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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第10章 亡霊
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日常3 ~銃技vs異能力

「ふあぁ――あ」

 朝の新開発区を歩きつつ、舞奈は大口を開けてあくびする。


 実はマンティコアの一件以来、舞奈は仕事をしていない。

 まあ仕事人(トラブルシューター)の仕事がないのは平和な証拠だ。

 なので最近は普通の小学生みたいに普通に登校し、普通に勉強して普通に帰る毎日が続いている。それはいいことなのだが……、


「……腹減った」

 せつなげに鳴った腹を、さすってなだめる。


 舞奈は仕事人(トラブルシューター)だ。

 仕事がなければ、当然ながら報酬もない。

 マンティコアを倒して貰った相当額の報奨金も、今や朝飯をケチりたくなるほどしか残っていない。


「いっそ執行部あたりが、ヤニ狩りのバイト募集したりとかしないかな……」

 そうすれば少しばかり臭くても我慢して、いっぱい狩るのに。

 そんなことを考えながら、朝からため息をついた。

 やれやれ。


 ――次の瞬間、拳銃(ジェリコ941)を抜いて背後に撃つ。撃つ。


 2発の大口径弾(45ACP)が虚空を斬り裂く。

 その跡に、空気からにじみ出るように2匹のニンジャがあらわれた。

 どちらも抜き身の刀を振り上げている。

 だが頭部がない。


 姿を消した泥人間【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】の奇襲だ。

 だが襲撃者の命運は断たれた。


「……姿が消せるんなら、後ろから襲いかかる必要ないんじゃないのか?」

 異能で姿を隠していれば、前にいても後ろにいても、どうせ見えない。

 逆に舞奈が相手なら、何をしようがどうせ見つかる。


 ボソリとツッコむ舞奈の目前で、死んだニンジャが溶け落ちる。

 残された刀とタイツが地に落ちる。


 同時に周囲の廃ビルから、いくつもの人影が躍り出た。

 ボロをまとった泥人間だ。

 先ほどのニンジャどもよりひとまわり大きい。

 そんな大柄な泥人間たちは太刀に炎を、冷気を、稲妻をまとわせて走る。

 それぞれ【火霊武器(ファイヤーサムライ)】【氷霊武器(アイスサムライ)】【雷霊武器(サンダーサムライ)】。


 手にした凶器に異能力をまとわせた大柄なサムライたち。

 並の執行人(エージェント)では太刀打ちできない暴力の群。だが、


「まったく、朝っぱらから元気なこった」

 舞奈はやれやれと苦笑するのみ。

 この程度の相手は舞奈にとって雑魚以下だ。


 太刀の間合いまで近づく暇も与えず3連射。

 3匹のサムライが頭を砕かれ溶け落ちる。

 3本の太刀が、乾いた音を立てて瓦礫まみれの地を転がる。

 銃に刀で挑んだ者の当然すぎる末路だ。


 だが、斬。

 飛び退いた舞奈の前髪を、錆びた刀の切っ先がかすめる。


「なんだ【狼牙気功(ビーストブレード)】なんかいたのか」

 高速化の異能を持った1匹が、大柄な仲間の身体に隠れて走り寄っていたのだ。

 視認しづらく気配も読みづらく、対処しにくい。

 大柄な個体の頭を狙うと撃ち上げる格好になるから貫通した弾が当たることもない。

 なるほど銃を持った相手に一太刀を浴びせるには良い方法だ。


 ……相手が舞奈でなければ。


 泥人間の高速剣士は矢継ぎ早に突きを放つ。

 だが舞奈は右に、左に、余裕の笑みすら浮かべて避ける。

 舞奈は空気の流れを察知して、近くの相手の筋肉の動きすら読んで避ける。

 だから舞奈に対し、あらゆる近接攻撃は意味を成さない。


 業を煮やした泥人間が、大上段に振りかぶって振り下ろす。

 だが舞奈は跳んで避ける。

 渾身の一撃を避けられ、泥人間はバランスを崩す。


 すかさず舞奈は距離を詰める。刀の間合いよりなお近い零距離。

 ハイキックで手首を蹴る。

 弾き飛ばされた刀が回転しながら宙を舞う。


 得物を失った泥人間は跳び退って距離をとる。

 焦ったあまり相手の得物を忘れたか?


 舞奈は笑う。

 拳銃(ジェリコ941)を構え、片手で狙って引き金に指を当て――


「――あ」

 落ちてきた刀が、剣士の頭に突き刺さった。


「お、おう……」

 舞奈が呆然と見やる前で、泥人間の最後の1匹が溶け落ちた。


 ……そんな些細なトラブルがあったものの、その後は何事もなく学校に着いた。


 舞奈が通う蔵乃巣(くらのす)学園の校門は、初等部~高等部の生徒でごった返している。

 いつもの朝の風景だ。


「おはようございます」

「……あ。舞奈様、おはっす」

「ちーっす」

 いつものように挨拶してきた白黒セットの警備員に、いつもように挨拶を返す。

 金髪のクレアは今日も礼儀正しく生徒を迎え、色黒なベティはささみを食ってる。

 これで2人の給料は同じだ。


 舞奈はいつものように、人の流れからはずれて警備員室に入る。


「そんじゃ、今日もよろしく」

 拳銃(ジェリコ941)から弾倉(マガジン)を抜いてクレアに手渡す。


「あれ? 来るときに何かあったんですか?」

 金髪美女は首をかしげる。

 弾倉が普段より少しだけ軽いからだ。


 舞奈は笑う。物事の些細な変化を見逃さない洞察力は、警備員にも子供と接する職業にも欠かせない資質だ。


「あ、ホントだ。舞奈様、ナニ朝から楽しいことしてるんすか」

「楽しかねーよ」

 部屋の外からベティが覗きこんできた。

 こちらは硝煙の匂いで察したのだろう。

 ハイチ出身のベティは視力もいいが鼻も利く。術も使ってないのに犬並の嗅覚だ。


「泥人間に襲われたんだよ。半ダースもいたんだ」

「5匹ですか?」

「んー」

 そういえばノリで倒したので数まで気にしていなかった。

 記憶を頼りに数えてみる。


「……6匹」

 ニンジャが2匹、サムライがたしか3匹、最後に……。


「じゃ、1匹はナイフで? 流石です」

 クレアが感心したように言った。


 45口径のジェリコ941の弾倉に詰められる弾丸は10発。

 減っている弾丸は5発なのが重さでわかるのだろう。

 舞奈もちょっと感心した。だが、


「ナイフでっつうか……まあ、刃物には違いないが」

 思いだして苦笑する。


 最後の1匹は、蹴り上げた当人の得物が頭に突き刺さって逝った。

 それを、どう話したら信じてもらえるだろう?


「それにしても、こんな朝っぱらからっすか? 新開発区も愉快な街になったっすね」

「……あんたは楽しそうでいいな」

 言ってやれやれと肩をすくめる。

 まあ、言われてみれば泥人間が日の出ている時間に出没するのも珍しい。

 だが、それより、


「こっちは朝飯も食ってないのにタダ働きだったんだ」

 言って口をへの字に曲げる。


 怪異を狩った仕事人(トラブルシューター)に支払われるのは報奨金だ。

 そして新開発区に自然発生した怪異は、占術士(ディビナー)によって発見されて【機関】が査定するまで報奨は発生しない。

 なので、あらわれたばかりの怪異を倒しても、一文すらの金も出ない。

 弾の撃ち損だ。

 朝飯を食う金すら惜しいのに。


「舞奈様は朝飯抜きだったんすか、大変っすねー」

 ベティは「ハハハ」と朗らかに笑う。


「よかったっすね。きっと、その分、給食が美味いっすよ」

「……そりゃどうも」

 ササミを食いつつ笑うベティを、舞奈は睨む。

 だがベティは意にも介さなかった。


 それでも午前の授業を何とか乗り切り、給食を食べたら舞奈も少し元気になった。


 そして食後は例によって、クラスの皆でドッジボールだ。

 なので男子は給食もそこそこに校庭に向かう。

 ごはんをお茶で流し込んでダッシュだ。

 彼らがそこまで生き急ぐのは1秒でも早くドッジを始めたいのと、舞奈が参戦する前に男子の身体能力でちょと無双したいからだ。


 女子はそこまで極端ではないものの手際よく食べて移動する。


 舞奈は昨日ぶりの暖かい食事を堪能してからのんびり向かう。そして、


「――でね、昨日もお話ししたんだよ」

 下駄箱で靴を履き替えながら、チャビーはニコニコ笑顔でおしゃべりしていた。


「彼ってば、わたしとお話しするために待っててくれるのかな? エヘヘ」

「そりゃよかったな……」

 舞奈もスニーカーを履きつつ、興味なさそうに相槌を打つ。


(泥人間も、あたしを襲うために待ってたのか? ご苦労なこった)

 思わず言いかけて、流石にチャビーに話すわけにもいかずに口をつぐむ。

 昨日のたらい回しの件といい、誰かに愚痴りたくて仕方がないのだが。


 だがチャビーは舞奈の心中などお構いなく、靴を履き替えて走って行った。

 チャビーがあんなに元気なのは、兄を失った代わりに手術を受けられたあの日より前の彼女が、心臓を患っていたからだ。

 だから舞奈はその背を無言で見送り、


「あたしはお使いでたらい回しされてたよ……」

 今日はテックも来ていたので、見やりもせぬまま言ってみる。

 インドア派のテックだが、たまには外で皆のドッジボールを見ることもある。もちろん決して参加はしないが。


「何それ?」

「いやな、受付のお姉ちゃんに書類を届けてくれって頼まれたんだが……」

「それ、公的機械の内部書類なんじゃ。舞奈が運んでいいの?」

「それをあたしに言われてもなあ……」

 そんな辛気臭いトークをしつつ、先に行ったチャビーと、それより先に向かったはずの園香を追ってのんびり校庭へ向かう。だが、


「えーん! マイー!」

 チャビーが泣きながら走ってきた。


「どうしたチャビー、ボールでもぶつけられたか?」

「……そりゃドッジボールなんだから」

 テックが小さくツッコむ


「ちがうの! あのね、昨日の6年生が……!!」

「あ、チャビーにも話したんだっけ? 酷い話だろう? あたしはカウンターで待ってりゃそのうち来るだろうって言ったんだ……」

「……?」

 要領を得ない舞奈の返事にチャビーは困る。


「あ、マイちゃん。来てくれたんだね」

 後から園香もやってきた。


「昨日の6年生たちが、今日もコートを独り占めしようとしてるの」

「? ……ああ、そんな奴らもいたなあ」

 昨日と今朝とでいろいろありすぎたので、舞奈は先日の休憩時間にいろいろあった6年生のことを忘れていた。


 言われて見やると、なるほどコートの中で5年生と6年生が対峙している。

 みゃー子も昨日と同じように奇妙な舞を踊っているが、別にそっちはどうでもいい。


「今、委員長がお話してくれてるんだけど……」

 たしかに6年の先頭は大柄なリーダー、対峙するのは委員長だ。

 昨日と言い今日と言い、まったく彼女も災難だ。


 そういえば明日香がいない。園香と一緒に教室を出たはずなのに。

 なんで肝心な時にいないんだ、と舞奈は口をとがらせる。


 だが園香は目じりを下げて困り果てている。だから、


「まかせとけ。またあたしがおっぱらってやるよ」

 園香を安心させるようにニヤリと笑った。


 そして、


「……昨日、あんたらはコートを巡って、ちょっとばかりあたしたちともめた」

「ああ」

 再び舞奈と対峙した6年生は、しかめ面でうなずいた。

 舞奈の背後で委員長以下クラスメートが固唾を飲んで見守る。


 6年生は5年生より強くて大きい。

 彼らは狭い初等部の世界の中での頂点だ。

 態度も大柄だし、怒ったら何かされるかもしれないと思うと怖い。

 サッカーボールをぶつけられたら痛そうだ。


 そんな6年生を相手に一歩も引かない舞奈はクラスのヒーローだった。


 だが舞奈にとって、彼らは復活が危惧されている滓田妖一ほど邪悪ではないし、魔獣や泥人間と比べて危険でもない。

 以前に何かと突っかかってきた【雷徒人愚】と比べてすら、ひとまわり小さい。

 異能の刀で斬りかかってくるような輩を思えば、むしろ愛すべき隣人だ。

 だから舞奈は口元に笑みを浮かべて、


「あんたたちはあたしと口論して逃げ帰った。ここまではいいな?」

 言いながら昨日のことを思い出そうとする。

 彼らのことを忘れていたと気づかれると気の毒だからだ。


「よくねぇ! 逃げてねぇだろ!」

 だがリーダーは怒る。


「小5の女子に言い負けて泣きながら走って帰ったのが悔しい気持ちはわかる」

「泣いてねぇよ!!」

「それで次の日、リターンマッチを挑んでくるガッツは認めてもいいと思う」

「おまえ、さっきから偉そうだな!」

「で、5年の女子が6年生に勝てたんだから、それより小さい女子なら5年生を負かせられるだろうってのは、まあ、考え方としては間違っちゃあいない。だがな……」

 舞奈は気にせず大柄な6年生を見やり、


「……ほんとに低学年を担ぎだすこたぁないだろう」

 視線をリーダーの足元に落とす。

 そこに幼女がいた。

「誰が低学年じゃ!」

 幼女は鼻息も荒く叫ぶ。


「ったく、どいつの妹だ?」

「妹でもないわ!!」

 舞奈は気にせず6年生をぐるりと見渡し、


「……誰とも似てないな。やれやれ、あんたも災難だな」

 叫ぶ幼女にかまわず、かがんで目線を合わせる。


「先生! コテンパンにしてやってください!」

 6年生がけしかける。


「……低学年を玩具にすんな」

 舞奈は幼女の後ろを睨みつけ、


「可愛いお嬢ちゃんじゃないか」

 身をかがめて幼女を見やる。

「ええい! 無礼者! わらわは、おまえたちの先輩じゃぞ!」

 幼女は目を吊り上げて、噛みつきそうな勢いで叫ぶ。

 だが舞奈は笑う。


 周りの大人と同等に見られたいと願うのは子供の自然な心理だ。

 なぜなら、その強い気持ちが子供を大人へと成長させるのだから。

 3年前、美佳と一樹に守られながらピクシオンの一員のつもりでいた自分は、周囲からはこんなふうに見えていたのだろうか?

 そんなことを考えながら浮かべた笑みは、当人が意図したよりやわらかかった。


「けど、どうしたもんか。兄貴と一緒に追い返すのも気の毒だしな」

「ええい! 人の話を聞かぬか!」

「ねえ、あなた、わたしたちといっしょにドッジボールしようか?」

 園香が幼女に歩み寄って、しゃがみこむ。

 長身でスタイルの良い園香がそうすると、まるで子供をあやす母親だ。


 相手が幼女なら危険じゃない。

 それに舞奈じゃらちがあかないと判断したのだろう。


「だから、わらわは! わらわは……!!」

 幼女は叫ぶが、その視線はワンピースの襟元から覗く胸元に向けられている。


「わらわは……」

 豊満な曲線を描く園香の胸は最高だ。

 幼女は園香の胸から目が離せない。

 ひょっとしたら母親のおっぱいを思い出してるかもしれないと思って、さすがにそこまで幼くはないだろうと思いなおす。舞奈も園香のおっぱいに埋まりたい。


 6年生たちは幼女の様子に困惑している。

 本気で頼りにしていたらしい。


 舞奈も彼らの言動に困惑する。

 もう今は彼らの行く末が本気で心配だ……。


 彼らの馬鹿っぽさは、やはり【雷徒人愚】の連中とよく似ている。

 そう思って口元に乾いた笑みを浮かべる。


 だが何人かが園香の胸元を見やっているのに気づいて、鋭い視線で威嚇する。

 そして幼女の前にしゃがみこみ、


「いっしょにドッジやるか? あたしが肩車して避けてやるよ」

 子供をあやす声で言いつつ舞奈は幼女を持ち上げる。

「わわっ! 離すのじゃ~~」

「わー、マイやさしー」

 もめ事がうやむやになったのを察したか、チャビーも側にやってきた。そして、


「……あ、安倍さんだ!」

 チャビーが気づいて呼びかけると、明日香が出てきた。

 何故か校舎の陰からだ。


「……んなところで何してやがった」

 舞奈の問いに無言で笑う。

 というか、表情を取り繕ってはいるが半笑いだ。


「その子が先輩なのは本当よ。彼らと同じ6年生」

「嘘つけ」

 明日香の言葉を一蹴する。だが、


「ああっ! 安倍明日香ではないか!!」

 幼女が叫んだ。


「知り合いか?」

 舞奈は幼女に問う。

 細身だが屈強な舞奈だから、子供一人持ち上げたまま世間話するのも造作ない。

 そんな舞奈の側に、明日香は悪びれもせず歩いてきた。


「鷹乃さんよ」

「……? ……ひょっとして、土御門鷹乃さんか?」

「ええ」

 それはマンティコア配下のミノタウロスとの戦闘で、ベティとクレアのチームに加勢してくれた陰陽師の名だ。

 その時のミーティングで会ったとき、彼女は鉄仮面をかぶった長身の女性だった。

 だが、それは彼女が任務に用いる式神だとも聞いた。


「もしや、そなたは志門舞奈か!?」

「あんたはあたしの顔、見てたんじゃないのか?」

「あのときは小さすぎて顔なんて見てなかったのじゃ!」

 舞奈に持ち上げられたまま幼女は言った。

 以前に会ったのは彼女が操る長身の式神を通じてのことだ。


 あの時の鷹乃の視点は、なるほど舞奈の表情が見えないほど高かったはずだ。

 ちょうど高い高いされている今と同じくらいの位置か。

 そう思って舞奈は半笑いで鷹乃を見やる。


 そして側の明日香をジト目で見やる。


 明日香と鷹乃の関係を、舞奈は聞かされていない。

 だが明日香が誰かを名前で呼ぶことはない。

 その例外は舞奈と、チャビーと同じ苗字だった彼くらいだと思っていた。今までは。


「……おまえ、それで陰から見てやがったのか」

 知人が子供と間違われる様を。

 半笑いで。

 まさか何らかの手段で6年生と一緒に彼女がいることを察し、園香と別れて校舎の陰に隠れるまでしたか?


「相変わらず性格悪いやっちゃな」

「性格悪い奴だな」

 舞奈と鷹乃は声を揃えて、縦に並んだジト目で明日香を見やる。


「覚えてろよ!」

 鷹乃と舞奈たちが知人だったからか、6年生たちは鷹乃を残して走って行った。


 彼らが舞奈に妹をけしかけようとした疑惑は晴れた。

 単にクラスでいちばん強そうな奴に助っ人を頼んだのだろう。

 魔術師(ウィザード)はその力を隠していても、立ち振舞が異彩を放つ。


 だが、その結果はこの様だ。

 そんな先見性の無さも【雷徒人愚】とよく似ている。だから、


「おい、待て!」

 一時の感情にまかせ、鷹乃を高く掲げたまま鋭い声で呼び止めた。

 6年は一斉に跳び上がって振り返る。

 舞奈が怖かったらしい……。


 だが舞奈は気にせず彼らに笑いかけ、


「明日もいっぱい給食、食えよ!」

 叫んだ。


「でもって早く大きくなって、中学生になって、高校生になって、大人になって、母ちゃんを安心させてやれ!」

 それは【雷徒人愚】にはもうできないことだ。

 けど彼らによく似た6年生たちにはできることだ。


 そんな舞奈を見やって他の5年生も首をかしげる。

 明日香はやれやれと肩をすくめる。だがその口元には笑みが浮かんでいた。


「なにわけのわかんないこと言ってるんだ!」

「ばーか!」

 6年生は腹立ちまぎれに叫んで走り去った。


「元気でなー」

 舞奈は小さくなっていく背中を鷹乃をふりふり見送って、

「そっか、あんた本当に6年生だったんだな」

 目線をあわせて言った。


「離すのじゃ無礼者! 先輩だと理解したのなら相応の敬意を払うのじゃ!」

「じゃ先輩、一緒にドッジボールするか?」

「それはできない相談じゃな」

 舞奈に持ち上げられて足もつかない状態で、鷹乃は無意味に胸を張る。


「意地張るなよ」

 舞奈が苦笑した瞬間、


 キンコーン、カンコーン。


「あ……」

 チャイムが鳴った。


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