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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第3章 教室がテロリストに占拠された日
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依頼2 ~教室奪還

 担任に呼び出された校長室で、舞奈は肩をすくめた。


 高等部の教室が、武装した保護者に占拠されたという。

 保護者はPTAの重役だから、警備員も警察も手が出せない。


 それでも舞奈たちは、その保護者とやらをどうにかしなければいけない。

 つまりテロリスト化した保護者の機嫌を損ねないよう教室から追い払う必要がある。

 けっこう無茶ぶりである。


 側では明日香が思案にふけっている。

 生真面目な彼女にとって、この案件は実家の名誉にかかわるからだ。


 もちろん舞奈も考える。

 4時間目が終わるまでに教室に戻らないと、給食を食べられないからだ。


 正直、舞奈だけなら無関係だと言い張れば教室に戻ることもできそうである。


 だが、そうするのは何となく気に入らない。

 仕事人(トラブルシューター)の仕事では無敗無敵のSランクとしてちやほやされているせいか、トラブルから逃げだすと何かに負けたような気がして気分が悪い。だから、


「……あ、校長。相手さんがお煙草をお吸いになるってことはないっすよね?」

「それはないっす。臭いがしなかったんで」

 答えたのはベティだった。

 ハイチ出身の彼女は、傭兵でありながらヴードゥー女神官(マンボ)の才を持つ。

 ヴードゥー呪術ではゾンビの材料として脂虫を使うから、神官は件の悪臭を嗅ぎ分けることができる。


「あんたが言うならそうなんだろうな。ちぇっ、いい案だと思ったんだが」

「志門くん。暴力的な人間が、ひとり残らず喫煙者だという訳ではないんですよ」

「だいたい相手が脂虫だったとして、生徒の目の前で爆殺できる訳ないでしょ」

 校長と明日香から同時にツッコミをもらう。

 舞奈は凹む。


 だがすぐに立ち直る。


「そんじゃさ、あれだ、別のテロリストやなんかを放りこむってのはどうだ?」

「よけいに騒ぎを大きくしてどうするのよ?」

「最後まで聞けよ」

「言ってみなさいよ」

「どさくさにまぎれて保護者とやらも放り出しちまうのさ」

「……聞くだけ馬鹿だったわ」

 明日香は肩をすくめ、諦めの視線を舞奈に向ける。

「じゃ、おまえも意見言ってみろよ」

 舞奈は口をとがらせる。だが、


「まあまあ、安倍くん。保護者を救出あるいは保護するという名目であれば、警備員さんにお任せしても角は立たないでしょう」

 校長が温和な顔で言った。

 舞奈はニヤリと明日香を見やる。


「じゃ、テロリスト役はどうするのよ?」

 明日香はそんな舞奈を睨み、むずかしい顔で問いかける。

 舞奈は仕方なく、校長室にいる人物を順繰りに見回す。


「校長……は無理か」

 若かりし頃なら悪人役も喜んで引き受けたであろう彼も、今や小さく萎びた老人だ。足腰の立たないテロリストにリアリティはない。

 それに生徒も保護者も、校長の背格好をよく知っている。

 顔を隠すのは当然として、少しばかり服を変えても誰かに見破られるだろう。


「じゃ、先生か?」

 若い頃に古武術を嗜んでいたという担任は、弱いながらも体格は良い。

 だが彼も保護者に背格好を知られている可能性がある。

 テロリストの扮装をして暴れている最中に万が一にも正体がばれて、それが教員だった場合には残りの人生が多分終わる。

 こんなどうでもいい事件のために、そんな危険を冒すべきではない。


「そんじゃ、クレアさんとベティさん?」

「いや、あたしらがテロリストに扮したら、誰がそいつを捕まえるんすか?」

 ベティのいう通りである。


「ちょっとは考えて喋りなさいよ」

 明日香は冷たい声でつっこみをいれる。


 その言葉に、3年前にも仲間から同じことを言われたことを思い出した。

 まるで幼かった3年前から、舞奈が成長していないみたいだ。

 懐かしい過去を思い出したのに、ちっとも楽しい気分になれなかった。


「じゃ、誰がやるんだよ」

 舞奈はむくれる。


 そこに、その場にいる全員の視線が集まった。


「そういうのは、言い出しっぺがするものでしょ?」

 明日香が冷たい声で言った。


「そうっすね。万が一正体がバレても、舞奈様ならいたずらで済みますし」

 ベティがニヤニヤ笑いながら言った。

 この考え方は【機関】と同じだから、まあ理解はできる。

 執行人(エージェント)の大半が未成年なのは、異能力があるからという理由以外にも、彼らがしくじった際に少年法を盾にして事件をもみ消しやすくするためでもあるのだ。


「けどなあ、小学生のテロリストって時点でいたずらにしか見えないぞ。怖くなかったら警備員が来れないんじゃないか?」

 舞奈はいちおう抵抗して見せる。だが、


「その点なら心配ないですよ」

 校長は温和に言って、立ち上がる。

「こう、志門さんが安倍さんを肩車すれば、ちょうど大人くらいの背格好になりますよね。二人羽織のテロリストなんて、楽しそうじゃないですか」

「校長、めっちゃ楽しんでるっすね……」

 舞奈はげんなりする。

 だが役目を舞奈に押しつけたつもりでいた明日香が苦虫を噛み潰したような表情をしたので、ちょっと溜飲が下がった。


「だいたい、服はどうするんすか?」

 舞奈はジト目で校長に尋ねる。

 校長は部屋の隅のキャビネットの引き出しから何かを取り出す。

 萎びた爺は、どことなくウキウキしていた。


「これは私が若いときに使っていたスーツです。サイズも大きいですし、裾と袖をまくれば十分に二人羽織できますよ」

 笑顔で言って、きちんとたたまれた地味な色のスーツを差し出した。

 若かりし頃の無軌道さは、萎びた爺になっても健在だったらしい。

 舞奈はちょっと自分の発言を後悔した。


「よく考えれば、そもそもあたしにこの仕事を引き受ける理由もないんだが……」

「理由ならあるわよ?」

 明日香は舞奈に、死なばもろともみたいな笑みを向けた。


「わたしがあなたを雇うもの」

「雇うだと?」

「ええ。報酬は、賭けの負け分をチャラにすること。悪い条件じゃないでしょ?」

「へいへい、了解したよ」

 舞奈は観念して、肩をすくめてみせた。


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