約束の果てに、キミともう一度
僕のこと、キミは覚えてるかな。
あのときの記憶は、正直もう曖昧だ。けれど、あの瞬間が僕にとって人生を変える選択だったことだけは覚えている。
そして――あのとき感じた、キミのやさしさと手のぬくもりだけは、今でも忘れられない。
……いつかまた、会えるだろうか。そんなことを時々考えてしまう。今日も、何の変哲もない“日常”の中で。
「学校って来るまでがだるいよな~。お前もそう思うだろ、緋月」
「……ごめん、思わない」
「真面目ちゃんだねぇ。俺、今日はサボろうかな」
この軽薄な男は、俺の唯一の友達だ。毎日学校には来ているが、気づくと姿が見えない。仮病を使って保健室で寝ているらしいが、俺はその姿を見たことがない。
「あ、そうだ! お前三組の金髪、見たか? 入学早々、指導室に呼ばれてたやつ」
「そんなやついたか、記憶にない」
金髪のやつ――たぶん、入学式に金髪で出席し、生徒指導室送りになった無駄に顔のいい男のことだろう。
その程度しか知らない。だから記憶に残っていなくても不思議じゃない。
「噂の金髪くん、女子人気やばいらしいぜ。クラスでも一軍のグループにいるって話だ」
「羨ましいのか?」
「そりゃあ男なら羨ましいだろ。でもな、こっからが本題。女子からの告白、全部断ってるらしいんだ」
「恋人は作りたくないタイプってやつじゃないの」
「いや、好きな人がいるらしいぜ。イケメンからの想いに気がつかない女子なんて、いると思うか?」
正直どうでもいい話だけど、こいつは満足するまで話をやめないタイプの、少しめんどくさい男だ。
適当に流すと余計に噛みついてくるし、そもそも他人の恋愛話でどうしてここまで盛り上がるのか、理解できない。
「いいじゃん、好きな人がいるって。誰かを本気で想えるってだけで、人間味あると俺は思うけどな」
「初恋もまだな緋月に聞いた俺がバカだった。ごめんな~」
「……お前、殴られたいのか」
そう言いながらも、心のどこかで誰かを想うという感情が、ほんの少し羨ましかった。
「っ……」
笑い声が途切れた瞬間、教室の空気がふっと静まった。
ふと、廊下の奥から靴底の音が微かに響いた。周囲のざわめきに紛れ、誰にも届かないような音。それなのに、不思議と耳が勝手にそちらへ向いた。次の瞬間、視界の端を金色の何かがゆらりと横切った。光だったのか、髪だったのかわからない。ただ、そこに“誰か”がいた気がした。
「おい、次の授業移動だぞ」
「あー、行くか」
何でもないふりで立ち上がりながら、胸の奥が少しだけざわついた。あの金髪の噂――ただの他人事のはずなのに、なぜか心の奥で金色の光だけが、消えずに残っていた。




