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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第3章 教室がテロリストに占拠された日
31/578

突入

「不良どころかテロリストになっちまった。いいんちょが見たら泣くな」

 舞奈は愚痴る。

「……本当に大丈夫なのか? なんか不安しかわかないんだが」

 だが、その表情は見えない。


 舞奈は明日香を肩車していた。

 そして校長から借りたズボンを穿いていた――というよりすっぽり入っていた。

 若かりし頃の校長のズボンは当時の体型に合わせた特注品だ。

 縦も横も舞奈の身体より大きい。

 その上から、ベルトのバックルっぽい感じで仮面をかぶっていた。


 二人羽織のスーツ姿は体型的に不自然極まりなく、テロリストというより人化に失敗した怪異か地球外生物に見える。


「他に方法がないんだから、仕方がないでしょ」

 テロリストの上半身役を務める明日香は、校長のスーツを着ていた。


 こちらも顔を隠すため、クレアから借りたオペラの仮面をかぶっている。

 目の部分に細いスリットの入った、のっぺりした仮面だ。

 仮面の中には通信機が仕込んであって、舞奈と明日香、待機しているクレアとベティで会話できる。


 そしてテロリストには武器が必要だろうということで、緊急時に備えて警備員室に常備してあるポンプアクション式のショットガン(レミントン M870)を持っていた。

 もちろん弾は抜いてあるが。


 明日香の親が営む【安倍総合警備保障】は、【機関】と同じく国家そのものと関係の深い、ある意味で法を逸脱した存在である。

 更に海外のネットワークを活用し、【機関】に多種多様な武器を納入している。

 いわば【機関】の生命線だ。

 それ故に関係者は、本来ならば銃刀法に抵触する実銃を携帯することも可能だ。


 それなのにPTA役員の保護者には手も足も出ないという。

 学校という組織はよくわからない。


「……たく、高等部が真面目ちゃん揃いで良かったよ」

「そうね。本当にテロ行為をするのも馬鹿馬鹿しいし」

「口封じしようとすんな」

 そんな話をしながら高等部の廊下を歩く。


 実のところ、明日香は【迷彩(タルヌンク)】の魔術を使って透明になることができる。

 だが透明化の魔術は自分自身と、自分の体重以下の所持品にしかかからない。


 なので二人羽織のテロリストは、普通に廊下を歩いていた。

 近隣の教室で授業中の教員には連絡が行っているらしく、廊下側のドアを閉め切っていてくれたのが幸いである。


 明日香を肩車してズボンにすっぽり入っているのに、舞奈は普通に歩く。

 ベルトのバックルの隙間から、少しばかり視界は悪いが外を見ることはできる。

 それに舞奈は優れた感覚を誇る。

 ズボンの生地越しに周囲の状況を知覚するなど造作もない。


 だから何気に歩きつつ、頬に当たる太ももの感触を堪能する。

 明日香もトレーニングこそしているが、舞奈のような鋼鉄の肉体には程遠い。

 すべやかで、ほどほどに鍛えられた弾力のあるふくらみが、園香の胸とは一味違ったやわらかさで舞奈の頬を挟みこむ。

 思わず口元に笑みを浮かべる。その時、


「ちょっと、ごそごそ動かないでよ」

「携帯くらい取らせろよ。テックから連絡だ」

 舞奈はテロリストの下半身役だ。

 舞奈の上半身は、すっぽり被ったズボンの腰のあたりにある。

 だから舞奈が腕を動かしたり、明日香が足を動かしたりすると、はた目には息子が暴れているみたいになる。


 だが舞奈は構わず社会の窓から手を出して電話に出る。

 傍から見ると酷い絵面だ。


『舞奈、教室を占拠した保護者の身元がわかったわ』

「さっすがテック様、あたしらが階段を上るより速い。で、どいつの親よ?」

『高等部の執行人(エージェント)らしいわ』

「……ったく、バイトに夢中で勉強ほったらかしてたのか」

 ベルトのバックルの奥で、舞奈は舌打ちする。


『成績も生活態度もすこぶる悪くて、授業に出ないことも度々あったみたい。【機関】の活動とは関係なくね』

「そいつを指導されて、逆恨みしたってとこか」

『あと余談だけど、担任教師はあのクラスの担任じゃないわ』

「とばっちりじゃねぇか。ったく、親子そろって頭に脳みそ入ってないのか?」

 そんなことを話しているうちに、問題の教室の前に到着した。


 クレアとベティはまだ来ていない。

 まあ、テロリストが教室を占拠する前に警備員が来ていたらおかしいだろう。


『お、落ち着いてください……!! その、刃物を仕舞って……』

『あてくしが興奮しているって言いたいザマスか! あてくしを馬鹿にしてるザマスか! それが保護者に対する態度ザマスか!』

『そうザマス! 生意気ザマス!』

「お。さっそく大騒ぎしてやがるな」

 教室の中からは、保健体育の教師のか細い声と、保護者のものらしい中年女性の怒号が漏れ聞こえる。


『い、いえ、そんなつもりでは……』

『だいたいなんざますか、そのやる気のないジャージは! 教育者たるもの……』

 声も見た目も中学生みたいな体育教師が、ひたすら詫びる。

 中年女はヒステリックに喚きたてる。


「なあ、明日香さんよ」

「何よ?」

「……保護者って、大人なんだよな?」

 仮面の形のバックルの奥で、舞奈は表情を引きつらせる。


「大人がみんな子供より賢くて理性的なら、世の中はもっと良くなってるはずよ」

 明日香は冷ややかな声で答える。

 心なしか、仕掛ける前から疲れているような声だった。


「……ま、いいや。情報通り、相手は3人。教卓のところに固まってる」

 舞奈は声と物音だけで、敵と味方の位置を把握する。

「そんじゃ、行くとしますか」

「オーケー」

 テロリストの上半身を演ずる明日香はドアに手をかける。

 そして、


 バァァァァン!!


 教室のドアを力いっぱい引き開けた。


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