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第二話 ~桶狭間・後編~

※注意※

今川義元(今川義乃)と織田信芽が一騎打ちします。

そして義乃がかませくさいです。ご注意ください。

「少し弱まってきたか…。じきに雨も止もう。本番はそれからじゃ」

霞む今川の本陣を見ながら言う信芽の傍に、利華と勝美が従う。突然の豪雨で中断された戦いは、ここに再び刃を交えようとしていた。雨に紛れての進軍に、気付かれた様子はない。今川軍本陣は、雨が止むまでと休息を取っているようだ。見張りの兵はいるが、全体としては緩んでいるように見える。


そしてこの雨が止んだ時、歴史は大きく変わることになるのだ。


「天に感謝せねばな。きっと、予に勝てとこの機会を与えたのじゃ」

おどけたように言いながら、その口元には自信に満ちた不敵な笑みを浮かべている。そして、馬上の当主はその刀を抜いた。

「皆の者、突撃せよ!我らが明日、掴み取ろうぞ!!」

再び戦が始まった。織田の兵たちは今川の本陣に向けて攻め込んでいく。

「何事か!?」

「あ、慌てるな!義乃様をお守りしろ!」

奇襲に今川の兵は動揺し、慌てて剣を抜くも、織田の兵は勢い付いていた。兵数では劣るものの、勝利の先に未来を見る織田の兵は強い。利華、勝美ら諸将も奮戦し、今川、織田の兵力は拮抗していた。各所で討ち取りの声が聞こえる。敵の混乱は織田の奮戦により更に深まり、情勢は大きく傾き始めていた。

「今川義乃ー!!」

喧噪の中に、怒号にも似た声が響き渡る。敵兵が竦み上がるほどの戦いぶりを見せるのは、織田家当主、織田信芽その人だ。彼女は、ただ一つ、今川の実質的な大将、今川義乃の首だけを狙って駆けていた。使い物にならなくなった馬を仕方なく捨て、そのまま敵を切り伏せていく彼女の姿に、織田の兵は希望を、今川の兵は絶望を見た。

「さっさと出てこんか!予が直々に斬り捨ててくれる!!」

「信芽様!突出してはなりません!」

「利華がお供致します!」

単騎、大将首を狙って駆けていく信芽に勝美と利華がそれぞれ言葉を投げる。が、信芽はそれを敵兵ごと斬って捨てた。

「勝美!利華!主らはよい!誰にも予の邪魔をさせるな!!」

勝美は眉を寄せ、利華は表情を険しくさせる。信芽は、溢れんばかりの闘志と上に立つ者の威厳を身に纏いながら駆けた。どうやら、共に行く気はないようだ。そして二人もそれを理解し、言ったら聞かない信芽を知るからこそ一帯の掃討にかかる。信芽の邪魔をさせないために。



「見つけたぞ!今川義乃!!」

「くっ…もう追い付かれるなんて…!」

親衛隊に守られる中、今川義乃は撤退を試みていた。自身が討たれることの意味を理解しているのか、単純に死が恐ろしいのかは分からないが。

「その首、この織田信芽が貰ってやる!!」

「そういうわけにもいきませんの!(わたくし)の首、尾張の小娘にあげられるほど安くはありませんわ!」

義乃が刀を構える。信芽も眼光を鋭くさせた。

「小娘と侮ったこと、後悔させてくれるわ!」

「そちらこそ海道一の弓取りを甘く見ないことですわ!織田の名を途絶えさせる覚悟はよろしくて?」

「ゆくぞっ!!」

信芽の足が地を蹴った。大きく振りかぶって上段からの振り下ろし。義乃はそのまま受け止める態勢に入る。甲高い金属音と共に、刀と刀はぶつかり合った。そのまますぐ離れ、信芽は次の攻撃を開始する。度重なる剣戟に、周りにいた兵士ですら恐れ慄いた。信芽が斬り、義乃が防ぐ。繰り返されるぶつかり合いは、衝撃波の如く兵士たちを震わせた。

「防戦一方か?海道一の弓取りもこんなものか!」

「貴方こそまだ一撃も(わたくし)に当ててませんわよ!」

二人の目がぐっと厳しくなる。剣戟はいつしか激しさを増していった。元々、武勇に優れた将というわけではない義乃は、自ずと押されていく。ふと、信芽の体がぐらりと傾いだ。そして―――

「っ…!」

刀に意識を向けていた義乃は咄嗟に反応できず、その攻撃は腹に直撃した。信芽の足が義乃の肉に食い込むかのような深い蹴り。義乃の体は、その衝撃に大きくぐらついた。手から刀が離れ、虚しく地に落ちる。その隙をつき、信芽が刀を振り下ろす。間一髪、義乃はそれを避けた。刀を掠めた義乃の髪が散る。

「一発、当てたぞ。文句はあるか?」

「くっ…!」

落ちた刀を取ろうと手を伸ばす義乃を、足で押さえ付けて制す。ぐっと信芽が足に力を籠めれば、義乃が痛みに呻いた。義乃を見下ろす信芽の瞳は、凍て付くほどの無情を湛えている。

「さて、覚悟は出来たか?今川義乃」

信芽が義乃を押さえ付けたまま刀を振り上げた。確実に仕留めるつもりだ。義乃も、もう攻撃を避けることなど出来まい。

「さらばじゃ」

義乃の黒髪が風に散り、鮮紅が黒を染めた。


総大将・今川義乃を失った今川軍は撤退。桶狭間での合戦は、織田軍の勝利となった。この後、有力な将を多数失った今川家は、松平の離反など衰退の一途を辿ることとなる。

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