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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第2章 おつぱいと粗品
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戦闘2 ~戦闘魔術vs祓魔術

大魔法(インヴォケーション)を防いだ!?」

 2段構えの防御魔法(アブジュレーション)によって必殺の呪術を防がれ、驚きに目を見開くアイオス。


「……お嬢ちゃん、珍しい魔術を使うのねン」

 だが、動揺を誤魔化すように妖艶に笑う。

「ルーン魔術と、東洋に伝わる仏術の合わせ技ってところかしらン。そのおカタい術式からすると、バックに軍か民間軍事会社(PMSC)がいるわねン?」

 熱のこもった視線とは裏腹な冷静な分析に、明日香は舌打ちする。


 アイオスの言葉は真実だ。

 明日香の魔術は戦闘魔術(カンプフ・マギー)

 大戦中に第三帝国と旧帝国陸海軍が共同開発した魔術系統である。

 陰陽道をベースにして、本来は妖術師(ソーサラー)の御業である仏術と、精密な施術が可能なルーン魔術を合一させた戦闘用の魔術だ。

 彼女が旧ドイツ製の銃を多用するのもそのためだ。だが、


「手品の途中で種明かしはしない主義なの」

 明日香は不敵に笑う。

「あら、つれないわねぇン。なら、お姉さんも本気を出しちゃうわよぉン」

 言うなりアイオスは、修道服の大きく開いた胸の谷間に手を入れる。


大魔法(インヴォケーション)の行使を本気ではないと言えるほどの奥の手を持っている?)

 明日香は警戒する。

 

 そんな明日香の目前で、アイオスはたわわな胸をふるわせて十字架を取り出す。

 磔の裸婦を意匠された大ぶりな十字架。

 その一辺を引き抜く。中身は刃。

 十字剣だ。


 そして聖句を唱える。

 刃がまばゆい光を放つ。

 即ち【アブラハムの剣エペ・デュ・アブラアム】の呪術。

 旧約聖書においてアブラハムの子イサクを贄とした寓話の再現である。

 飢えて渇き、贄を求め、斬った相手の生命を喰らい魔王(デミウルゴス)へ捧げる凶刃。

 剣の形こそしているが、一撃必殺の攻撃魔法(エヴォケーション)である。


 魔法勝負に分がないと悟り、【サムソンの怪力フォルス・デュ・サムソン】頼りの接近戦を挑む気か。

 だが構わず、明日香は両手で構えた小型拳銃(モーゼル HSc)の銃口を向ける。


「まぁ恐いン。……でもね」

 アイオスは走る。

 小口径弾(32ACP)程度なら天使の筋肉で止められるとふんだか。


 構わず撃つ。

 胸と頭を狙った容赦ない連射。


 アイオスは剣を前にかざす。

 だが、そんなもので銃弾を切り払えるのはギャグ漫画の剣士だけだ。


 にもかかわらず、弾は空中で停止し地に落ちた。


(障壁?)

 呪術による不可視の壁が張り巡らせてあったらしい。


(……けどアモリ派の祓魔師(エクソシスト)に力場を作る術はないはず。神術の【護身神法(ごしんしんぽう)】?)

 障壁を貫くべく斥力場の弾丸を放とうとして、躊躇する。

 拳銃(HSc)にこめられた荼枳尼天(ダーキニー)の魔術は、使用する度に大量の魔力を消費する。

 そして不足分を術者の体力で埋め合わせる。

 外せば後がない。


 躊躇の隙に、アイオスが駆ける。

 詠唱の暇すら与えず距離を詰める。

 天使の筋肉を最大限に活用した、人間の身体能力では不可能な加速。


 アイオスは明日香の目前に迫る。


魔道士(メイジ)どうしの戦闘で油断は禁物よン。相手がどんな手札を持っているのか読みきることなんてできないンだもの」

 剣を手にして不敵に笑う。だが、


「……その通りね」

 明日香の言葉と同時に、アイオスの笑顔は凍りついた。


 幾重もの銃声。


「なんと!?」

 アイオスは跳び退る。


 明日香の側には銃を構える4つの影。

 突入前に召喚し、影の中に潜伏させておいた式神だ。


 式神とは、魔力により因果律を歪めて『そこに存在したことに』された存在だ。

 魔力を固めて作られた天使より遥かに緻密で、そして強力だ。

 その中でも【機兵召喚フォアーラードゥング・ゾルダート】は、生成した魔力によって空間と因果を歪め、銃を携えた兵士が『存在したことに』する召喚魔法(コンジュアレーション)である。

 明日香が廃ビルの外で行使していた術がそれだ。


 魔法戦で相手の手の内を読み切れないことなど、明日香にとって常識だ。

 だから用意周到に、より多くより強力な手札をかき集めて隠し持つ。

 だからこそ、圧倒的な技量によって敵を討つ志門舞奈と並び立てる。


 式神の手の中でギラリと光る4つの銃口は、旧ドイツで多用された短機関銃(MP40)

 世界を敵に回して開発された破壊の魔術を操る戦闘魔術師(カンプフ・マギーア)が、身体を強化して障壁を張り巡らせた祓魔師(エクソシスト)を牽制するには十分だ。


 銃声、銃声、連なる銃声。


 火を吹く短機関銃(MP40)が、不可視の盾に無数の銃弾を叩きつける。

 アイオスはたまらず後退する。


 障壁の中から斬ることはできない。

 だから攻撃するためには一瞬だけ障壁を消さなければならない。

 その一瞬で、銃弾の嵐はアイオスを引き裂くことができる。


 だからアイオスには障壁を維持し続ける以外の道はない。

 魔術師(ウィザード)は持続する術が不得手だが、高度な魔術によって因果律を歪めることで魔力を循環させる式神に、その制限は当てはまらない。銃弾も無限だ。


 アイオスの剣から光が消える。

 刃を光に変える【アブラハムの剣エペ・デュ・アブラアム】の維持は、攻撃魔法(エヴォケーション)を撃ち続けるに等しい。

 威力の割に消耗が凄まじく、さらに機関銃の銃身(バレル)のように刀身を摩耗させる。


 一方、明日香はケープの内側に拳銃(HSc)を仕舞う。

 クロークの留め金代わりの髑髏に手を当てて咒を紡ぐ。

 髑髏が漆黒の輝きを放つ。

 魔力と斥力を司る荼枳尼天(ダーキニー)の咒。

 拳銃(HSc)にこめられた魔術と同じイメージを源とし、だが逆の効果を持つ魔術。

 それがクロークの内側に収められたドッグタグの魔力を活性化させる。


 次にドッグタグを吊るしたベルトを取り出す。

 帝釈天(インドラ)の咒を唱えながらベルトを思いきり高く放り投げ、「災厄(ハガラズ)」と唱える。


 途端、頭上を舞う64個の【災厄(ハガラズ)】のルーンが目もくらむ光を発した。

 それらすべてが眩い球電と化す。

 そして轟音を振りまきながら、尾をひく紫電となってアイオスを襲う。

 先ほどの【神罰の嵐タンペット・ドゥ・ネメジス】に匹敵する、破壊の権化。


大魔法(インヴォケーション)ですらないただの魔術が、その威力!?」

 不可視の障壁で雷弾の奔流を防ぎつつ、アイオスは驚愕に目を見開く。


 魔術師(ウィザード)付与魔法(エンチャントメント)が不得手だが、戦闘魔術師(カンプフ・マギーア)は【物品と機械装置の操作と魔力付与】によって金属片に魔力を焼きつけることができる。

 アイオスのロザリオと同じだ。


 そして【雷嵐(ブリッツ・シュトルム)】の魔術は、そうした技術によってドッグタグに付与しておいた魔力を一斉に解き放ち、無数の雷撃によって対象範囲を焼き尽くす。

 いわば64個のロザリオを使いつぶすに等しい必殺の魔術。

 その火力はロケット砲の一斉掃射に等しい。


 大戦中に開発された戦闘魔術(カンプフ・マギー)は、他の流派と比べて歴史が浅い。

 だが刀剣に圧勝する程度の古い魔術や呪術と比較して、近代兵器との戦闘を視野に入れた戦闘魔術(カンプフ・マギー)の攻撃力は桁が違う。


 そして一定範囲を隔離するアイオスの結界は、明日香にとっても好都合だった。

 対人攻撃にしては過剰な対兵器用の攻撃魔法(エヴォケーション)を、周囲への影響などお構いなく放つことができるのだから。


 さらに明日香は、クロークの内側から小振りな錫杖を取り出す。

 聖なる杖【双徳神杖ツヴァイ・トゥーゲント】を起動すべく偉人の名を唱える。

 それは理知を極めた占星術師と、徳を極めた密教の聖者。即ち、


「ハヌッセン・文観(もんかん)

 錫杖の柄がひとりでに彼女の背丈ほどの長さにのびる。

 杖の先端で、髑髏が金属質に輝く。

 髑髏を囲う輪形に通された16個の遊環が、シャランと涼やかな音色を奏でる。


 明日香は式神による短機関銃(MP40)の援護を受けて走る。

 走りながら、火炎の顕現たる不動明王(アチャラ・ナータ)の咒を紡ぐ。

 そして両手に構えた双徳神杖ツヴァイ・トゥーゲントの先端を女に向けて「放射(ケーナズ)」と唱える。


 容赦なき【火炎放射フランメン・ヴェルファー】の魔術によって、杖の先端から灼熱の業火が噴き出した。

 爆炎が女を包みこみ、ドーム状の障壁の表面を炎の舌が這いまわる。

 由緒ある火炎放射の作法にのっとり、知る限りの罵声と罵倒を叩きつける。

 さしものの障壁も熱を完全に遮断することはできない。

 オレンジ色に照らされ汗にまみれた女の顔が、恐怖に歪む。


 ガラスが割れるようなパリンという音。

 世界は元通りの崩れたビルの一室へと変容した。


 障壁が砕ける手ごたえとともに女の腰がビクンと震える。

 そして、修道服の足元に千切れた縄のまわしが落ちる。

 この注連縄が、彼女の強固な障壁の礎となっていたのであろう。


「投降を勧告するわ」

 明日香は、尻餅をついたアイオスの鼻面に双徳神杖ツヴァイ・トゥーゲントを突きつける。

「あなたの身柄は未登録怪人として【第三機関】へ引き渡します」

 明日香は笑う。アイオスは力なく頭を垂れる。


 そして、ニヤリと笑った。


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