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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第2章 おつぱいと粗品
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日常1

 とある日の放課後。


「志門、プリントを運ぶのを手伝ってくれるか?」

 担任教師に声をかけられた。

 舞奈のクラスの担任は、室内なのにサングラスをかけた小太りな男だ。


「いいっすよー」

 舞奈はのびをしながら答える。

 教卓に詰まれたプリントの山は、大人でもひとりで運ぶのは無理そうだ。


「おう、すまないな」

 言いつつ担任は、舞奈用に少なめの束を取り分ける。


 舞奈は残った方を持ち上げて歩き出す。

 重さはともかく量が多くて前が見えないが、問題ない。

 前に誰かいれば見えなくても気配でわかるからだ。


「……無理はしなくていいぞ」

「わかってますって」

 さっそくドアが閉まっていたので立ち止まると、担任が開けてくれた。


 そして2人並んで廊下を歩く。


 舞奈は担任を尊敬していた。

 彼は舞奈の知らないことを教えてくれるからだ。


 例えば、舞奈が多数の相手や見えない相手と普通に戦えるのは、4年生の理科の授業で空気のことを教わったからだ。


 この世界は空気で満ちあふれている。

 何かが動けば周囲の空気も動く。

 だから空気のゆらぎを感じれば避けられる。

 異能力で透明化した敵も、背後や死角から襲ってくる敵も、たくさんの敵も同じだ。


 まあ、さすがに速くて小さい銃弾を避けるのは難しい。

 物理法則を無視した攻撃魔法(エヴォケーション)を避けるのにも限界がある。

 だが、人間サイズの体積が間近で動く接近戦では当たるほうが難しい。


 担任のおかげで、舞奈の鋭敏な感覚はさらに強化された。

 そのせいで、彼の頭髪が頭皮とは独立していることに気づいた。

 教師としては若手の部類に入る彼は、なんとヅラだったのだ。

 だからヅラがずれないように、頭部をまっすぐに保とうとしていた。


 舞奈は彼の動作を真似てみた。

 そうしたら、激しく動きながら周囲の状況を的確に把握できるようになった。

 頭が揺れないと走りながら狙って撃つこともできる。


 もちろん、それらは舞奈の人並み外れた感覚と運動神経あっての賜物だ。

 現に舞奈より物知りな明日香や執行人(エージェント)たちにもそんなことはできない。

 逆に舞奈は以前から、走りながら盲撃ちでもわりと当てていた。

 それに不意打ちや危険が迫ると体がムズムズして何となく避けていた。


 だが、その理由を理解してからは真に無敵になった。

 Sランクの打診を受けたのもその頃だ。


 だから、舞奈は担任を誇りに思っていた。

 学生時代に古武道を嗜んでいたらしい彼も、舞奈からすれば弱者だ。

 だが、思慮深くて物知りな賢者だ。


「なあ志門」

 そんな担任が、舞奈の隣を歩きながら言った。

「学校では、弱いふりをしてもらってもいいか?」

 その言葉の意味がわからなかった。だから、

「なんでだ?」

 彼の言葉だから何か理由があるのだろうと尋ねてみた。すると、


「ほかの生徒や上級生は、おまえみたいに強くないからだ」

 サングラスの担任は何食わぬ顔で答えた。

「本当に弱い奴は、自分が弱ことに気がつかない。だから、おまえと同じことをしようとして怪我をする。特に男子がな」

「そっかー」

 舞奈はなるほどと思った。

 ふと、昔のことを思い出した。


 まだ幼く人並みに弱かった舞奈は、ただ仲間の背中を追いかけていた。

 幼い舞奈は、美佳と一樹に庇われ見守られていた。

 なのに、その事実に気がつくことがなかった。最後まで。


 そして強くなった今は、弱者の気持ちなんてわからなくなっていた。


 だから、今も昔も変わらず弱いままで、なのに弱者と強者の気持ちがわかる担任を、純粋にすごいと思った。そんなわけで、


「うん、わかったよ」

 言った途端、そもそも弱い人間が視界をふさがれた状態で普通に歩いているのはおかしいことに気づいた。だから、


「ああっ、けつまずいた!?」

 わざとらしい声をあげつつ、ちょうどいいタイミングで歩いてきた痩身巨乳の音楽教師にぶつかってみた。


「きゃっ!?」

 プリントが周囲に散らばり、舞奈は女教師と倒れこむ。


 もちろん倒れこむ寸前にさりげなく体位を入れ替えるのも忘れない。

 自分が下敷きになって女教師を受け止めるためだ。

 だが普通の女教師に、そんな気遣いなど気づきようがない。だから、


「志門さん!? だいじょうぶ!?」

 何故ぶつかられた自分が馬乗りになっているのか訝しみつつ舞奈の顔を覗きこむ。

「だいじょうぶ! それよりごめんなさい、前が見えなくてぶつかっちゃった」

 言いつ舞奈は、教師の豊満な胸に顔をうずめた。

 大人のおっぱいはクラスメートのそれより多少は張りを失っているものの、柔らかさと気持ちのよさは変わらない。


「いや、志門……」

 舞奈の背後で、担任のサングラスとヅラがずり落ちる気配がした。


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