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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第1章 廃墟の街の【掃除屋】
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戦闘1 ~銃技&戦闘魔術vs異能力

「いたいた。腐れ野郎どもがウジャウジャ集まってるよ」

 崩れかけたコンクリート壁の陰に身を潜め、舞奈はほくそえむ。


「ほかの建物にはいなかったし、残りは全部ここに集まってるみたいね」

 明日香は魔術によって周囲を調査していた。

 占術の腕は悲惨な彼女だが、理に適った魔術的な索敵の腕前はちょっとしたものだ。


「それより、奈良坂さんは大丈夫かい?」

 背後で怯える眼鏡の少女に目を向ける。

「大丈夫です。あの、すいません……。その、応急手当までしてもらって」

 そう言って立ち上がろうとして、顔をしかめる。


 執行人(エージェント)【鹿】こと奈良坂は、転んだ拍子に足をねん挫していた。

 少年たちは奈良坂を置いて帰ってしまったし、ひとりで帰すのも危険だ。

 なので、仕方がないので連れてきたのだ。


「その代わりに舞奈がお尻触りまくってたけどね。……ほんと、すいません」

「い、いえ、いいんです」

「それに、道案内までしていただいて」

 奈良坂の道案内のおかげで公園予定地にすぐ着いた。

 彼女もまんざらお荷物と言うばかりではない。

 だが、この先は別だ。


「無理しないで座っててくれ。あの程度なら、あたしと明日香だけで十分だ」

「ほんと、女の子には調子いいんだから」

 肩をすくめる明日香に笑みを向ける。


「でも本当だろ? あのくらいの数」

 そして、再び壁の向こうを盗み見る。


 公園予定地の敷地の隅に建っている巨大なホールの残骸。

 その中で、奇妙な服装の集団がたむろしていた。

 泥人間だ。


 その容貌や仕草は一見して人間と変わらない。

 だが、はりつけたような平坦な笑みには不快感を禁じえない。


「……1ダース半ってとこかしら?」

「17だ。サムライ9匹、ニンジャが8匹。もう半分近くやっつけたんだなあ」

 先ほどと同じ着流しに、鉄パイプの代わりに太刀や剣を背負った5匹。

 ぴっちりした全身タイツに、竹製の手裏剣を背負った8匹。


「それに、鏡を探す手間がはぶけたよ。糞ったれ!」

 眉をひそめて言いはなつ。

 人間モドキたちの何匹かが、ホールの中央にしゃがみこんでいた。

 奪った品物を汚す異常な行動は、泥人間の数多い悪癖のひとつだ。


「一気にカタをつけるぞ」

「オーケー」

 舞奈は拳銃(ジェリコ941)を構える。

 明日香も小型拳銃(モーゼル HSc)を構える。


 科学が闇を駆逐したはずの現代において。

 人が法に守られたはずの現代社会において。

 少女たちが怪異相手に銃弾と攻撃魔法(エヴォケーション)と死を取引する。

 だが、それこそが、あまねく法と科学の威信を守り、その歪みを解消するため唯一の手段である。

 そして、これが仕事人(トラブルシューター)の日常だ。


「魔術で牽制するわ」

「まかせた」

 明日香は左手で印を組みながら真言を唱える。

 特殊な電磁波による幻影を司る乾闥婆(ガンダルヴァ)の咒だ。

 掌に魔力を生成し始めたパートナーを見やり、口元に笑みを浮かべる。


 魔術には様々な流派がある。

 その中で明日香が修めた魔術は、戦闘魔術(カンプフ・マギー)

 大戦中に枢軸国軍が開発した流派である。


 真言密教を母体とする仏術と、ルーン魔術を融合させて開発された。

 真言と諸仏のイメージによって魔力を作りだし、魔術語(ガルドル)と幾何学的イメージによって術と成す。施術を2段階に分けることによる柔軟な行使が可能だ。


 そして戦闘魔術(カンプフ・マギー)は、3種類の術を内包する。

 作りだした魔力を熱や電気に転化する【エネルギーの生成】。

 魔力を物品に焼きつける【物品と機械装置の操作と魔力付与】。

 そして、魔力で空間と因果律を歪めることによる【式神の召喚】。


 そんなハイブリットな魔術を修めた魔術師(ウィザード)は「欺瞞(ペオーズ)」と施術を締めくくる。

 すると、かざした左手から青白い光線が放たれ、ホールの上空に幻を描く。

 幻を作りだす【虚像(ロックフォーゲル)】の魔術。

 本来は張りぼての軍隊によって敵をかく乱させる術だ。


 だが幻術がそれほど得意ではないと称する明日香が宙に描いたのは円だ。

 テストの回答が正しかった時に先生からもらえるような赤い丸に、同じ色の数本の線が放射状に付け足してある。ただの旭日旗、ともいう。


 しかしそれは、ホールの中にたむろする怪異たちにとって特別な意味を持つ。


 見苦しい男たちは一様に空を見上げ、獣のような叫び声をあげる。

 目を見開き、胸をかきむしり、宙に殴りかかろうと拳を振りあげる。


「君が代もつけたほうが良かったかしら?」

「おまえの下手糞な歌なんか聞きたくもないよ。それより見ろ」

 目の前で、整形ではりつけていた顔が溶け落ちる。

 そして腐った肉にただれた皮膚を張り付かせた怪異の真の姿があらわになった。

 舞奈は「うへっ」と顔をしかめる。


 泥人間どもは整形によって人間に成りすまし、人里に近づき人を襲う。

 だが破魔の印は泥人間の感情をかき乱し、奴らの忌むべき本性を暴きだす。


「あいかわらず酷い絵面だな。行くぞ!」

 怪異どもが正気を失い叫ぶ隙に、2人はコンクリート壁の陰から跳び出す。

 明日香は両手で小型拳銃(モーゼル HSc)を構え、教本のような美しいフォームで発砲する。

 泥人間の胴に3発、頭に2発の風穴が開く。

 蜂の巣にされた泥人間は溶ける。


 もちろん舞奈も負けてはいない。

 拳銃(ジェリコ941)を片手で構えて乱射する。


 ――否、乱射にあらず。

 如何な妙技によるものか、6発の大口径弾(45ACP)は手裏剣を背負った泥人間どもの頭をあやまたず吹き飛ばす。


「す、すごい……」

 背後で奈良坂が息を飲む。

 舞奈は笑う。


 少女たちの容赦ない先制攻撃によって、怪異の群は半壊した。


 ようやく襲撃に気づいた泥人間は、唸り声をあげて襲撃者に襲いかかる。

 鏡を抱えた1匹を残し、薄汚い着流しのサムライたちが走りながら抜刀する。

 装飾を施された漆黒の長剣が1本、残りは錆びついた太刀。


 怪異たちは一斉に、獣のように叫ぶ。

 それに応じて、黒い長剣が漆黒の輝きを放つ。

 錆びた太刀は炎に、あるい青白い放電に包まれる。

 1匹だけ残ったニンジャの姿は溶けるようにかき消える。


「【重力武器(ダークサムライ)】【火霊武器(ファイヤーサムライ)】【雷霊武器(サンダーサムライ)】に【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】ね」

「雑魚ばっかりだな」

 拳銃(ジェリコ941)が火を吹く。

 頭を吹き飛ばされた3匹のサムライが泥と化す。


 長剣のサムライは、自身を包む【重力武器(ダークサムライ)】の黒い光によって銃弾をはじく。

 斥力場障壁だ。

 その背後に4匹が続く。


 だが明日香が放った巨大な稲妻が、黒い障壁を砕く。

 そのまま【重力武器(ダークサムライ)】の本体を飲みこんで焼き尽くす。

 稲妻は続く4匹のサムライをも飲みこみ、消し炭に変える。


 即ち【雷弾・弐式ブリッツシュラーク・ツヴァイ】。

 戦闘魔術師(カンプフ・マギーア)が誇る攻撃魔法(エヴォケーション)のうち、最も初歩的な雷撃術。

 この程度の範囲攻撃すら、魔術師(ウィザード)にとっては容易い。

 明日香がグレネーダーの任を担う所以である。


 魔力を失った得物が固い音をたてて地面を転がる。

 燃えようが、放電しようが、刀は刀以上のものにはならない。

 舞奈は余裕の笑みを浮かべる。


 そして突然、側の明日香を突き飛ばし、砲弾のような勢いで虚空を蹴りあげる。

 その目前に泥人間があらわれた。

 右脚と左脚の間には舞奈のスニーカーがめりこんでいる。

 姿を消して明日香を襲おうとした【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】を、舞奈が蹴りあげたのだ。

 舞奈はすばやく泥人間に銃口を向け、だが撃たずに笑う。弾切れだ。

 目の前に、腐ってただれた醜男が迫る。

 錆びたナイフが、弾を切らした舞奈の脳天めがけて振りおろされる。


 次の瞬間、泥人間の頭が爆発した。

 風船が無理やりに膨らまされて弾けるような、不自然な爆ぜ方だ。


 飛沫をまともに浴びた顔を袖でぬぐうと、明日香と目があった。

 黒髪の少女は突き飛ばされたままの格好で拳銃(HSc)を構えていた。

 眼鏡も帽子もずれていない。

 帽子は異装迷彩、眼鏡は【物品と機械装置の操作と魔力付与】によって魔力を焼きつけられているからだ。


 そして拳銃(HSc)の銃身の、側面に刻まれたルーン文字がギラリと輝く。

 弾丸を斥力場で覆うことにより弾痕をこじ開き、吹き飛ばす魔術は、明日香の素早く正確な射撃によって敵対者を正確かつ確実に破壊する。

 だが、銃弾を強化する魔術は大量の魔力を必要とする。

 そして不足分を術者の心身を磨耗させることで補う諸刃の術だ。

 だからか滅多に彼女はこの術を使わない。


 明日香は、溶け落ちる泥人間を、親の仇を呪うような猛禽じみた瞳で睨む。


「……見えてたわよ」

 魔力を用いた透明化は明日香に対して無力だ。

 姿は見えなくとも、魔術師(ウィザード)は魔力を見ることができる。


「けど、動いたのはあたしが先だった」

「弾切れしてたのに?」

「そいつは、まあ……貸しにしとくよ」

 笑みを浮かべ、軽口をたたく。


「じゃ、今度ケーキでもおごってもらおうかしら?」

「万年金欠のあたしにか?」

 明日香はクスリと笑う。

 後ろで見ていた奈良坂も笑い、舞奈をねぎらおうと歩み寄る。


 その時、おぞましい叫びが耳をつんざいた。


 驚き見やると、最後に残った大柄なサムライが何事かを叫んでいた。

 そして汚物にまみれた鏡を両手でつかんで天にかざす。

 自棄になって壊すつもりか。


「させるか!」

 空の弾倉(マガジン)を落とし、ジャケットの裏から取り出した新たな弾倉(マガジン)に交換する。


 銃声。


 叫び声が唐突に途切れる。

 眉間と胴に風穴を開けたサムライが泥へと還る。


「……あ」

 手にした神鏡も重力に引かれて地に落ちる。


 ――否、鏡はまばゆい光を発しながら浮かびあがった。


 輝く神鏡から光線が放たれる。

 光線は、驚く舞奈の足元に着弾する。


 そこに、鎧武者が姿をあらわした。


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