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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第8章 魔獣襲来
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戦闘4-1 ~銃技vs魔獣

 チャビーはウサギ小屋の前にしゃがみこんで、ウサギを眺めていた。

 あの子猫のことを、誰かに話したかったからだ。


 子猫のことは、舞奈がまかせろと言った。

 舞奈はそう言う約束を違えたことはない。


 だからといって、舞奈が子猫と一緒に戻ってくるまでの間、側にあの子猫のいない時間が平気になるわけではない。だから誰かに話したかった。


 亡き兄の代わりを、あの子猫に求めていたように。


「あのね、ウサギさん――」

 もふもふと葉っぱを頬張る3匹のウサギに、話しかける。

 騒がしい普段が嘘のように静かに、そして寂しげに。


 そのとき、3匹のウサギが不意に立ち上がった。

 ウサギたちは並んで立ったまま、チャビーの背後をじっと見やる。

 つられてチャビーも振り返る。


 そこには小さな少女がいた。

 黒ぶち眼鏡に、三つ編みおさげの少女だ。


「す、すいません、あの、日比野千佳さん……ですか……?」

「あなたはだぁれ……?」

 チャビーは小首を傾げる。

 知らない人だ。

 高等部のセーラー服を着こんでいるのに、背丈はチャビーと大差ない。


「あの、猫……。その、張り紙を見て……」

 人見知りらしい彼女は、たどたどしく言葉を紡ぐ。


「猫ちゃんのこと知ってるの!?」

 チャビーは詰め寄る。

 少女は「ひっ」と後ずさる。


「すいません、猫……知ってる猫、たくさんいるから、貴女の猫かどうか……」

 その言葉に肩を落とす。

「いえ、でも、話し……貴女の猫のこと……その、聞かせてもらっても……」

 少女はあわてて言い募る。

 チャビーはうなずく。

 あの子猫のことを、ちょうど誰かに話したかったところだから。


「あのね、あの子と初めて会ったのは、お兄ちゃんの……えっと、通学路の途中にある古いビルなの。昔は使ってたけど、今は誰もいないビルだったんだ」

 今はいない子猫との出会いを話す。

「みゃー、みゃーって小さな声がして、ビルの入り口のところに子猫がいたの。手に乗るくらいちっちゃくて、ふわふわで、すっごーく可愛いかったんだよ」

 小さな愛しい友人のことを、懸命に語る。


 眼鏡の少女は、物静かだが熱心な聞き手だった。

 顔の印象の大半を担う黒ぶち眼鏡を見ていると、なんだか夢と現実がまぜこぜになるような不思議な気持ちになってくる。

 夢うつつの中に愛しい子猫を見た気がして、自然に口元に笑みがこぼれた。


「ひとりぼっちで心細かったのかな? 階段の陰でみゃー、みゃーって鳴いててね、でも、じっと待ってたら出てきてくれたんだ――」

 チャビーは微笑みながら、小さな子猫のことを話し続けた。


 そして同じ頃、新開発区。


 無人の荒野に1匹の野良猫がたたずむ。

 猫は何かに導かれるように、はるか遠くの一点を見やる。

 その先で、


「――おい待て! 話が違うぞ!?」

 舞奈は巨大な魔獣に追われて走っていた。


 3つの結界が破壊され、ミノタウロスが消滅した。

 その直後、他の部隊が舞奈と合流する間もなくマンティコアが覚醒した。

 覚醒した魔獣は無人の荒野にただひとり待機していた舞奈を見つけ、襲ってきた。


「糞ったれ! 他の面子が結界を壊すまで中にいるんじゃなかったのかよ!?」

 ヤケクソ気味に叫んだ直後、横に跳ぶ。

 同時に周囲の地面が斬り刻まれる。

 無数の尖弾が通り過ぎた後は、工事現場か土砂崩れの跡のような有様だ。


「畜生! ミンチにするつもりでいやがる!!」

 思わず悪態が口をつく。


 魔獣が操る大能力は、異能力と同じく術者の至近距離にしか効果がない。

 だがそびえるような巨躯と強大な魔力を持つマンティコアにとって、数十メートルは余裕で至近距離だ。


 マンティコアの巨躯は以前と同じくらい大きい。

 舞奈を片手で叩き潰せそうなほどだ。

 そんな魔獣が重力場の翼を展開して低空を飛行しながら、【尖弾の雨(ザッパー・レイン)】相当の斥力場の弾丸をばらまいてくる。

 さながら歩兵が戦闘ヘリに追われているようなものだ。

 しかも一面に広がる荒野には、遮蔽にできるものが何もない。


 舞奈でなければ、とうの昔にお陀仏だ。


「……ったく、こんなことなら普通のガリルエースを借りとくんだった」

 走りながら愚痴る。


 舞奈の改造ライフル(マイクロガラッツ)は口径こそスナイパーライフル(ガラッツ)と同じ中口径(7.62ミリ)だ。

 だが、銃身(バレル)が短いぶん取り回しは良いが射程は短い。


 そもそも至近距離から撃つとはいっても、舞奈とマンティコアでは大きさが違う。

 小さな舞奈の至近距離はマンティコアから見れば近接打撃、巨大なマンティコアにとっての至近距離は舞奈にとっての中距離斉射だ。


 勝てる要素がどこにもない。

 逃げる以外に道はない。


 幸いなのが、弾丸が矢くらい大きく、斥力場で形成されているということだ。

 力場の弾丸が飛べば、同じ形の物体が動くときのように周囲の空気が動く。

 つまり見えざる弾体の斉射も、つきつめれば矢と同じ。


 そして剣や弓矢は舞奈には効かない。

 空気の流れを読んで避けることができるからだ。

 それに過去の2回の遭遇で、相手の手の内も読めていた。


 避ける舞奈に業を煮やしたか、魔獣は地面すれすれを飛びながら叫ぶ。


「おおっと!」

 土砂を巻き上げながら、見えざる巨大な何かが襲い来る。

 気配を頼りに跳んで避ける。


 刃だ。

 ギロチンのように巨大な刃が、回転しながら飛んできたのだ。


「なんだっけ、【斥力刃(ヴァイセン・メッサー)】って奴か?」

 以前にニュットが使った斥力場の刃の魔術。

 それと同じ現象を、魔獣が引き起こしたのだ。

 前回は使わなかった攻撃だが、相手がそれなりに知恵があるのも確認済みだ。

 こちらの手札を真似るくらいはするだろう。


 それより魔獣が叫ぶ調子を、舞奈は以前に聞いたことがある気がした。

 確か、紅葉が気を取られて呪術の枷が緩む直前。


『邪魔をするな。ボクは母さんを蘇らせるんだ』

 叫びの内容を、紅葉はそう話していた。


 舞奈の口元が皮肉な笑みの形に歪む。


 その感情は、一連の事件の引き金だった。

 事故で母猫を失った子猫は、魔力を使ってそれを成そうとしていた。


「贅沢なこと言いやがって! あたしは母ちゃんの顔だって知らないんだぞ!」

 舞奈は思わず、叫びながら立ち止まる。

 振り返る。

 真正面から魔獣を見やる。


 そっちがその気なら、舞奈にだって言いたいことは山ほどある。

 舞奈と魔獣しかいないこの場所で、その激情を止める理由はなにもない。


「物心ついたときには施設にいた! 本当にここが自分の居場所なのかって疑問に思いながら、ずっと生きてた!」

 返事の代わりに再び放たれた力場の弾丸の掃射を、見切って避ける。

 周囲の地面が一瞬で畑みたいに掘り返される。


「そんなときにミカが迎えに来た! あいつが母ちゃんなのかって思った。母ちゃんだったらいいなって思った。どっちも違った。でも、すぐにどっちでもよくなった!」

 舞奈の頬にも赤い一筋が走る。

 だが気にもしない。


「新しい家は新開発区だった!」

 舞奈は駆けだした。

 逃げるのではなく、地面すれすれに飛ぶマンティコアに向かって。


「おったまげたさ! 化物がいて、人はいなくて、カズキはあんなで、ミカだって子供なのに学校にも行ってなくて、金がなくて!」

 走りながら叫ぶ。

 まるで堪えていた何かを、言葉など通じない魔獣にぶつけるように。


「でも、すげぇ楽しかった! あの頃は最高だったって、今でも思う!」

 地面を深く広く切り裂きながら見えざる刃が迫る。

 だが舞奈は少しだけ横に跳んで避ける。


「けどミカはいなくなった! カズキもだ! あたしはそれが嫌だった! ミカとカズキを取り戻したかった! けど、あたしにそんな力はなかった!」

 改造ライフル(マイクロガラッツ)を構え、マンティコアの足元めがけて走る。

 小さなツインテールを風が揺らす。


 マンティコアは地面から数メートル上空に停止して待ち構える。

 剣や槍で殴ることはできないが、十分に改造ライフル(マイクロガラッツ)射程範囲内(200m以内)だ。


 風の流れを読み取る鋭敏な感覚が、斥力場の障壁が解除されていると告げる。

 接近戦で舞奈を屠ろうと決意したか?

 あるいは、やけっぱちの突撃だと油断したか?


 ――否、魔獣はすぐに高度を上げられる体勢を維持している。

 障壁と干渉しかねない近距離から斥力場の弾丸を掃射するつもりだ。


「ミカとカズキがいなくなって、あたしは何もかもが嫌になってた!」

 舞奈に魔獣の言葉はわからない。

 魔獣にも舞奈の言葉など理解できないだろう。

 だが舞奈は止まらない。


「そんなときにあいつが……明日香の奴があらわれた!!」

 激情にまかせて叫ぶ。

 応じるように魔獣も吠える。


 同時に、見えざる刃が連続で襲いかかる。


 縦回転する刃を横へのステップで避ける。

 そのまま魔獣の足元めがけて走る。

 横向きの刃を跳んで避け、その上に跳び乗る。


 これが炎や氷の刃だったら、こんなことはできなかった。

 だが力場で形作られた斬刃は、まるで通常の刀剣のように他の物体と干渉して斬る。

 そして空気の流れを感じられる舞奈に剣は効かない。


 だから見えざる刃を足場にし、跳躍する。

 魔獣の後足の甲に跳び乗って脚の毛をつかんでしがみつく。

 巨大な魔獣の後脚の、指の数は6本だった。

 なるほどチャビーの張り紙の通りだ。


 魔獣は慌てて上昇する。

 だが手遅れだ。

 ゼロ距離に貼りついた舞奈は、脚の毛をしっかり握って離さない。


「明日香の野郎、2年の頃から人のやることなすこと、嫌見たらしく文句言ってきやがって! 思いだしても腹が立つ!」

 口元を歪めて改造ライフル(マイクロガラッツ)を片手で構え、


「……けど何でか知らないけど、今は上手くやってる」

 笑う。


 最近の明日香は勉強を教えるという名目でチャビーと一緒にいることもままある。

 何かを失った者同士という訳でもないのだろうが、2人とも無くしたものの代わりを見つけようとしている。


「あいつだけじゃない、ミカとカズキのいない世界で出会った奴らは大事な友達だ」

 口元の笑みはそのまま、片手でピタリと銃口を定める。


 アサルトライフル(ガリル・エース53)に比べて改造ライフル(マイクロガラッツ)が勝っているのは取り回しの良さだ。

 普通の小学生と同じ背丈しかない舞奈でも片腕で狙うことができる。

 もちろん、それには人並み外れた筋力が必要だ。

 だが鍛え抜かれた舞奈の肉体ならば十分に可能だ。


 ひょっとしたら、他部隊が到着する前に魔獣を倒せるのではなかろうか?

 そんな希望的な予測が脳裏をよぎる。


 そんな舞奈が狙うのは、下側から見える魔獣の下あご。

 胴を狙うと子猫の本体を傷つける恐れがあると思ったからだ。

 胴体後部に位置する子宮の中に、子猫はいる。


 正直なところ、舞奈もその位置に収まりたかったのかもしれない。

 けどそれは悟がもうやった。

 舞奈は明日香とともに、その尻拭いをする役割だった。


 そう思って、口元を乾いた笑みの形に歪める。


 途端、魔獣の尾が動いた。

 短い尾の先に重力場で形作られた黒い尾の先がU字を描き、後脚を指す。

 狙いはしがみついている舞奈だ。


 旧ドイツの戦車が使ったSマインは、取りつかれた歩兵に対処するべく、自身の装甲で防げる弱い地雷を爆発させる。

 それと同じことをするつもりだ。


 そして無数の尖弾が掃射される。

 舞奈はとっさにしがみついていた手を離す。

 避けようのない近距離からの掃射を、脚を盾にして防ぐ。


 だが次の瞬間、その脚が揺れる。


「――!?」

 しまったと思う間もない。

 再び脚をつかもうとした手は宙を切る。


「……あ」

 舞奈は空中に放り出された。

 そのまま重力に引かれ、真っ逆さまに落ちて行く。

 尖弾の一発が肩紐(スリング)をかすめたか、改造ライフル(マイクロガラッツ)が舞奈の手を離れて飛んでいく。


 だが、それどころではない。


 眼下の地面までは軽く見積もって数十メートル。

 受け身とか、身体能力とか、そういうもので命をつなげる距離ではない。

 このまま落ちたらお陀仏なのは一目瞭然だ。


 そして舞奈は空など飛べない。

 成す術はない。


 銃弾と攻撃魔法(エヴォケーション)が飛び交う戦場では、戦況は流動的だ。

 たとえ最強のSランクだって、些細な油断で命を失うこともある。


 正直なところ、恐怖はない。

 仲間が死んで辛い思いをしたことは何度もあるが、自分が死んだことはないからだ。

 だが想像はできた。


「あいつら、泣くかな……」

 舞奈が喪失から立ち直るために築いてきた絆。

 二度と失いたくないと願った少女たち。

 決して手放すまいと心に決めた仲間たち。

 それは相手からしても同じだったのだろうと思う。


「……すまん、みんな。けど楽しかった」

 そう思って最後の笑みを浮かべようとして――


「おうふっ」

 ――顔面からやわらかい何かに激突した。


「……なに落ちてるのよ」

 今ではすっかり耳に慣れた、嫌見たらしい文句。


 顔を上げると明日香がいた。

 舞奈はグミに似た質感をしたメジェドの上にいた。


「そっちは無事だったみたいだな。よかった」

 誤魔化すように軽口を叩く。

「それはこっちの台詞よ!」

 いつものようにツッコまれる。


 着地のショックでメジェドが揺れる。

 どうやら明日香たちは楓のメジェドに乗って駆けつけてくれたらしい。

 そして落ちる舞奈を見つけ、メジェドをジャンプさせて受け止めてくれた。


「……あと【斥力刃(ヴァイセン・メッサー)】はルーン魔術よ。大能力を例える場合は【力場の斬刃(フォース・クリーバー)】」

 ボソリとつぶやく。

 先ほどまでのの呼びかけ、ひとりごとは通信機に拾われていたらしい。


 だが、それ以上、明日香は何も言わなかった。

 今までだって、舞奈は明日香に過去を詮索されたことはない。だから、


「一番どうでもいいところにツッコミ入れやがって」

 ぶつぶつと文句を言う。

 けど口元には笑みが浮かぶ。


 他の3人も一緒に到着したようだ。

 楓と紅葉、奈良坂もメジェドに乗って駆けてくる。


「……あれはいいのか? お前的には」

 舞奈がジト目で見やる先から、明日香は肩をすくめて目をそらす。

 奈良坂が落ちるからだろう、彼女のメジェドは釣鐘状のボディの下の両足の間から腕を生やし、乗り手の腰を押えていた。


「舞奈さん!」

「舞奈ちゃん、無事かい!?」

「ま~い~な~さ~ん」

 相乗りした楓と紅葉はメジェドから跳び下り、奈良坂は落ちて舞奈に駆け寄る。

 舞奈と明日香も跳び下りる。

 楓の命で3柱のメジェドは脚を仕舞い、空を飛んでレーザーを照射してマンティコアを牽制する。


 そうこうするうちに、エンジン音とともに装甲車(60式)が走ってきた。

 空からは小型の結界に包まれたサチと小夜子。【天鳥船法(あまのとりふねのほう)】で飛んで来たらしい。

 サチと小夜子は舞奈の側に着地して結界を解除し、装甲車(60式)からもベティとクレアが跳び下りて駆けてくる。皆も無事のようだ。


「すんません、鳩時計がやられちまいました」

「鷹乃さん。あれだけ大口を叩いていたのに……」

 その報告に驚愕する舞奈に、明日香は苦笑を浮かべて見せる。

「大丈夫、外に出てきてる彼女は式神よ。中身はうちの施術室にいるわ」

 明日香のフォローに胸をなでおろす。


「こちらも紅葉が怪我を」

「……!?」

「姉さんの魔術で治療してもらったから大丈夫」

「ですが、メジェドを1柱、失ってしまいました」

 楓はすまなさそうに報告する。


 メジェドは舞奈を変身させる魔術に必要な魔力の源だったはずだ。

 その量が1/4減ったのは不安要素ではある。


 それより舞奈は、無事な紅葉の姿にほっとした。

 舞奈はあずかり知らぬことだが、紅葉は無くした靴の代わりに楓が魔神で作った代用品を履いている。


「鷹乃さんは儀式を補佐する手はずだったはずなのよね? 大丈夫なの?」

 だが小夜子はちらりと楓を見やる。

 ネガティブ思考が転じて用心深い彼女は、不安要素を見逃さない。だが、


「……大丈夫です。やってみせます」

 楓は決意に口元を引き締め、宣言する。


 おそらく彼女にも、譲れない意地があるのだろう。

 そう舞奈は思う。

 知的でクールな言動の裏に、熱い情熱を秘めた明日香のように。

 そうでなければ魔術師(ウィザード)になどなれない。


「少しの間なら装甲車(60式)で牽制できます。その隙に施術を!」

 クレアが急かす。


「けど急いで! 戦車の人も避けてくれるけど、急場で施した【護身神法(ごしんしんぽう)】じゃ長くは持たないわ」

 サチの言葉を背に、装甲車(60式)が走る。

 車体の四方に結ばれた注連縄が揺れる。


 周囲に瓦礫が転がる廃墟が続く新開発区の荒野では、装輪車両はまともに走れない。

 だが戦車のような無限軌道(キャタピラ)で走る装甲車(60式)は、荒れ地での運動性能も良好だ。


「了解です。皆さん、魔力の供給をお願いします」

 入れ替わりに戻ってきた3体のメジェドが、楓の周囲に集う。


 明日香はクロークの内側から大頭を取り出す。


 奈良坂はニュットから預かっていたらしい金属片を取り出す。


 そして3人は各々の流儀で呪文を唱え、手にしたものを魔力へと還元する。

 名残惜しそうな紅葉の前で3柱のメジェドも塵と化し、魔力と化す。


 濃厚な魔力が、楓が掲げたアンクへと集まる。

 そしてアンク自体も魔力に還元され、周囲の魔力を取りこんで巨大な渦になる。

 魔法に疎い舞奈ですら、それがただならぬ量の魔力だとわかる。


 楓はコプト語の呪文を唱える。

 奉ずる神はイシス。

 それは金星に宿り、生命と魔術/呪術を司る女神の名。

 その名とイメージはウアブ魔術の中核を成し、変身の秘術にも用いられる。


 呪文とともに、楓の周囲に漂う魔力の渦が、形を成そうとするように凝縮していく。


 そして今、少女を魔法少女へと変身させる【大いなる生命の衣ヘペス・アンク・ウセル】の魔術が完成する。


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