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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第3章 教室がテロリストに占拠された日
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ぐだぐだ2

 小さく音をたてて、奈良坂が席を立った。


 緊張に硬直した表情で、それでもぎこちなくテロリストへ歩み寄る。

 恐らく彼女の友人であろうスレンダー少女をかばうように。


 ベルトのバックルの奥で、舞奈は笑う。

 弱くで臆病な奈良坂だが、仮にも【機関】の執行人(エージェント)だ。

 友人を守らなければと必死に勇気をふりしぼったのかもしれない。


 だが明日香は、仮面の奥で舌打ちする。

 奈良坂は付与魔法(エンチャントメント)による身体強化を得意とする仏術士だ。


 身体強化は攻撃魔法(エヴォケーション)が飛び交う魔法戦においては効果が薄い。

 だが、地味なので人目を気にせず使用できる。

 しかも奈良坂は術者としてはそれなりに優秀である。

 この程度の術であれば念じるだけで行使が可能だ。


 つまり、奈良坂は自身の術を最大限に活用してテロリストを攻撃できる。

 2段重ねの付与魔法(エンチャントメント)で強化された奇襲を、かわせるだろうか?


 奈良坂は目前までやって来た。

 明日香は息を飲む。だが、


「こ、これで……」

 奈良坂はテロリストに背を向ける。


「これで、彼女のことを許してあげてください……」

 スカートの後ろの部分をたくし上げた。

 奈良坂は自分のお尻を触らせることでテロリストの怒りを鎮めたいらしい。


 明日香は戸惑う。

 なぜ彼女はこの手段を選んだ?

 というか、なぜ上手くいくと思った!?

 漫画か何かの影響だろうか?


 気弱そうに見えて、彼女は普段どんな娯楽を嗜んでいるのやら。

 他人事ながら少し心配になった。


「いや、そういう要求はしていないから」

 テロリスト(明日香)は奈良坂を席に追いやろうとする。


 だが、その時、教室がどよめいた。


「テロリストの『社会の窓』からッ! とんでもない『モノ』が……ッ!?」

 生徒たちの視線を追って、テロリスト(明日香)は足元を見やる。

 そして愕然とした。


 具体的には、テロリストのズボンのチャックが開いていた。

 そこから何かが伸びて、奈良坂の尻を撫でまわしていた。


「テロリストの『ナニ』がッ! まるで『腕』のように蠢いて奈良坂さんの尻をッ!!」

 舞奈である。

 テロリストの下半身を担当する舞奈が、手をのばして奈良坂の尻を触っていた。


「(ちょっと何してるのよ!)」

「(イテテ、やめろよ明日香)」

 明日香は舞奈の脇腹を蹴りまくる。

 たまらず舞奈は腕を引っこめる。


「『玉袋』まで揺れているッ!?」

「っていうか、動くの!?」

 女子がざわめく

「奈良坂の尻って、そんなに……」

 男子もざわめく。


「……息子が失礼した」

 とりあえず明日香は誤魔化す。

 正直、頭を抱えたい気分だった。


 その時、開けっ放しのドアの向うでフリフリの何かが動いた。


「(小室さんまで!? っていうか、何故!?)」

 仮面の奥で、明日香はアゴが外れそうになった。


「(みゃー子の奴、こんなところで何してやがる)」

 舞奈は「しっし」と犬にするように追い払う。

 生徒がざわめく。


 テロリスト(明日香)は身をかがめて、再び息子を社会の窓に押し戻す。

 そしてみゃー子を見やり、視線で(帰れ)と訴える。

 だが、みゃー子は遊んでいると解釈したか、


「にゃ~」

 鳴いた。


「ね、猫がいるのか。野良猫か? 衛生管理がなっとらんな……」

「(説教強盗じゃないんだ。もうちょっとテロリストらしいこと言えよ)」

「(うるさいわね)」

 テロリスト(明日香)は下半身を睨みつける。


「めぇ~~~」

 みゃー子は面白がって鳴きまくる。

 舞奈は中指をおったてる。

 明日香は三度、社会の窓に押し返す。


「この学校は羊も飼ってるのか? 牧歌的でいい学校じゃないか」

「(衛生管理は!? つーか、つじつま合わせなくていいんだってば)」

 舞奈がツッコミをいれる。


 だがみゃー子が機嫌を悪くして、教室内に乱入したりしたら大変だ。

 あの意味不明な天然少女は意思疎通が不可能なくせに、勘だけはやたらにいい。

 テロリストの正体が舞奈と明日香だと気づいて、バラされかねない。


 通信機から警備員組の会話が漏れ聞こえる。

 いちおう、クレアとベティはみゃー子を追い払おうとしているらしい。

 だが効果は上がっていない。


(ったく。あいつらがみゃー子を追い払うまで、ここで明日香とお遊戯か?)

 舞奈がそう思った、その時、


「ア、アテクシを無視するんじゃないザマス!!」

 厚化粧のデブが、日本刀を振り回しながら叫んだ。


「……あ」

 すっかり忘れていた保護者が、うっちゃってあった凶器を取り戻したのだ。


 無茶苦茶に振り回される刃物に、生徒たちは教室の後ろに逃げる。


 教室後ろに避難した体育教師に気づいたか、保護者たちが走る。

 だが厚化粧デブが転んだ。

 蹴り倒された椅子に足をとられたのだ。


 デブが持ってた日本刀が、手から離れて宙を舞う。

 その先は、呆然と目を見開く体育教師。

 鋭く回転しながら教師めがけて飛来する凶器を、誰もが呆然と見やる。


「野郎!」

 咄嗟に反応したのは舞奈だ。


 社会の窓から手を伸ばし、机上のシャープペンをつかんで投げる。

 きらめく筆記具は目にもとまらぬ速さで飛ぶ。

 そして、回転する刃の中心をあやまたず穿った。


 二つにへし折られた日本刀の柄は床を転がり、刃は手近な机に突き刺さる。


 体育教師は無事だ。

 舞奈は、教師は、生徒たちは、ほっと一息つく。

 だがテロリストの不自然な挙動に、生徒のひとりが叫んだ。


「テロリストのナニの先からッ! 何かびゅぴゅっと出てカタナを『迎撃』したッ!!」

 はた目にはそう見えることもあるだろう。

 舞奈は銃だけでなく、投げナイフも超一流だ。

 神速で投げられたそれを、シャープペンだと見抜ける者などいない。だが、


「しかし何故『テロリスト』がッ! 『先生』を守るようにカタナを止めるッ!?」

 疑問の言葉につられて、他の生徒も首をかしげる。

 舞奈は舌打ちする。


 この茶番の目的は保護者の退散、そして体育教師の保護だ。

 だが、そのことがバレてしまったら作戦は失敗だ。

 保護者はヘソを曲げ、舞奈たちも厄介な状況になる。


 なんとか誤魔化す方法はないかと、明日香も考える。

 だが良い策は思いつかない。

 だから万事休すと思われた、その時、


「動くな! 警備員だ!」

 教室のドアがこじ開けられ、2人の警備員が転がりこんできた。


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