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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第11章 HAPPY HAPPY FAIRY DAY

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真相

「お待たせー、舞奈ちゃん」

「よぅ、梓さん。体の調子は大丈夫かい?」

 初等部のウサギ小屋の前で、舞奈は梓を出迎える。


 梓たち3人への襲撃を辛くも退けた、翌日。

 舞奈はいつも通り、梓と待ち合わせをしていた。


「心配してくれるんだね、ありがとう。……あれ、明日香ちゃんは?」

「あいつはウサギ当番なんだ。じきに来るはずだから、待ってやってくれんか?」

「もちろん」

 梓は言ってニッコリ笑う。


 そう言えば、最初に梓と待ち合わせした日、梓はヤギの当番だった。

 舞奈がそんなことを考えていると、


「ねえ、舞奈ちゃん」

「何だい?」

 ふいに梓が問いかけた。


「舞奈ちゃんにとって、パパってどんな人?」

「やぶからぼうだな。うーん……」

 急な問いに、舞奈は少し考える。

 そして舞奈の知る張の人となりを、裏の世界の事情を話すことなく伝えようとして、


「あいつは信頼のおける男だ。飯が美味いのはもちろん、顔が広くて目端が利いて、気も利いて、仕事のこともそれ以外のことも何でも知ってる」

 そう言って笑う。

 だが、梓の表情に違和感。


 ……そして気づいた。


 舞奈は、張の友人の子供だという話になっていたはずだ。

 だから父親の友人として評価をすべきだった。

 あるいは勘違いしたふりで、適当に捏造した自分の父親の話をしてもよかった。


 少なくとも、張を直接に評価することだけは避けるべきだった。


 失態に顔をしかめる舞奈を、だが梓はどこか納得したような表情をしていた。

 梓はあえて紛らわしい質問をして、舞奈にこの答えを言わせたのだ。

 明日香がいない時を見計らって。


「……そういうところも張にそっくりだ」

 舞奈は珍しく口をとがらせる。


「わたしにとってもね、優しくて最高のパパなんだよ」

 梓は笑う。


「アイドルのお仕事だって、やりたいって言ったらすぐに準備を整えてくれて……」

 だが、その笑みに隠された不安に、舞奈は気づいた。

 けど舞奈もまた感情を誤魔化すのに慣れていたから、何食わぬ表情で先をうながす。


「けど最高すぎて、パパがどうしてこんなにしてくれるんだろうって、たまに思うの」

 そう言って梓は顔を曇らせ、


「それにね。わたしがちっちゃい頃、パパがすっごく謝ってくれたことがあるんだ。ごめんねって、何度も、何度も……」

 その言葉に舞奈は首をかしげ、それでも無言で先をうながす。


「でもパパが謝る理由なんてないし、ひょっとして記憶違いなのかもしれなくて……」

 梓はひとりごちるように、語る。


 舞奈は思う。

 梓はずっと、不安に思っていたのだろう。

 張があまりにも、優しすぎるから。

 その不安が、先日の事件でぶり返したのだろう。


 梓は自分と友人が襲われたことをきっかけに、自分ではなく父親を案じている。

 そんな彼女だから、あんなにも皆を魅了する歌を歌うことができるのだろう。


 けど舞奈には梓に言えないことが多すぎるから、彼女を慰めることはできなかった。


 そうこうしえているうちに、当番を終えた明日香がやってきた。

 だから2人は訝しむ明日香を誤魔化しながら、3人で梓の家まで歩いた。


 そして次の日の昼休憩。

 舞奈、明日香、テックの3人は情報処理室に集まっていた。


「襲撃犯の身元が割れたわ。市内の40代男性、無職」

「お、おう……」

 キーボードを叩きながら言ったテックに、舞奈は思わず苦笑する。

 端末の画面には、豚のように醜く肥えた先日の男が映っている。


 梓の護衛を開始した当初、襲撃犯の特定は絶望的だった。

 だが直接に対峙した後なら調査も容易だ。


「ま、よく見りゃ、たしかにアイドルを逆恨みして襲いそうな面してんな」

 舞奈は豚男を見やって口元を歪める。


 昨日のように激昂してこそいないのに、常時から性格の悪さがにじみ出た下種面だ。

 ヤニで理性も人の心も失った、典型的な脂虫の顔だ。


「家はここ。父親と同居してるみたいね」

「母親はどうしたよ?」

「数年前に不審死してるわ」

「……ったく、警察は仕事してるのか?」

 舞奈は口元を不快げに歪める。


 対してテックは無表情にマウスポインタ―を動かし、別窓で地図を表示させる。

 アイドルを襲撃した脂虫の自宅は意外に近所で、伊或(いある)町の一角にあるらしい。

 舞奈は地図を見やって顔をしかめ、


「……いつぞやの水素水の店と同じ通りだぞ。呪われてるのか? この地区は」

 吐き捨てるように軽口を叩く。

 だがテックは構わず言葉を続ける。


「彼、以前からSNSで問題のある発言を繰り返しているわ」

「問題発言?」

「ええ。小動物を捕まえて虐待したり、近くの飲食店で迷惑行為した写真をアップして度々問題になってたみたい」

「……脂虫ってのは、ネットでも周りに迷惑かけまくってるのか」

「で、最近は双葉あずさへの攻撃に執心してたわ。あずさは無視したり、流したりしてたけど、その度に彼の言動はエスカレートしてた」

 テックが語る豚男の素性に、舞奈と明日香はそろって肩をすくめる。


 臭くて身勝手な脂虫は、生きていても死んでいても、ネットを経由してすら他者を害し、障害となる。


 舞奈には、奴らに紛い物の人権を認める表の世界の法律が不完全なものに思えた。

 否、表の世界の執行機関が、奴らと人間を区別する手段を持たないのが問題なのだ。

 だが、それより不可思議なことがひとつ。


「――なら奴は、奴自身の意思で双葉あずさを襲ったって言うの?」

 明日香が意見を代弁した。

 だから舞奈もうなずく。


 ならば【親亜音楽著作権協会(KASC)】の陰謀などなかったということだろうか?

 あれは『Joker』のオーナーやチャムエルの取り越し苦労だったということか? そう思って訝しむ舞奈の前に、


「彼、件の殺害予告に前後してSNS上で不審なアカウントとやりとりしてる」

 言いつつテックは新たな情報窓を表示した。


「不審なアカウントだと?」

「ええ。素性を隠してるようだけど、アクセス元はKASCの支部」

「そういうことか」

 舞奈は口元を歪める。


 音楽と芸術を衰退させ、アーティストから搾取しようとしているKASC。


 中学生に劣情を抱く、喫煙者でアイドルマニアの豚男。


 両者の邪悪な利害は一致した。

 だからKASCは豚をそそのかし、あずさ襲撃を決意させた。


 それが今回の事件の真相だろう。


 豚男が持っていた宝貝(パオペエ)とやらもKASCから支給されたのだろう。

 奴らは怪異の組織だ。

 鉄砲玉に悪の魔道具(アーティファクト)を持たせるくらいは容易いのだろう。

 チャムエルは手慣れた対処をしてたし、奴らが多用する手段なのかもしれない。


 人間に偽装した怪異どもは、人間社会を混乱させるために脂虫を利用する。

 滓田妖一のように社会的に成功した者を三尸に変え、顔と名前を奪う。

 目前の画面に映った豚男のような脱落者は、力を与えて捨て駒にする。


 人間にとっても、人間に敵対する組織にとっても、脂虫は道具だ。

 喫煙によって人間性を自ら投げ捨てたクズどもには、ある意味で似合いの処遇だ。


「それに、ちょっとおかしなところがあるわ」

「まだ何かあるのか?」

 ぼそりと言ったテックに、問いかける。

 テックは無表情に「ええ」と答え、


「ここの家の人、【機関】の執行人(エージェント)にヤニ狩りされてる。ちょっと前よ」

 言いつつ豚男を映した別の写真を表示させる。

 その隣に、もうひとつ。

 禿げた猿のような顔をした痩身の団塊男だ。豚男の親だと言われれば納得できる。

 どちらの双眸もヤニ色に濁り、顔も醜く歪んでいる。脂虫なのは瞭然だ。


「担当者はデスメーカーとエリコ」

「小夜子さんとえり子ちゃんか」

 2人ともがんばるなあと舞奈は笑う。

 街から脂虫が1匹でも……否、2匹でもいなくなるのはいいことだ。だが、


「じゃ、この前、梓さんたちを襲ったのは誰なんだ?」

 言って口元を歪める。


 数日前に狩られたという脂虫の、片方は昨日の一件で舞奈たちが狩った。

 どちらかが見間違えているのか?

 あるいは、よく似た兄弟でもいるのだろうか?


 そんな舞奈の疑問には答える代わりに、テックは画面を切り替える。

 ヤニ狩りの記録を条件で抽出したリストのようだ。

 ずらりと並んだリストにはヤニ狩りの実施日時と対象の写真。

 いずれも映っているのは豚男と猿男の片方、あるいは両方。


「同じ人が何回か狩られてるわ。【機関】では報告ミスって扱いになってるみたい」

「んなミスが何度もあってたまるか」

 言って舞奈は苦笑する。


 隣で明日香も口元を歪める。

 几帳面な彼女には、許しがたい失態なのだろう。


 だが舞奈も同意見だ。

 狩った脂虫を同じ相手に誤認する見間違えが、ここまで続く訳はない。


 兄弟にしても多すぎる。

 しかも工場で作ってるのではないかと思えるほどそっくりな親子2世代にわたる兄弟なんて、常識的に有り得ない。

 ということは、残された可能性は……


「……復活してるってこと?」

 またしても、明日香が舞奈の懸念を代弁した。

 というより他に考えられる理由がない。


 奴は強くはなかったが、宝貝(パオペエ)とやらを使って何度も再生した。

 死んだら二度と復活はしないと決めつける理由はない。


 何より舞奈たちは知っている。

 脂虫を三尸に変え、顔と人格をデータ化してコピーし、再現する技術があることを。

 同様に、身体的特徴をデータ化して再現することも可能なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、


「そなたら、こんなところで悪さしておったのか」

 聞きなれた声がした。


 振り返ると鷹乃がいた。

 舞奈は明日香をジト目で見やる。

 明日香も舞奈をジト目で睨む。

 人が来たんなら気づけよと、互いに思ったのだ。

 だが鷹乃は2人の様子に構わず言葉を続ける。


「おそらく肉人壺が使われておるな。死んだ怪異を復活させる宝貝(パオペエ)じゃ」

「……聞いてたのか」

 舞奈は思わずひとりごち、だが、


「狩られた相手は、諜報部に『消費』されてるはずだぞ?」

 何食わぬ顔で問いかける。


 ヤニ狩りされた脂虫は、支部で贄として消費される。

 使った後に復活などしたらわかりそうな気がする。だが、


「そういう風に蘇るわけではないんじゃよ」

 鷹乃は不快げに口元を歪めながら、語った。


 宝貝(パオペエ)とは、元は特定アジアの怪異が生みだした魔道具(アーティファクト)の一種らしい。

 だから、これについて最も詳しいのは道士だ。

 だが鷹乃が修めた陰陽術は、道術、神術、仏術の集大成だ。


「狩られた方はどうもならん。じゃが肉人壺は死んだ脂虫の身体データを元に新たな肉体を創りだし、データ化された人格情報を書きこむのじゃ」

 言って鷹乃は忌々しげに口元を歪める。

 舞奈も舌打ちする。


 嫌な予感が的中した。

 奴は三尸と同様の技術で復活していたのだ。


 脂虫は人間ではない。

 胸糞悪い喫煙によって自ら人間であることを辞め、怪異になった脱落者だ。

 そういう意味では、人や動物のように生きた存在というより、物に近い。

 だから脂虫の人格や身体情報をコピーして複製することは容易なのかもしれない。


 人の魂はひとつ。だから、どんなに死を嘆かれても蘇ることはない。


 だが脂虫は――喫煙者は人ではなく物だ。

 だから誰にも望まれていないのに何度でも蘇り、悪の手先となって世に仇成す。

 まるで無限に湧いて出る害虫だ。


「新たな肉体の材料は生物じゃ。奴らは動物や人間を苦しめ痛めつけて絶望と憎しみから負の魔力を生成し、殺すのじゃ。そして死肉を解体し、再生のための材料とする」

「……まったく、奴ららしいぜ」

 不愉快げな鷹乃に、舞奈も吐き捨てるように同意する。

 明日香とテックも顔をしかめる。


 怪異とは、消去と源を同じくするマイナスの魔力から生まれた存在だと聞いた。

 だからプラスの魔力の源になる人間の善なる意思や正の感情を嫌う。

 その喜びを悲しみに変え、希望を絶望に変えようと働きかける。


 泥人間や毒犬のような生まれながらの怪異はもちろん。

 人間が喫煙によって変異した脂虫も同じだ。

 奴らは正しくあろうとする人間の真逆な、邪悪な怪異だ。


 奴らは姿形で、臭いで、周囲を不快にさせる。

 正しい心を持った人々を恐れ、妬み、憎み、攻撃する。

 皆の希望だからという理由で攻撃の目標になった、双葉あずさのように……。


 舞奈は思う。

 件の父子はずっと昔から、怪異の組織から支援を受けていたのではないだろうか?

 再生と復活の宝貝(パオペエ)を与えられ、組織が意図したタイミングで世に仇成す伏兵として。


 そう考えると、奴らが脂虫であることを知りながら対処できなかった【機関】のやり方がもどかしかった。

 ただ喫煙者を捕らえて殺すだけでは駄目なのだ。

 奴らの正体を暴き、着実に根絶やさなければ今回のような事件は何度でも起こる。


「……そなたらは、あずさを守ってくれておったのじゃな」

「知ってたの?」

 驚く明日香を、舞奈がジト目で見やる。


 以前に明日香が確認したところ、鷹乃は梓の秘密を知らないはずだった。

 だが実際は鷹乃の方が一枚上手のようだった。


「うすうす勘づいとっただけじゃ」

 鷹乃は言った。


「確証が持てたのは今回の件でじゃ。じゃがな……」

 そう言って鷹乃は一旦、言葉を切り、


「こんな形で知りたくはなかったわい。あやつらはわらわを詮索せなんだ。じゃから、わらわもあやつらの秘密は知らぬままでおりたかった」

 口元を歪め、寂しげにもらす鷹乃に、


「案外、相手も知ってるかもしれないぜ?」

 だが舞奈は笑う。


「何じゃと?」

「あの子、意外に感が良いぞ。あんたのことにも気づいてて、知らんぷりしてるんじゃないのか? ……あんたと同じにな」

「よくもまあ都合のいいことを……」

 言いつつ、鷹乃も笑った。


「それより鷹乃さん」

 明日香が問いかける。


「あやつら、というのは、もうひとりのお友だちのこと?」

 明日香が耳ざとく問いかけた。

 先ほどの汚名返上といったところか。


「ああ」

 鷹乃はうなずいて、


「梓と美帆は、わらわと会う前からべったりの親友同士じゃ。何かやっとるなら2人セットじゃろう。おおかた曲は美帆が作っとるんじゃないかの」

 微笑みながら語る。


「……それで『双葉』あずさって訳か」

 そんな鷹乃を見やって、舞奈も笑う。


 そういえば、張が先日の襲撃を預言できなかった事実も気がかりだった。

 だが、その理由もわかった。


 先日の鷹乃の話では、襲撃者は双葉あずさの片割れ、音楽担当を襲ったらしい。

 おそらく張は、娘である梓に対する襲撃の有無を占ったのだろう。

 だから襲撃を預言できなかった。


「それと、もうひとつ。そなたに調べて欲しいことがあるんじゃ」

 言って鷹乃はテックを見やる。

 珍しい指名に、テックは思わず首をかしげる。だが鷹乃は構わず、


「件の下男が銃を撃つビジョンが見えた。出所を探れるかの?」

 押し殺した声で言った。


「銃だと?」

 舞奈は驚き、鷹乃を見やる。

 だが明日香は冷静に「銃種は?」と問う。


「おそらく54式手槍じゃ」

 鷹乃の答えに首を傾げ、


「特亜の泥人間が使う模造銃……? 密輸品かしら?」

「……あったわ」

 端末を叩く手を止めつつテックが言った。


「別の事件で押収された銃が、事件ごとなかったことになってる」

「糞ったれ、警察まで絡んでやがるのか」

 無表情に語られた事実に、舞奈は思わず舌打ちする。


 表の世界の執行機関は、脂虫と人間を区別する手段を持たない。

 だから警察の中にも人の皮をかぶった脂虫――喫煙者がいても不思議ではない。


 そして怪異どもは、いつでも術で脂虫を操ることができる。

 だからこのタイミングで、子飼いの警官を利用したのだ。

 怪異が絡む事件では、警察も敵の手駒のひとつと考えるべきだ。


「……なくなったのは1丁か?」

 だが官憲の不甲斐なさを嘆く前に、今はやるべきことがある。


「6丁よ。あと弾丸も」

「ま、奴らの銃は弾が横に飛ぶっていうからな……」

 軽口をたたきながらも、訝しむ。


 動作不良に備えた予備だとしても、猿男と豚男の2人で使うには多すぎる。

 それとも今後に同様の事件を起こすための控えだろうか?

 舞奈たちが首をかしげていると、


「上からニャー」

 端末の乗っている机の横からみゃー子が顔をのぞかせた。

 舞奈は面倒くさそうに、テックは無表情に見やる。

 するとみゃー子は頭を引っこめ、


「下からニャー」

 端末の上から顔を出す。


 舞奈の背後で鷹乃が露骨に狼狽する。

 第一印象のせいで、みゃー子に苦手意識があるのだろう。


 やや不可解なのは、平静を装ってはいるが明日香にウケていることだ。

 笑いのハードルが下がったのだろうか?


「……人に迷惑をかけるんじゃない」

 言って舞奈はみゃー子を睨む。

 するとみゃー子は顔を引っこめる。

 そして一瞬の沈黙の後、


「ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ!」

 今度は端末の左右や机の上から、もの凄いスピードで顔を出し入れし始めた。

 さながらガトリングみゃー子といったところか。

 猛スピードのあまり、寸分違わず同じみゃー子がたくさんいるようにも見える。

 これほど無駄な身体能力の使い方もなかなかない。


 この言動で、みゃー子は何を伝えたいのだろうか?

 否、どうせコミュニケーションなど考えていないのだろう。みゃー子だし。

 そう考えて苦笑する。


「す、すまぬが、わらわはこれで失礼する。他にも調べねばならぬことがあるのでな」

「スマン、頼む」

「勘違いするでない、梓や美穂のためにやっておることじゃ!」

 そう言い残して鷹乃は去っていった。

 心なしか顔が青ざめていた。


 舞奈はやれやれと苦笑する。


 長くもない昼休憩の間に、いろいろな事実が判明しすぎた。

 だから驚愕の真相が出そろったところで、頭の整理をしようと窓を見た途端――


「――そうそう」

 明日香は鷹乃が去ったドアを見やりながら、今思い出したみたいに言った。


「梓さんと張さんに、血縁関係はないわよ」

 その言葉に、舞奈は思わず明日香を見やる。


 人体構造に詳しい彼女は、骨格を見て親の顔を言い当てることができる。


「……もうちょっと早く言えよ」

 舞奈はそう言って深々とため息をついた。

 隣でみゃー子が「ニャー」と鳴いた。


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