百人荘の住民達
夜、某日。僕の部屋にて。
「お主、その一手。悪くないな。だが、五手先で貴様は詰みだ」
「馬鹿野郎。これでお前、詰みだよ。飛車角金銀桂馬香車を失った弱小国家のお前にはもう、滅亡の未来しか残ってないだろうが」
僕は金を置く。詰みだ。これで、30連勝。
良い加減に解放して欲しい。
河童は顔に影を浮かべ、手に持っていたマヨネーズきゅうりを握りつぶす。
おいやめろ僕が掃除するんだぞ。
「あーあーまた負けたんだねいい加減諦めなよ。もはやそんな無惨な負け戦を創り出す方法をご教授願いたいくらいね」
「戯言を。小童にはこの勝負の意味がわからないだろう」
「少なくともアンタには負けないと思うわ」
「小童それ以上舐めた事抜かすと河童流格闘術弐之式改をお見舞いするぞ」
「いいわよ。アンタ如き、私のデュランダル=レクイエムで一瞬よ。八つ裂きよ」
「やめろ。これ以上騒ぎを起こすな電波女。そのプラスチックソードと痛々しい聖女コスプレだけでも、手を焼いてるというのに。熱血漢が来たらどうするつもりだ」
「あぁあの大型機械野郎なら今、猫ちゃんと一緒に河原で決闘してるから今は居ないわよ」
僕はひとまず安堵した。この狭い部屋は、ただでさえ暑苦しいのに、あんな業務用ヒーターみたいな奴に来られたらたまったものではない。
「ところで、今日ゴーストも来るって言ってなかったか?」
「あぁ幽霊幼女?いるわよ」
寒気を感じ背筋がぞっとする。僕の膝の上に幼女が座っている。
「おいゴースト。そろそろ僕の心臓も限界が来るから、やめてくれ」
「お兄ちゃんはボクを見放すの?見放すの?」
「わかったよわかった。別にいきなり僕の前に来ても良いから。頼むから、夜中いきなり僕に金縛りをかけるのは勘弁してくれ。鬼火もなしだ」
「へへへっお兄ちゃんへの愛の証だよ?」
「愛がホラー!やめてくれ俺が何をしたって言うんだよ……普通の恋をさせてくれよ僕にも」
「アンタが普通の恋を歩めるわけないじゃない。私の未来予知もといタイムオブスコープで証明済みよ」
「まぁそう気を落とすな。お主にもこのきゅうりをやろう」
「いらねぇよそんなぐちゃぐちゃきゅうり」
僕は面倒になり寝転びテレビを見る事にした。だが、それも叶わない。
「おいお前ら俺の部屋はフルオープンプライバシー無効なのか。おい大家仕事しろよ。てか仕事選べ、犯罪者を見て見ぬ振りして入居させるな通報するぞ」
「人聞き悪い事言わないで頂戴。ちゃんと壁に穴を開ける許可は大家さんに貰ったじゃない」
「ストブルをするにはプラ3が必要。プラ3はここにしかない」
ストブルとは格闘ゲームでプラ3とはプライステーション3というゲームハードだ。
このprprクーデレ狐幼女と、財産を全てフィギュアに捧げた残念極まりない巨乳犯罪者は、僕の部屋でストブルの対戦をするのが最近の流行りらしい。迷惑極まりない。狐ちゃんとストブルをするのは俺とだけでいいのだ。
ちなみに猫、狐と来て、犬もこの百人荘にはいる。まったく期待を裏切らない、腹立たしい。
テレビを見ると気持ち悪いくらいのヒット数で狐ちゃんがフルボッコされてた。可哀想で仕方ない。てか狐ちゃん可愛いよ。よしこのひん曲がった巨乳女を捻り潰してやるとしよう。
「また負けた。きょぬーは強い」
「狐ちゃん!俺と変わってくれよ!仇を打とう!」
最高の下衆なスマイル。奴ら曰くゲスマイル!まったく面白くも何ともない。
べ、別に俺はロリ○ンじゃないんだからな!
「気持ち悪い。近寄らないでください変態」
僕はいたたまれない気持ちになり、部屋を飛び出した。いいよ河原に行って猫ちゃんに加担して、機械男を川に流して来てやる。不法投棄とかこの際関係ないしな!
僕は今はこの環境に慣れてしまいつつあるが、客観的に見たらなかなかに異常である。
事の顛末は僕が大学生として新生活を始めるという事に至り、この激安賃貸百人荘に引っ越してきたことがきっかけなのである。
まぁそれはおいおい話していくつもりだ。
僕は今河原で熱血漢に襲われている、いたいけな幼女を救ってやらねばならないからな。