魔王様が告白なさる
67秒。セルロンは冷静にカウントした。口には出さなかったが、心の中でやっぱすげえ、と拍手した。
魔王様が、ユイシールにキスしていた秒数である。妖艶な美貌の魔王様、これまで幾人もの人間や魔族を手玉にとってきたのは、その容姿だけでなくそのテクニックもだということを、幼馴染であるセルロンは知っている。なんなら自分もそのおこぼれに預かったこともあった。なんの「テクニック」なのかはあえて言わない。
しかし対するユイシールは、いまだ男性経験がないのは明らかだった。仕事一辺倒の真面目な彼女を日々見ていれば、なんとなくわかる。魔王様にくちびるをふさがれ、ついばまれ、蹂躙されている最中もいったい自分はどうしたらいいのやら、といった風にじたばたし、魔王様に抑え込まれていた。キスされていた67秒間、どうやら呼吸の仕方がわからなかったようで、解放されたとたん、ぜえはあと荒く呼吸しはじめた。そんな彼女を愛おしいものを見るような、熱っぽい瞳で見つめる魔王様。
「……はあ、は……え、エリエラ様……いったい何を」
「え?だって、なんでもするっていうから」
にっこりほほ笑む魔王様に、困惑したようなユイシール。セルロンは笑いそうになったが、おそらくここは真面目な場面に違いない、と自らの手の甲をつねった。ここで空気を台無しにしたら、怒ると怖い魔王様が彼に処罰を下しそうだ。
「ユイちゃん。あなた、アタシのこと好きよね」
二人はひざまずいたまま、少しの距離を保っている。魔王様の左手がユイシールを軽く抱き寄せた。
「え?そ、それは当然です」
何をいまさら、という風に即答するユイシール。満足げにうなずいた魔王様は続けて2問目の質問をぶつける。
「アタシのこと愛してる?」
「魔王様以外に、私が愛すべき対象がこの魔界におりますでしょうか」
その返答にも、魔王様はにっこりと頷かれた。
そして、魔王様はおっしゃる。
「それならユイシール。アタシと結婚しなさい」
「申し訳ありません、魔王様。おっしゃる意味がわかりかねます」
ユイシールの返答は、困惑しながらもきっぱりしていた。即答である。セルロンは手の甲だけで足りず、頬までつねる。魔王様は不満げに瞳を細めた。
「意味が分からない?だから、あなたがアタシの結婚相手になりなさいと言っているの」
「それはできません、エリエラ様。私とあなた様では身分が違います。私はあなたの部下です」
ここまで魔王様のお言葉をユイシールが否定するのは、そう多くあることではなかった。魔王様の瞳が不愉快そうに細められる。常の彼女であれば、それに気づいて空気を換えようと努力しただろう。しかし、なぜか今日の彼女はかたくなだった。
「人間と結婚しようってヤツが身分なんて気にするものですか」
「しかし」
なおも言い募るユイシールに、魔王様は覚悟を決めた。すっと息を吸い込む。
「それにね、ユイちゃん。もともとアタシは」
「あの、魔王様」
しかし、魔王様の覚悟は行動となる前に防がれた。ユイシールにしては珍しいことに、魔王様のお言葉を遮り、切羽詰まった様子で言葉を発したのだ。まっすぐな青い瞳がワインレッドを射抜く。
「申し訳ありませんが、私、男性がにが、て……」
そこまで言うと、彼女はぱたりと倒れた。魔王様が慌ててユイシールを抱きとめる。
彼女は気を失っていた。