石の記憶 回想編 賑やかな休日
賑やかな休日
青い空が広がる休日。
「着いたー!」
車がアウトレットモールの駐車場に入るなり、後部座席から元気な声が響いた。
「お父さん!早く行こう!」
「お姉ちゃん待ってよー!」
小学四年生の沙羅は、背中まである長い髪を揺らしながら車を降りる。
その後を、ショートカットの珠里が慌てて追いかけた。
「二人とも、走らないの。」
香苗が苦笑する。
「はーい!」
返事だけは元気だ。
智彦は荷物を肩に掛けながら笑う。
「昔は俺たちも、こんなに元気だったかな。」
「私は今でも元気よ。」
香苗が笑う。
「お父さんが年取っただけじゃない?」
沙羅の一言に、
「えっ、いきなり?」
家族みんなが笑った。
アウトレットモールは休日らしい賑わいだった。
家族連れ。
カップル。
友達同士。
あちこちから笑い声が聞こえる。
「お母さん見て!」
アクセサリーショップの前で沙羅が立ち止まる。
「このヘアゴム可愛い!」
「ほんと。」
香苗も覗き込む。
「珠里は?」
「私はこっち!」
珠里はイヤリングのコーナーに夢中だった。
「お姉ちゃん見て!かわいい!」
「珠里、耳が見えるから似合いそう。」
「ほんと?」
嬉しそうに耳へ当ててみる。
智彦はその様子を少し離れた場所から眺め、自然と頬が緩んだ。
「女の子って楽しそうだな。」
「だから言ったでしょ。」
香苗が笑う。
歩いていると、ふと智彦の足が止まった。
「……あ。」
天然石やアクセサリーが並ぶ店。
ショーケースの奥に、一つのペンダントが飾られていた。
深い緑色。
モルダバイト。
「……大きい。」
思わず見入る。
「こんなサイズ、昔は見たことなかったな……。」
値札を見る。
「……え?」
思わず二度見した。
「高っ……。」
昔、自分が持っていたものよりずっと大きい。
だから値段にも驚く。
「お父さん?」
気づけば沙羅が隣にいた。
「何見てるの?」
「昔持ってた石。」
「これ?」
珠里も覗き込む。
「きれーい。」
智彦は小さく頷く。
「昔な。」
「へぇ。」
沙羅は値札を見る。
「……。」
そして父を見る。
「お父さん。」
「ん?」
「これ。」
「うん。」
「女の子向けだよ?」
「……え?」
「欲しいの?」
珠里まで首を傾げる。
「お父さん女の子みたい!」
二人同時。
店内に笑い声が響いた。
「違う違う!」
智彦は慌てて手を振る。
「昔持ってたってだけ!」
「ほんと?」
「ほんとだって!」
香苗は堪えきれず吹き出した。
「ふふっ……。」
「笑うなよ。」
「だって。」
娘たちも笑いっぱなしだ。
「お父さん可愛い。」
「可愛くない!」
「ねー、お姉ちゃん。」
「ねー。」
智彦は頭をかきながら苦笑した。
「参ったなぁ。」
「お父さん!」
「次あっち行こう!」
「フードコートも行きたい!」
「デザート食べたい!」
「はいはい。」
「お母さんも!」
「もちろん。」
香苗が娘たちと手をつなぐ。
その光景を見ながら智彦も歩き出す。
昔、自分が夢中になった天然石。
今は娘たちが夢中なのはアクセサリーやおしゃれ。
それでいい。
時代は変わる。
興味も変わる。
でも。
家族で笑いながら歩く休日は、きっと何年経っても変わらない。
「お父さん、早くー!」
「今行く!」
智彦は笑って手を振る。
午後の陽射しの中。
四人の笑い声は、休日のアウトレットモールにいつまでも響いていた。




