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魔王様のご成婚  作者: john.
本編
11/14

魔王様は真剣に口説かれる


「か、感じ……?」

 呆けた様子のユイシールに、魔王様は「そう」と軽い感じでうなずかれた。

「ユイちゃん、アンタたぶんすっごく敏感なんだと思うわ。ほら」

 つ、と魔王様が爪でユイシールの背中をなぞると、きゃあ!と魔界のクールビューティの称号をほしいままにしている魔界の筆頭副官ユイシール女史とは思えないほど、可愛らしい悲鳴が彼女の口から上がった。


 ほらね?というような魔王様の視線に、ユイシールは顔を赤らめて顔をそむけた。恥ずかしすぎる。

「とっても敏感だから、過度な接触するとそうなっちゃうのね。それにこれまでの経験が少ないものだから、卒倒までしちゃうのよ。それをアンタは異性が苦手なんだと思い込んで、よけいに過敏になってたんだと思うの」

 たしかに、たとえばセルロンなどは意識しない限りどれだけ接近しても平気だった。単にヤツのことが自分にとって取るに足らない存在だという説もありえるが、今も腰や背中のあたりをさわさわ駆け抜ける感覚や、これまでの数少ない異性との接触を思い出してみるに、魔王様の仮説は否定するまでには至らなかった。


「だから、アタシがアンタを慣れさせてあげる。最初は苦手だと思っていてもいいわ。きっとだんだん平気になるわよ」

 魔王様の自信満々な言葉にふむ……と納得しかけていたユイシールだったが、はたと自分が完全に丸め込まれていることに気づいた。

 問題はそこではないのである。


「魔王様!私はそもそも魔王様の副官。そんな私ごときが魔王様の結婚相手になどなれません」

「もう、ユイちゃんってほんと強情っぱりよね。真面目なんだから」

「真面目は私の数少ない取り柄です」

「よく言うわ」

 不満そうな魔王様に、ユイシールはいつもの調子を取り戻して冷静に言った。魔王様ははあ、とため息をついて、やおら自分の腕に力を込めた。

「え?」


 ユイシールは途中ですっかり忘れたようだったが、彼女はいまだ魔王様の腕の中にいたのだ。そして体重をかけた魔王様によって、彼女は今ソファの上に押し倒されていた。魔王様の腕は彼女の顔の横、魔王様の顔は彼女の上に覆いかぶさるようにしてあって、しかもこれ以上ないくらい楽しそうである。ワインレッドの瞳はどことなく熱っぽく、ユイシールは慌てて魔王様による檻から脱獄しようと試みたが、檻は頑丈であった。


「ユイちゃん。白状するわ。ま、ホントはこの間言おうと思ったんだけど」

「ななななんでしょう」

 明らかに倫理的によくない度が倍増した体勢に、ユイシールのどもりが戻ってくる。そして魔王様はやはり彼女の動揺など気にも留めていない。

「ユイちゃんみたいな人間、連れてきてって、アタシ言ったわよね」

「は、はい」

「そういえば、アンタは気づいてくれると思ったの。アタシがユイちゃんに気があるって。そしてあわよくばヤキモチでも焼いてくれないかしら、とも思ったわ。だから、そもそも本当に人間と結婚する気なんてさらさらなかったのよ」


「……は、い?」

 今、魔王様はなんとおっしゃったのだろう。頭の理解が追い付かない。魔王様が、自分に気がある?ヤキモチを、やく?

「魔王様、あの、申し訳ありません、理解が、できかねています」

「あのね。アタシが冗談で求婚すると思う?キスも、こんなことも、挨拶程度にしか考えていないとでも思う?」

 先ほどずばりそう結論づけていたユイシールは返答に困り視線をそらした。呆れたように魔王様は彼女を軽くにらんで、そしてゆるく浮かべていた微笑みをしまいこんだ。

 瞳に真剣な光が宿り、切なげに眉根を寄せる。魔王様の表情は、もはや冗談を言うような雰囲気でもなく、このうえなく本気だった。


「ずっと、ずっと前から好きだった、ユイシール。真面目で、融通がきかなくて、頑張り屋で、可愛くて、美しい、アンタが欲しい。アンタの永遠を自分だけのものにしたい。お願い、アンタを、ちょうだい」


 目を見開いて魔王様を見つめるユイシールに、魔王様は言い募る。

「アンタの身分なんて関係ない。アタシはアンタがいい。アンタじゃなきゃいらない。アンタはアタシが一番大事よね?アタシの幸せを願うなら、はいと言って。ユイシール、アタシを幸せにして」

 結婚して、ともう一度低くかすれた声で懇願された。ユイシールは頭で考えるより先に、「はい」と返事をしていた。言ってから、自分でもその返答に驚いてしまう。しかし魔王様は微笑んで首を横に振った。

「魔界の契約に二言はないわ。結婚を承諾したわね、ユイシール」

「う」

 自分の理性は決して承諾などしていなかったのだが、雰囲気と魔王様の迫力と本気に負けたのだ。真面目な彼女は確かに先ほど自分の口が承諾した事実を否定できなかった。

 

 しかし、とユイシールは思う。そもそも、男性が苦手だ苦手だと思いながら2600年間生きてきた中で、こんな体勢になっていても決していやではない、それどころかもっと魔王様と近づきたいなどと思っている時点で、おそらく自分は結局のところ魔王様を愛しているのだ。その性別に関係なく。


「まあ、最初はきっと触れるのも触れられるのも慣れないだろうから、ゆっくり慣れさせてあげるわ。ちゃんと初心者には優しくするわよ。でもそのうちに味わわせてあげるわね、国ひとつを滅ぼすテ・ク」

 ちゅ、と魔王様のくちびるがユイシールのくちびるに重なる。最初いたずらのようについばんでいたそれは、だんだんと彼女の奥深くを探っていった。情熱的なくちづけに、ユイシールは意識が遠くなる感覚を覚える。やはりだめだ、自分は男性が苦手だ、だってこんなに気持ちいいもの、正気でいられるはずがない!


「永久に幸せにしてあげる、ユイシール」

 くちづけの合間に囁かれたその言葉が、意識の最後だった。

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