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歩兵哀歌

作者: 俊衛門

まあ、なんていうかオチが弱いかもしれません。いろいろご指摘ございましたらお願いします。

 歩兵隊に就任して初めての軍務だ。

 彼は深呼吸を一つし、続いて彼方の敵陣を見据える。この初陣をどう飾ろうか、と考えていた。

 「先輩! どうやったら敵を討ち取ることが出来ますか?」

 「あぁ?」

 先輩と呼ばれた男は、面倒くさそうに見やる。

 「そういうのは上の連中に任せておけよ。俺らはおとなしくしてればいいんだ。歩兵は歩兵らしくだな・・・・・・」

 「そんな、自分は」 抗議の声を上げようとした、その時。

 『本部より入電! 七7方面へ敵“角”飛来!』

 「え?」

 ドゴォォォォォォォォォン!

 「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 部隊は壊滅した。




 奇跡的に生き残った彼は、次の作戦行動に赴くこととなった。

 銃の撃鉄を起こし、敵陣を狙うように構える。

 彼の頭の中は、どうやったら武勲をあげることができるかでいっぱいだった。

 「やめとけ」 と同期の一人が言う。

 「俺ら所詮は歩兵。手駒に過ぎんのよ。防波堤にされるのがオチだ」

 「何を言う貴様! われら王をお守りする立場のものがそれでどうする! 王に忠誠を誓ったならば王のために戦うことこそ本望だろう」

 「いやしかしね、どうせ一コずつしか進めな・・・・・」

 その時。

 『本部より入電! 七5方面に敵“飛車”飛来!』

 「え?」

 グシャァァァァァァァァァ!

 「ぐへぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 

 部隊は壊滅した。




 全身包帯だらけになりながらも、どうにか生き残った彼は次の作戦行動に赴くこととなった。

 キッと前方を睨み、そして手元の写真に視線を落とす。

 写真には故郷に残してきた婚約者が映っていた。

 (マリアンヌ、俺は勝つ。勝って君のところに)

 出陣の合図。各隊進軍を開始した。 運よく、彼の部隊は敵に遭遇することなく順調に駒を進めていった。やがて、敵歩兵部隊と会戦。

 彼は勇敢に戦った。そしてついに、敵歩兵部隊を蹴散らした。

 彼は最後の一人に銃を突きつけた、その時。

 男の懐から写真が一枚、滑り落ちた。拾ってそれを見る。

 ――男の傍らには、女とまだ幼い子供が映っていた。――

 (この男の家族か・・・・・・)

 不意に、引き金にかけた指が緩んだ。彼の目に、故郷の婚約者の姿が浮かぶ。

 (皆、守りたい人がいるんだ)

 彼は銃をおろし、

「行け」と一言だけ発した。

 男は、銃火の嵐を後にした。

 彼は思う。故郷と、自分の家族、愛するもの・・・・・・。

 敵将を討ち取り、手柄を立てることこそが自らの生きる意味と思っていた。しかし。

 (そんなことをしてなんになるのだろうか)

 戦場に身を置けばいつかは死ぬ。行動が制限されている歩兵であればその確率も高い。


 そうすれば故郷に帰ることは出来ない。そう考えると、武勲を立てることも馬鹿らしく思えてくる。

 (この戦いが終わったら帰ろう。俺の故郷へ)

 そして、家族とともに暮らそう。そう思った矢先。

 『本部より入電! 四9方面に敵“桂馬”飛来!』

 「え?」

 ドベシャァァァァァァァァァ!

 「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 部隊は壊滅した。




 全身をギプスで固め、杖にすがりつきながらも彼は生き残った。

 これを機に除隊願いを出したが受け入れられず、彼はまた盤上へと駆り出されることとなった。


 


 ――戦場で、いつも真っ先に犠牲となるのは最前線の歩兵達である。――


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです^^! 将棋の世界は、正に格差社会ですね。 最後の一文といい、歩の心理描写といい妙にシリアスで笑ってしまいました。
[一言] こんにちは! お礼返しに参上させて頂きました、あゆみかんです。 古い作品に評価をするのもどうかと思いましたが、数分単位の短編を少し読ませて頂いた中でコチラの作品が一番面白かったので(あくまで…
[一言] 将棋の心得があったので、拝読した瞬間に大爆笑してしまいました。 『一歩ずつしか進めない』のに、『マリアンヌ』。 歩兵の婚約者がどんな駒なのか、という事が非常に気になってしまい、 是非外伝を拝…
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