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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第11章 HAPPY HAPPY FAIRY DAY
201/579

追憶 ~執行人vs脂虫

――ごろごろにゃんこ~♪ ごろにゃんこ~♪

――にゃんにゃん♪ ごろごろ♪ ごろにゃんこ~♪


 閉店間際の『太賢飯店』。

 人気のない店内には、珍しくBGMが流れていた。

 双葉あずさの『こねこのいちにち』。


 そこで張は、少し早い店じまいの準備をしていた。


 双葉あずさ――張梓は先日、例の殺害予告の犯人に襲われた。

 友人との買い物の途中だった。

 犯人は怪異と化したが、同行していた鷹乃が食い止めた。

 そして駆けつけた舞奈と明日香、【協会(S∴O∴M∴S∴)】の魔道士(メイジ)が倒した。


 だから梓は怪我ひとつしていない。

 大事をとって病院で検査を受け、今日は学校まで送って行った。


 だが張は、襲撃を予見できなかった。

 梓への危険を焦点にした占術は、娘の友人である美穂を狙った襲撃を見落とした。


 すべてが終わった後、舞奈は言った。

 梓の危機に自分が駆けつけることは決まっていたのだから、そもそも誰にも危機は迫っていなかったのだと。ただ愚かな襲撃犯が勝てない敵に挑んで死んだだけだと。


 それでも張は、自分が不甲斐ないと思った。

 まるで、あの時のように……


――あ~さだおはよう♪ おきにゃんこ♪

――まえ足ペロペロ♪ みづくろい♪

――マ~マといっしょに♪ あさごはん♪

――ミルクをペロペロ♪ うまにゃんこ♪


――ごろごろにゃんこ~♪ ごろにゃんこ~♪

――にゃんにゃん♪ ごろごろ♪ ごろにゃんこ~♪


 楽しげに歌う娘の声に寄りかかるように、張は思索にふけりながら皿を洗う。

 そのとき、立てつけの悪いドアがガラリと開いた。


「いらっしゃいアル」

 張はあわてて笑顔を取り繕う。


 そこには、ひとりの女がいた。

 スーツ姿でサングラスをかけた、冷たい雰囲気の女。


 女はカウンターの隅の席に座る。

 そして、しばし無言のまま、壁に貼られたメニュー表を眺める。

 張は皿を洗う。


「……餃子」

 女は懐かしむような口調で、ひとりごちるように言った。


「水餃子と焼き餃子があるアルけど、どっちにするアルか?」

 張は口元に笑みを浮かべて尋ねる。

 女はそれに答えない。


 だが張は遠い目をして――


「――その名前で呼ばれるのは久しぶりアルよ。10年ぶりくらいアルかな」

「9年だ」

 懐かしむような張の言葉を、女は冷たい声色で訂正した。

 女はフィクサーだった。


「そして君が【機関】を去ったとき、あの子は3歳だった」

 そう言って、懐かしむように笑う。


「そうだったアルな……」

 張も笑う。


「皆は元気アルか?」

「チャムエルは【期間】を去った。ミストレスは人事部に移動したが、グルゴーガンとプロートニクは今でも現役だ。もっとも去年、他支部に転任したがね」

「そして君は巣黒(すぐろ)支部の責任者アルか。けど、あの頃と変わらないアル」

「世辞のつもりかね?」

 フィクサーは笑う。


「君は少し太ったようだな」

「あれから9年たったアルからね」

 張は料理を準備しながら。

 フィクサーは店内を見回しながら。

 別々の方向を向いているのに同じ表情で笑う。

 かつて彼と彼女らが、そうだったように。


――おひるはなかまと♪ むれにゃんこ♪

――じゃれっこ♪ かけっこ♪ おにごっこ♪

――しろねこ♪ くろねこ♪ みけねこも♪

――み~んななかよく♪ ともにゃんこ♪


――ごろごろにゃんこ~♪ ごろにゃんこ~♪

――にゃんにゃん♪ ごろごろ♪ ごろにゃんこ~♪


「あの時ワタシが、もう少し早く動いていたら、梓には母親がいたかもしれないアル」

「残念ながら、その可能性は限りなく低い」

 悔やむような張の言葉を、フィクサーは切って捨てる。


 脳裏に浮かぶのは、張が梓の父親になった日の記憶。

 そして張が【機関】を去った理由。


「当時の君の戦闘能力では奴を倒すことはできなかった。先行しても犠牲者がひとり増えただけだろう」

「手厳しいアルね」

「これでも判断が手ぬるいと自負している」

 フィクサーもまた自虐的に、口元を歪ませた。


「……そのせいで、たくさんの若者たちの命を失った」

 サングラスで隠した胸中をよぎるのは、1年前に儀式の贄にされた陽介たち。

 三剣悟との戦闘で全滅したAランクの異能力者たち。そして……


「それはワタシも同じアルよ」

 張も口元を歪ませ、


「一樹ちゃんや美佳ちゃんを、止めてあげられなかったアル」

 そう言って、遠い目をする。


 人間社会の裏側に潜む闇との戦いは、常に死との隣りあわせだ。

 そして張もフィクサーも、舞奈や明日香たちより長い年月を生きている。

 だから2人より、他の子供たちより、多くの仲間を看取って来た。


――あそびつかれたら♪ ひとやすみ♪

――まんまるになって♪ おひるねよ♪

――きじとら♪ さばとら♪ はちわれも♪

――マ~マをかこんで♪ すやすやよ♪


――ごろごろにゃんこ~♪ ごろにゃんこ~♪

――にゃんにゃん♪ ごろごろ♪ ごろにゃんこ~♪


「それでも――」

 張はカウンターの一席を見やる。

 あの最強の少女が、いつも座っている場所だ。


「ああ、それでも――」

 フィクサーも虚空を見やる。

 2人は別々の方向を向きながら、やはり同じものを見ていた。


――よ~るはおうちで♪ ばんごはん♪

――おいしいおさかな♪ たべにゃんこ♪

――いっぱいたべたら~♪ ねむねむよ~♪

――マ~マといっしょに~~♪ ねるにゃんこ~~♪


――ごろごろにゃんこ~♪ ごろにゃんこ~♪

――にゃんにゃん♪ ごろごろ♪ またあした~♪


 そして少しばかり時を遡る。


 伊或(いある)町の一角にある古びたアパート。

 その一室を、術で透明化したひとりの青年が覗き見ていた。

 若き日の張だ。


 今と違ってほっそりと痩せていて、線が細く人好きのする好青年だ。

 頭にはやわらかい髪も生え揃っている。

 細身の身体にまとった長袍(チャンパオ)と呼ばれる丈の長い中華服と、童顔にせめてもの威厳をつけようと伸ばしたドジョウ髭だけが今の張と同じだ。


 だが、そんな張の童顔には、焦りが浮かぶ。


 なぜなら部屋からは男の怒号が、何かが壊れる音が聞こえ続けている。

 そして窓の隙間から漏れるヤニの悪臭。

 部屋の中で、激昂した脂虫が暴れているのだ。


 悪臭と犯罪をまき散らす脂虫――喫煙者は、理由もなく激昂し、人間を害する。

 まるで自ら捨て去った人間性を持っている他者を妬むように。

 だからこそ彼らは忌み嫌われ、今では害畜として狩られる。


 だが当時の【機関】は今ほど脂虫の駆除に積極的ではなかった。

 狩った脂虫の人間としての身分を剥奪し、穏便に処理するための諜報部や法務部の規模が、今と比べて小さかったという理由もある。


 そして今と同じように、上層部は占術による情報を軽視していた。


 当時は【機関】巣黒支部の執行部に属していた張は、脂虫による凶行を予言した。

 今日、この時間に、狂った喫煙者が妻と娘を殺すと。


 だから張は、独断でアパートを訪れた。

 だが、それ以上の権限を持たぬ故、どうすることもできぬまま様子を伺っていた。


 邪悪で汚い脂虫は、いわば人間の天敵だ。

 無自覚に悪臭で苦しめ、威圧的な態度で怯えさせ苛立たせる。

 そして、ときに理由もなく激昂して直接的に傷つける。

 まるで生きとし生けるもの死と苦痛が、自身の利益と結びついているかのように。


「ハハハッ! お前が悪いんだぞ! お前たちがこの俺を――!!」

「この子だけはやめて――!?」 

 男の怒声に混じる、女の悲鳴。

 鈍い音。

 それに続く、火のついたような子供の泣き声。


 張が予言した通り、脂虫の凶行が始まったのだ。


 当時の張は臆病で、決して強くないくせに、正義感だけは強かった。

 だから居ても立っても居られず、勝算もなしに動き出した。


 自身の仙骨――異能力の源に集中する。

 湧きあがる金行の魔力から水行の魔力を生み出す。

 そして卓越した技術により水行を木行へ、木行を火行へ素早く変換する。

 道士は五行相生の理により魔力を循環させ、数多の術を使いこなす。


 張は五行相生によって生みだした火行の魔力を、掌に込めてドアノブに叩きつける。

 途端、まるでショットガンで接射したようにドアノブが鍵ごと砕ける。

 五行相克の理により金属を破壊する【火克金・禁鉄ホケィジン・ジンティエ】。


 鍵の壊れたドアをこじ開ける。

 懐から符を取り出しつつ、部屋に踊りこむ。

 脂虫の住居に相応しい、糞尿が焦げたような暴力的なヤニの悪臭に顔をしかめる。


 ……そんな悪臭に混じる、鉄の匂い。

 張の顔から血の気が引く。


 見やると血だまりの中に女が倒れていた。

 女に覆いかぶさるように泣きじゃくる小さな子供。その側で、


「お前が悪いんだ! お前が! お前がぁ!!」

 くわえ煙草の脂虫が叫ぶ。

 大柄な中年男だ。


 男は泣きじゃくる子供の脳天めがけ、野球の金属バットを振り上げていた。

 ヤニで濁った双眸には、明確な殺意が浮かぶ。


「やめるアル!」

 張は素早さを増す【狼気功(レアンチィーゴンズ)】を行使しつつ、渾身の力で体当たりする。

 だが大柄な脂虫は動じない。


 そもそも張に、身体強化を施したたところで怪異を圧倒するほどの体力はない。

 そして覚悟もない。


 脂虫に――悪臭と犯罪をまき散らす喫煙者に相対した者がすべき唯一の正しいこと。

 それは人が変じた害虫を、容赦なく屠ることだ。

 完膚なきまで叩きのめし、二度と人に仇成さぬよう塵も残さず消し去ることだ。


 符を投じ、攻撃魔法(エヴォケーション)を使えばよかった。

 脂虫を殺せばよかった。


 だが弱く優しい張には、人間の顔と身分を持った彼を傷つけることができなかった。


 代わりに金属バットを【火克金・禁鉄ホケィジン・ジンティエ】で破壊しようと手をのばす。だが、


「なんだ!? てめぇは! 邪魔をするな!!」

 脂虫は張を蹴り飛ばす。

 張は倒れ伏した女の側に尻餅をつく。

 とっさについた手が、生暖かい何かに触れる。


 張がギョッとする間もなく、脂虫は金属バットを振り上げる。

 狙いは張だ。


 張は魔力を循環し、のばした掌の先に火球の盾を創りだす。

 即ち【火行・防盾(ホシン・ファンデウン)】。


 脂虫はバットを振り下ろす。

 火球はバットを受け止め、爆発によって打撃を弾く。


 だが男は金属バットを横に振る。

 たまらず張は打ちのめされる。

 過度なダメージによって【狼気功(レアンチィーゴンズ)】が消える。


 男の人間離れした筋力は、違法薬物によるものだ。

 薬物に手を出す類の輩は、まず表向きには合法な煙草を摂取して人間をやめる。


 張も、そんな怪異から人々を守るべく力を持った者たちのひとりだ。

 だが男性である故に魔力が弱く、戦闘慣れもしていない。

 そんな張に、単体での怪異との戦闘は荷が重すぎた。


 脂虫は張を見下ろして笑う。

 人を害することで喜ぶ脂虫に特有な、嗜虐的な笑み。


 ゆっくりと金属バットを振り上げる。

 バットの先には、真新しい赤い何かがべったりとこびりついている。


 張は子供をかばうように覆いかぶさる。


 そんな張めがけ、脂虫は金属バットを振り下ろす。


 張はとっさに長袍を鉄に変える。

 服の形をしたまま魔力によって硬質化した布が、金属バットを受け止める。

 即ち【金行・硬衣(ジンシン・インイ)】。

 張の道術の源である異能力【装甲硬化(ナイトガード)】を推し進めた強固な防御魔法(アブジュレーション)だ。


 男は怒声をあげながら金属バットを振り下ろす。

 何度も、何度も。


 張は子供をかばったまま、成す術もなく耐える。


 そうするうちに――


「――子!! 無事ですか!?」

 張の背後で金属バットが弾け飛んだ。

 焦った声に思わず見やる。


「フィクサー……」

 張の側で、知的な少女が減音器(サプレッサー)つきの拳銃(ワルサーP38)を構えていた。

 クールな彼女が、傍目にわかるほど焦るのは珍しい。


 この頃から、彼女は垂れ気味な目を隠すためにサングラスをかけていた。

 拳銃(P38)とサングラスが大きく見える程度には、当時のフィクサーは小柄だ。

 異能を持たぬ彼女は、判断力と銃の腕前で怪異と渡り合ってきた。


「フィクサー! 独断専行は禁物デース!」

 妖精のようなロシア系の美少女が、浮遊しながら飛来する。

 裸体の局部だけが、無数のドリル刃で覆われている。

 今と変わらぬ格好の、執行人(エージェント)プロートニクである。


「けど~、おかげでリーダーは命拾いしたみたいよぉ~」

 豊満な胸にロザリオを埋めたシスターが、十字型のカービン銃(魔改造グロック17)を構える。

 拳銃(グロック17)を専用のコンバージョンキットでカービン化し、上面のレールに突起物をマウントして無理やりにでっちあげた十字架だ。

 色気と愛嬌でいろいろ隠した彼女は、執行人(エージェント)ミストレス。


「ものは言いようですね」

 そのさらに側で、真面目そうな眼鏡の女子小学生が小型拳銃(ワルサー PPK)を構える。

 その周囲には、4枚の鉄の盾が浮かぶ。

 チャムエルである。

 この頃の彼女は服を着ていた。

 子供らしい、仕立ての良いワンピースだ。


 プロートニクは躊躇せず、身に着けていたドリル刃の数本を放つ。

 ミストレスは銃の十字架を縦に構え、粒子ビーム【光の矢クー・ドゥ・リュミエール】を放つ。

 チャムエルも拳銃(PPK)と一緒に握りしめた銀鎖に吊られたペンタクルを操り、自身を守る鉄の盾から複数の金属の弾丸【鋼鉄の片刃(メタル・シャード)】を放つ。


 ドリル刃とビームと弾丸が、脂虫の四肢を違えず穿つ。


 少女たちも執行人(エージェント)だ。

 だから、くわえ煙草の脂虫を、見た瞬間に敵だと看破してみせた。


 だが脂虫は薬物で強化されている。

 だから足を焼かれ、両腕に金属片を突き刺したまま執行人(エージェント)たちに襲いかかる。


 フィクサーは素早く距離を取る。

 プロートニクは空中で後退し、ミストレスとチャムエルも避ける。


 だが張は動けない。


 脂虫は嗜虐的な笑みを浮かべる。

 そして手近にあったゴルフクラブを手にして殴りかかる。その目前に、


「すまん、結界を張っていて遅れた」

 筋骨隆々とした大柄な少女が躍り出た。

 グルゴーガンである。

 仏術士である彼女は、【地蔵結界法クシティ・ガルヴィナ・ホーマ】によって部屋を結界化していたのだ。


 屈強な少女を、男はゴルフクラブで打ち据える。

 だが鍛え抜かれた肉体を妖術で2重に強化したグルゴーガンはビクともしない。

 逆に脂虫を殴り飛ばす。

 脂虫は結界化の余波で硬化したベランダ側のガラスに叩きつけられる。


 その隙を逃さず、フィクサーは拳銃(P38)に残った小口径弾(9ミリパラベラム)を全弾、叩きこむ。

 ミストレスは銃の十字架を構え、光のシャワー【輝雨の誘導アンズイール・ドゥ・ブリエ・プリュイ】を放つ。

 プロートニクとチャムエルも、各々の流儀で必殺の攻撃魔法(エヴォケーション)を叩きこむ。

 邪悪で不潔な喫煙者を、殺すことに躊躇う必要がないのは当時も同じだ。

 そのことを、彼女たちだけは理解していた。


 その間に、張は軋む身体を無理やり立ち上がらせる。

 そして女と子供に駆け寄った。


 だが女はこと切れていた。


「すまないアル……」

 張は残された子供を抱きしめ、嗚咽を漏らした。


「すまない……アル……」

 童顔の頬を涙がつたう。

 腕の中の子供も、訳もわからず泣いた。


 そんな2人を、執行人(エージェント)の少女たちは成す術もなく見守るしかなかった。


 結局、独断専行の咎を一人で背負った張は【機関】を去った。

 そして天涯孤独となった少女を引き取った。


 この事件を境に、チャムエルは【機関】上層部の方針に疑問を抱き始めた。

 彼女が幼く、そして生真面目だったせいでもある。


 一方、張は、執行人(エージェント)時代の蓄えを元手に中華料理屋を始めた。

 細面で愛想の良い張の店は、開店当時はそれなりに繁盛した。

 元執行人(エージェント)という経歴、また出身地である台湾の人脈も生かし、大陸由来の魔術品や情報の売買にも手を出した。

 かつて同僚だった少女たちも、そんな彼を応援した。


 努力家でもあった張は、店と育児を両立させながら料理の腕に磨きをかけた。

 だが元々の筋量が少なかったので、料理の腕が上がるとともに肥えていった。


 梓はすくすくと成長した。


 張が丸々と太り、髪もすっかり抜け落ちた頃、それぞれの生き方を決めた少女たちとは疎遠になっていた。

 ミストレスは執行人(エージェント)を辞め、受付嬢のポストに収まった。

 チャムエルは上層部への不満を爆発させ、張を追うように【機関】を去った。


 そして美しく成長した梓は、アイドルになりたいという夢を張に打ち明けた。

 張は二つ返事で承諾し、梓を最大限にサポートした。


 張は梓のアイドルレッスンのための資金を貯めるべく、商売に奮起した。

 そんな中、美佳や一樹、舞奈と出会った。

 当時は梓より小さな幼子だった舞奈が、やがて最強Sランクになるとは知らぬまま。


 ――そして時は現代に戻り、昼休憩の情報処理室。


「双葉あずさのSNSに、また殺害予告が書きこまれてた」

「……だろうな」

 端末の画面から顔を上げたテックの言葉に、舞奈は不敵な笑みで答える。


 脂虫の豚男は双葉あずさの殺害を宣言し、果たせず倒された。

 だが奴は宝貝(パオペエ)のひとつ肉人壺の力で何度でも蘇る。

 そんな豚野郎が、再びあずさの命を狙わない訳がない。


『あずさは俺の警告を無視した。だから今度こそ、おまえを歌えなくしてやる――』

 画面に表示された犯罪予告を、一同は冷ややかに見やる。


「予告の日時は、次の日曜日よ。場所はライブハウス『Joker』」

 テックは続く文面から情報を収集する。


「……たぶん、狙いは双葉あずさの誕生日ライブ」

「いかにも、あの手の輩が狙いそうなタイミングね」

 明日香が侮蔑の笑みを浮かべる。

 そして舞奈も笑った。


「丁度いい。なら奴と梓に、最高の1日をプレゼントしてやろうじゃないか」


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