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涙目のサディ - 小さな魔女の物語 -  作者: 月森冬夜
幕間 疾風のルーシア
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幕間 疾風のルーシア(2)

 オットーが熱いお茶の入ったコップをわたすと、ルーシアは「ありがと」と言って暖をとるように両手のひらで持ちました。

 ルーシアは森の中を歩いてきたわけではありません。春が来て陽射しは暖かくなったものの、まだまだ上空の風は冷たいのでした。

 ルーシアはしばらくそうしてコップを持っていましたが、オットーに「おれの茶なら飲めるだろ?」と言われて、やっと口をつけました。


「新人さんはどうだい。ほうきのほうは?」


「新人といってももう二年くらいなるけど、まだまだあぶなっかしいわね」


 オットーがメモに書いてあった品をピックアップしながらたずねると、ルーシアはお茶をすすりながら答えました。


「あんたとくらべりゃ誰だってそうだろうよ」


「まあね」


 アイーシャから聞かされた暗い過去があるとは思えないほど、ルーシアは屈託がなく、明るい性格は自信家とも思える発言でも嫌味なく相手にとどけます。七歳と五歳になる息子たちにも人気があるので、オットーはどちらかの嫁にどうかと考えていました。


「あんた、歳はいくつになるんだったかね?」


「今年で十七よ」


「……そうか」


 少々、歳が離れています。しかし、歳下の面倒見はよさそうです。新人の魔女についても「妹ができたみたい」と嬉しそうにいろいろと話します。

 おしゃべり好きではあっても魔女の内情についてはあまり語ることをしないルーシアが、ここまで話すのはめずらしいことでした。

 ルーシアは、無愛想だった先代とはぜんぜん性格がちがいます。

 そのひとなつこい笑顔を見ていると、自分たちのあいだにある壁が、少しずつ溶けだしているのではないかとオットーには感じられるのでした。




 オットーが注文の品を袋に詰めおわったころ、村のほうから男がひとり歩いてきました。


「あれは……」


「ほう、めずらしいな」


 ルーシアもオットーも知っている人物でした。

 ふたりと目が合うと、男はにっこりと微笑みました。長い銀髪と涼しげな目もとが印象的なすらりと背の高い男でした。


「やあ、なんとか会えました。よかったよかった」


 それは、ルーシアに向けた言葉でした。


「え、あたし?」


「大至急フレイヤ殿のところまで送ってもらえませんか」


「フレイヤ様?」


「王教委の先生がそんなにあわてて、なにかあったのかい?」


 オットーがたずねました。

 男は王立教育委員会のエルリッツォ・バルディでした。


「ええ、国家の一大事なのです」


「なにそれ? おおげさね」


「それが、そうでもないんですよ」


 エルリッツォの温厚そうな表情からはあまり読みとれませんが、言葉からは緊迫した雰囲気がつたわってきました。

 突然のことに、ルーシアとオットーは顔を見合わせました。


「送るって、あなたをほうきに乗せて飛ぶってこと?」


「はい」


「ええ! 落っこちてもしらないわよ?」


「しかし、行かなければならないのです。それもなるべく早く」


「国家の一大事とフレイヤ様になんの関係があるわけ?」


「それは、おいおいお話しします」


 ルーシアは荷物をどさりと地面に置きました。フレイヤが関わっているとなれば無視できません。それにフレイヤのもとには妹のように思っているサディもいるのです。


「おじさん、荷物はまた今度取りにくるわ」


「ああ……気をつけてな」


 オットーはなにがなんだかわからないままうなずきました。

 ルーシアは首に下げたゴーグルをかけてほうきにまたがり、カワセミをポケットにしまうと、エルリッツォに後ろに乗るよううながしました。


「感謝します」


 エルリッツォもほうきにまたがり、ルーシアの腰に腕をまわしました。


「しっかりつかまってほしくないけど、しっかりつかまっていなさいよ!」


 そう言うとルーシアは空高く飛び立ちました。






 幕間


 疾風のルーシア


 終

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