めつけるってことか、オーケー!)」

 テロリスト(舞奈)は攻撃に転じる。

 椅子が唸りをあげる。


 焼きつけられていない普通の魔法は、かけた術者が傷つき消耗すると弱る。

 そして死んだり気絶すると消える。

 ベティを正気に戻すべく魔法消去を確実なものにするには、まず彼女を消耗させなければならない。


 ベティの猛攻を、ボロボロになった椅子の背のパイプ部分で受け流す。

 隙を見て狙いすました一撃を見舞う。


 舞奈は視界を制限され、明日香を肩車している。

 それでも舞奈の椅子は、付与魔法(エンチャントメント)で強化されたベティの警棒に匹敵する。

 否、凌駕する。


 その鋭い太刀筋に、生徒たちは退避も忘れてざわめく。

 もっとも、椅子を振るう舞奈の腕は社会の窓からのびているが。


 ベティの大振りを、テロリスト(舞奈)は飛び退って避ける。

 背後は窓。

 ベティは笑う。

 ささみスティックを取り出して一口かじる。


「(雷嵐のシャンゴよ、疾風のオーヤよ、力をお貸しくださいませよ!)」

 祈りの言葉を紡ぐ。

 すると、食べかけのささみが黒煙と化して霧散した。


「(舞奈、後ろ!)」

 テロリストは振り返る。


 次の瞬間、晴天の空から一条の光が落ちた。

 轟音。

 呪術による落雷だ。

 ベランダを打ち据えた稲妻の衝撃で窓ガラスが割れる。

 しかもガラスの破片は不自然な軌道でテロリストめがけて飛来する。


 だが、そのすべてが見えざる壁に阻まれて床に落ちた。


攻撃魔法(エヴォケーション)だと!? 野郎! 本気でイカレやがったか!?)

 ベルトのバックルの奥で、舞奈は口元を歪める。


 ヴードゥーにおける落雷の術は【雷の術(クー・ヘボソ)】。

 本来は雨雲から稲妻を呼び寄せる【エレメントの変成】のひとつだ。

 それを雲ひとつない空から無理矢理に呼びだすべく【供犠による事象の改変】を使った。生贄のニワトリの代わりはささみスティックだ。


 そして空気を操る【空気の術(クー・レール)】でガラスの破片の軌道を変えた。

 さしずめ天然の散弾銃といったところか。


 それを明日香が【力盾クラフト・シュルツェン】の斥力場で防いだのだ。


「た、たまたま窓の外に落雷したせいで窓ガラスが割れたな。危なかった!」

 テロリスト(明日香)はやや上ずった声でつじつまを合わせる。

「(んなたまたまがあるか! だいたい外晴れてるだろ!)」

 舞奈はツッコむ。

 赤目のベティはニヤリと笑う。


「(あンの野郎! もう我慢ならねぇ! 明日香、こっちも対抗だ)」

「(わたしが攻撃魔法(エヴォケーション)を叩きこんだら教室が火の海になるわよ。それに――)」

「(バレない小技を適当に頼む)」

「(はいはい、オーケー)」

 明日香の施術は一瞬。

 熟達した魔道士(メイジ)は、異能力と同レベルの術なら瞬時に発動させられる。


 テロリスト(明日香)はベティに、手にした散弾銃(M870)を突きつける。

 弾丸は装填されていない。


 だが咄嗟にベティは動く。

 浅黒く舞奈のように武骨な手で、散弾銃(M870)の銃口を掴む。

 傭兵として無意識にそうした。


 だが次の瞬間、銃口が破裂してベティを吹き飛ばした。


 即ち【火盾フォイヤー・シュルツェン】。

 魔法球を作りだし、球に打撃が触れると破裂して勢いを削ぐ魔術だ。

 戦車の装甲に使われる爆発反応装甲(リアクティブアーマー)と同じ原理である。

 使いきりなのと明日香が前線に出ないので使用頻度は低いが、便利な術だ。


 それを散弾銃(M870)の先端に作りだし、わざと掴ませたのだ。


 もちろん、火球の爆発は散弾とは似ても似つかない。

 だが普通の高校生はそんな違いはわからないはずだ。

 それにいちおう世の中には散弾銃用焼夷弾(ドラゴンブレス弾)というものも存在する。


 そんな火球に吹き飛ばされたベティだが、空中で一回転して机の上に着地する。

 まるで野獣のようなしなやかな動作。


 間髪入れず、ベティはテロリストの頭めがけて飛びかかる。


 テロリスト(舞奈)は横に跳んで避ける。

 爆炎の盾を使ったばかりの上半身(明日香)は、斥力場障壁に守られていない。


 狙いを外したベティは反対側の机に立つ。


 すかさずテロリスト(舞奈)が椅子を蹴る。

 椅子はベティが立つ机を削り、足元を捉える。


 だが、その寸前、ベティは跳躍していた。

 付与魔法(エンチャントメント)で強化された足のバネが、ベティを天井まで跳ね上げる。


「跳んだッ!?」

 生徒たちは驚愕に目を見開く。


 ベティは間髪入れず天井を蹴る。

 突撃。

 狙いはもちろんテロリストの頭。

 明日香を肩車した舞奈にとって、頭上は死角だとふんだか。


 だが、そう来ることは想定済み。

 頭上からの突撃を自爆させるべく、瀬戸際で飛び退る。


 ベティは焦る。

 舞奈は笑う。


 その時、クレアの足元でフリフリの何かが動いた。


(みゃー子の奴、何してやがる?)

 舞奈の意識がそれた。


 だから次の瞬間、何かにけつまづいた。

 股間を蹴られて気絶したまま放置された刀也である。


(なっ!? 野郎、こんな時まで邪魔を!?)

 心の中で理不尽な罵声を浴びせながら、テロリスト(舞奈)は転んだ。


「ちょ……!?」

 舞奈に肩車されていた明日香が、放り出される。


「警備員さんの攻撃でッ、テロリストの『胴体』が『真っ二つ』にィィィッ!」

 生徒はどよめく。

 クレアは焦る。


 そして、みゃー子は笑う。

 手にした何かのピンを抜く。

 気づいた舞奈はあわてて伏せる。


閃光手榴弾(フラッシュバン)!?)

 そう見抜いた瞬間、教室は爆発的な光と音に包まれた。


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