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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第9章 そこに『奴』がいた頃
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戦闘1 ~銃技&戦闘魔術vs異能力

「わかったろ? この新開発区はイカれた街だ。あんたみたいな人の良い兄ちゃんが来る場所じゃない。けど、あたしと明日香は仕事で怪異を狩る仕事人(トラブルシューター)だ」

 舞奈は彼に、そう言った。


「だから、あんたはこの街のことも、怪異や異能力のことも綺麗さっぱり忘れて、明日からは普通の高校生に戻るんだ。最後にちょっとしたショーを見てからな」

 言い残し、2人は陽介が隠れた廃ビルから少し離れた壁の陰まで移動する。

 身を低くしながら、慣れた様子で音もなく走る。


 自分たちは陽介とは別の生き方をする人間だ。

 そう舞奈は思う。


 舞奈は銃を持っている。

 明日香は異能力を超えた魔術を自在に操る。

 だから自分たちが年上の彼を背に庇い、怪異を狩るのは当然のことだ。


 逆では駄目だ。

 そんなことをしたら、彼は死ぬ。

 そして舞奈は失う。

 3年前、美佳と一樹を失ったように。


 そんな気負いを誤魔化すように、口元に軽薄な笑みを浮かべて見せる。


「いくぞ、明日香」

「オーケー」

 明日香は崩れた壁の陰から身を乗り出し、帝釈天(インドラ)の咒を唱えて「魔弾(ウルズ)」と締める。

 すると指先から尾を引く稲妻が放たれ、泥人間の群を薙ぎ払う。


 以前にも陽介の目前で使った【雷弾・弐式ブリッツシュラーク・ツヴァイ】。

 轟音とともに放たれた雷光の砲弾は、数匹の泥人間を飲みこんで消し炭へと変える。

 この術の本来の用途は、こういった開けた場所での殲滅だ。

 ここならば全力で撃っても壁を焦がすことはない。


 一方、舞奈も負けてはいない。

 コンクリート壁から飛び出し、拳銃(ジェリコ941)を片手で構えて乱射する。


 ――否、乱射にあらず。

 如何な妙技によるものか、6発の弾丸は泥人間どもの頭をあやまたず撃ち抜く。


 容赦ない先制攻撃が怪異どもを次々に屠る。

 怪異は溶け落ち、汚泥と化して地面を汚す。


 その時、舞奈めがけて鋭い何かが飛来した。


 横に跳んだ舞奈の残像を、鋭利に尖った木杭が穿つ。

 そのまま地面に突き刺さった木杭から、爆ぜるように枝が伸びる。

 無数の枝が舞奈を捕らえようと襲いかかる。


 だが舞奈は立ち上がりざまに跳び退って避ける。

 目標を捕らえ損ねた枝は萎びて枯れ、木杭は1枚の符と化して燃え尽きる。


 即ち【木行・枝鎖(ムシン・ズーソ)】。

 符を枝の枷にして束縛する術だ。


「気をつけて! 敵にも魔道士(メイジ)がいるわ!」

「ああ、わかってる! あいつだ!」

 舞奈が見やった廃屋の上には泥人間の道士。

 全身にサイケデリックなペイントが施されていて、他の泥人間より格段に不気味だ。

 そして、その額に輝く赤い石。


「あの野郎! デコっ禿に石を埋めこんでやがる!」

 舞奈は叫ぶ。


 同時に、泥人間は符をまき散らす。

 そして怪異が叫んだ途端、それぞれの符が尖った木の葉となって降り注ぐ。

 即ち【木行・多叶矢ムシン・ドゥオイェジイアン】。

 鋭く尖った木の葉の矢が、シャワーのように降り注ぐ。


 舞奈は崩れかけたコンクリートの陰に転がりこむ。


 明日香は間一髪で大自在天(シヴァ)の咒を唱え終え、「守護(エイワズ)」と締める。

 そして葉矢の雨に飲まれる寸前、その目前に氷の壁が起立する。

 即ち【氷壁・弐式アイゼスヴァント・ツヴァイ】の魔術。

 葉矢の雨は、氷壁に阻まれて地に落ちた。


 一方、ビルの陰に身を潜めた陽介の元にも葉の1枚が飛来する。

 舞奈の視界の端で、陽介が葉に向かって手を伸ばし――


「馬鹿野郎、引っこんでろ!」

 舞奈の怒声に身をすくめた陽介の目前で、木の葉が爆発した。


「五行相生、木行を火行に転換して爆発させる術です! 無事ですか!?」

「な、なんとか……」

 陽介はへたりこみながら答える。

 彼はとっさに動いた式神に守られていた。


 だが、守ると決めたはずの善良で無力な少年が、命の危険にさらされた。


「野郎! いつまでも好き放題にさせるかよ!」

 舞奈は怒りに叫ぶ。

 そして崩れて斜めになった廃屋を駆け上がり、泥人間に肉薄する。


 泥人間が雄叫びをあげる。

 だが、その叫びが意味を成す前に拳銃(ジェリコ941)が火を吹く。


 同時に明日香が「魔弾(ウルズ)」と唱え、廃屋の上の怪異めがけて稲妻の砲弾を打ち上げる。

 泥人間の醜悪な頭が中口径弾(40S&W)に撃ち抜かれ、胴は雷光に飲みこまれて消える。


 そして最後の泥人間を屠った稲妻は、光のラインになって消えた。


「明日香の奴、石まで消し炭にしてないだろうな」

 先ほどの怒りを誤魔化すように笑う。


 だが次の瞬間、連なる銃声。


「何だ!?」

 あわてて見やる。


 陽介を護衛していた式神が、短機関銃(MP40)の背でカギ爪の一撃を防いでいた。

 どこからあらわれたのか、シャツをだらしなく着崩した豚のような団塊男がヤニ色の双眸を見開いて奇声をあげていた。


 泥人間ではない。

 ゾンビのような容姿の泥人間とは異なり、正気を逸した人間にしか見えない何か。


「おい、兄ちゃん、無事か!?」

 思わず声を張りあげる。

 無力な彼を襲わんとしている怪異に舌打ちしつつ、廃屋から飛び下りる。


「糞ったれ! 屍虫だ! なんで、こんなところに出てきやがる!?」

 舞奈は素早く弾倉(マガジン)を交換する。

 その背後からも、別の屍虫が迫る。


「舞奈!」

 目前の屍虫に構わず、陽介が叫ぶ。


 だが舞奈は振り向きざまに股間を蹴り上げる。

 警告より一瞬早く、気配を感じていた。


 そして屍虫の眉間に素早く銃口を突きつける。銃声。

 屍虫の額に風穴が開く。


 だが屍虫はよろめくのみ。

 至近距離で中口径弾(40S&W)を喰らってなお。


 さらに屍虫の額に開いた風穴が消えた。

 まるで傷がひとりでに癒えるように。


「畜生! こっちは屍虫じゃないぞ! 大屍虫だ!」

 屍虫がさらに変化した大屍虫は、式神と同等の耐久能力を誇る。

 前回と同じように、頼みの綱は攻撃魔法(エヴォケーション)だ。

 そう思って明日香の姿を探す。


 だが明日香も、瓦礫の上を転がりながら別の屍虫のカギ爪を避けていた。

 喉元を狙った大振りの一撃を、掌の先に展開した雷球で受け止める。

 カギ爪は放電する魔法の盾にそらされ、少女の首の真横に突き刺さる。

 呪文を唱える余裕はなさそうだ。


 それでも隙をつき、護身用の小型拳銃(モーゼル HSc)を抜いて撃つ。

 至近距離から放たれた小口径弾(32ACP)は、だがヤニでただれた皮膚に埋まるのみ。


「明日香!?」

 悲鳴のように叫ぶ。


 だが舞奈自身もタフな大屍虫を相手に苦戦していた。

 大屍虫は屍虫と比べて遥かに強く、素早い。


「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 叫びに思わず見やる。


 陽介が大ぶりなコンクリート片を両手で拾い上げていた。

 怪異の背後に回りこんで、薄汚い背広の背中に振り下ろす。


 それは、あまりにも無謀な行為だった。


 もちろん、強打された脂虫はわずかにのけぞるのみ。

 屍虫は振り返りざまにカギ爪をふるう。

 すると陽介の手の中のコンクリート片は砕け散る。


 だが、それでも陽介は止まらない。

 まるで理性の糸が切れてしまったかのように。


「うわぁ! うわぁ! うわぁぁぁぁ!」

「やめろ、兄ちゃん! 死ぬぞ!!」

 だが何もしなくても結果は変わらないのも事実だ。

 舞奈と明日香が倒れれば、彼を守る者はいなくなるのだから。


 陽介は拳を振り上げ、目をつむって無我夢中で叩きつける。

 屍虫は陽介を蹴り倒す。

 無様に転がった彼の脳天めがけてカギ爪を振り上げる。

 その隙に式神が屍虫の足を払って転倒させ、至近距離から無数の銃弾を叩きこむ。

 だが大屍虫より弱いとはいえ小口径弾(9ミリパラベラム)で倒せるほどではない。

 屍虫は飛び上がるように立ち上がると、陽介に背を向けて式神に襲いかかる。

 陽介も立ち上がり、すぐさま激情を取り戻して屍虫の背中を殴りつける。


 彼の中で何が起こったのかはわからない。

 だが、その動きは無力な少年のそれではなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 陽介は狂ったように絶叫し、渾身の力で屍虫の背を殴りつけた。


「な……んだと……?」

 大屍虫の猛攻を凌ぎながら、舞奈は驚く。


 陽介に殴られて屍虫は倒れた。

 そして動かない。

 背中に煮え立つ孔がパックリと口を開いているのが、舞奈からでも見える。


 そして陽介の拳は、燃えていた。


「異能力だと!? 兄ちゃん、今、異能力を!?」

 舞奈は驚愕の声をあげる。

 その声に、陽介は我に返る。

 そして式神に向かって叫ぶ。


「お前の本当のご主人様を守るんだ!」

『了解しました』

 式神は(MP40)を構えて走る。

 陽介自身も、燃え盛る拳を振り上げて走る。


 その気迫に、明日香に馬乗りになっていた屍虫が思わず怯む。

 その隙を逃さず明日香は大屍虫を蹴り上げ、顔面にありったけの弾丸を叩きこむ。


 さしものの大屍虫も顔面を蜂の巣にされて平気ではいられない。

 その隙に真言を唱え、一語で締めて電光を放つ。

 明日香に覆いかぶさろうとした屍虫は放電する光束に飲みこまれて消えた。


 舞奈の目前の大屍虫も、仲間を倒されて動揺したか動きが鈍る。

 その顔面めがけて乱射する。

 怯んだ隙にハイキック。

 身体をくの字に曲げて叫ぶ大屍虫の口腔に、


「手榴弾でも喰うかい? ヤニカス野郎」

 ジャケットの裏から取り出したパイナップル型手榴弾をねじこむ。

 そして勢いよく蹴り飛ばした直後、歪んだ顔面が内側から爆ぜた。


 頭部を失った最後の大屍虫が、その場でどうと崩れ落ちる。

 そして舞奈たちが見つめる中で塵と化し、風に吹かれて消えた。


 そうして、怪異たちはいなくなった。


 廃墟の街には陽介たち3人だけが残った。

 3人そろって、生き残ることができた。


 我に返った舞奈は陽介を見やる。

 彼は安堵と疲労で力が抜けたのだろう、へたりこんでいた。


「スマン、恩に着るよ」

 舞奈はニヤリと笑みを浮かべる。

 陽介も笑みで答えた。

 それはか弱い少年の笑みではなく、何かを成し遂げた後のヒーローの笑みだった。

 まるで、舞奈のかつての仲間を彷彿とさせるような。


「それにしても、たまげたよ。あんた、異能力者だったんだな」

 感傷を覆い隠すように、新たに誕生したヒーローを見やる。


「あ、ああ、俺もビックリしたよ……」

 陽介は目の前に右手をかざし、燃え盛る炎を見つめる。


「おそらく、武器に炎を宿らせる【火霊武器(ファイヤーサムライ)】の異能力です。でも直接に拳が発火するのは珍しいですね。熱くないですか?」

 明日香が戻ってきた。先ほど舞奈が倒した泥人間の汚泥を調べていたのだ。

 黒髪の少女は赤い石を手にしている。


「依頼人が欲しがってた隕石も無事よ」

 手にした赤い宝石を見やり、舞奈の口元に笑みが浮かぶ。

 だが陽介は、自分の拳を見やりながら言った。


「ねえ、これ、どうやって消すの!?」


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