幕間 ~稲葉の山は壁高く・軍議は今日も長期戦~
「落ちるか?」
信芽が口を開いた。何が、とは言わない。言わずとも、皆分かっていた。斎藤の城、稲葉山城だ。
「利華」
「…落とさねば、ならないでしょう」
凛とした眼差しで答えるが、その表情は少し曇っていた。というのも、幾度も織田側が斎藤に敗戦していたのだ。先の、―――斎藤が和議を破棄して起きた戦でも大敗を喫した。
「そう、であろうのう。秀果」
「数多の離反あれど、敵の勢い未だ衰えず…厳しいでしょうな」
彼女は木下秀果。元は身分の低い家の出だが、信芽の小者として仕え、清洲城の普請奉行や台所奉行を引き受けて成果を上げた人物である。信芽の草履取りをした際、その冷えた草履を懐に入れて温めた話はあまりに有名だ。
「そうじゃのう…敵方にはまだ竹中もいる。して、長穂。主はどう考える?」
「落とします」
毅然と答えたのは、今までの斎藤攻めで頭角を現してきた、丹羽長穂である。武にも智にも秀でた彼女は、凛然とした眼差しで信芽を見据えた。
「落ちるか、落ちないか、など考えても無意味です。落とす、という強い気概を持たねば落ちる城も落ちないでしょう」
長穂の言葉に、信芽は呵々と笑った。
「正しくその通りじゃ。だがこの戦、落とすには厳しい条件が揃っておる。それに長穂、主が軍略を不得手とすることくらい予も知っておるぞ?」
「うっ…お恥ずかしい…」
確かに長穂は智に秀でている。しかし、それは主に政、戦においては工作、補給等の采配で発揮されるものだ。軍全体を指揮し、軍略を練ることは不得手とする。彼女は、智者であって軍師でないのだ。
「そう縮こまるでない。人には得手、不得手があって当然。主が偶然、軍略を不得手としている、それだけのことじゃ」
「信芽様…」
「主は主の出来ることをやれば良い。主の采配に救われることも多いのだ」
「…勿体なきお言葉」
「………あの」
多少気まずそうに声を上げたのは、不安気な表情を残した秀果だ。その声色から、言ってもいいものかという小さな迷いが窺い知れる。
「軍略、考えましょう?」
彼女の言葉はどこまでも簡潔で、当然の意見だった。