1. 人生は厳しい
この世界は、とても不公平だ。
生き残るためには、他人を踏みつけなければならない。
力を持つ者は、何も持たない弱い者たちから奪う。
だが――
この物語で、ある一人の青年の人生は、
一匹の悪魔と出会ったことで、静かに変わり始める。
東京・2007年
佐藤大和、21歳。
学校には通っていない。
カフェでアルバイトをしている。
彼の夢は――死ぬことだった。
人生は不公平で、
今の生き方を続ける意味があるとは思えなかった。
毎日が同じだ。
起きて、働いて、家に帰って、食べて、眠る。
それが正しいのかどうかは、彼自身にも分からなかった。
月曜日、午前6時。
目覚まし時計が鳴り響いた。
眠気に負けた大和は、
アラームを止め、そのまま再び眠ってしまう。
気づいた時には、もう午前9時だった。
彼のシフトは、朝7時から始まっている。
その瞬間、スマートフォンが鳴った。
画面には「木村」の文字。
大和は慌てて電話に出た。
「も、も……もしもし……?」
『ヤ・マ・ト!』
電話の向こうで、深いため息が聞こえた。
『……今日はいい。だが、次はないと思え。
今日は休んでいい』
「……はい。ありがとうございます、店長」
大和はベッドから起き上がり、シャワーを浴びた。
服を着替え、ヘッドホンをつけて、街へ出る。
本当は――
誰かと話したかった。
友達が、欲しかった。
――どこかの知られざる場所
赤い水晶玉の中に、
東京を歩く大和の姿が映し出されていた。
まるで、誰かに見られているかのように。
「ケッキ。お前の番だ」
低い声が、静かに告げた。
大和は川沿いを歩いていた。
網で魚を捕る子どもたち。
野球をして遊ぶ子どもたち。
何軒もの店の前を通り過ぎても、
特に心を惹かれるものはなかった。
――その時。
一人の少女が目に入った。
とても、綺麗だった。
彼女も一人で、ヘッドホンをつけ、MP3プレイヤーで音楽を聴いている。
ただの偶然。
それでも、大和は思った。
――この機会は、二度と来ない。
彼は勇気を振り絞って、声をかけようとした。
その瞬間。
子どもたちの投げた野球ボールが、
大和の顔面に直撃した。
「ぐっ……!」
彼はその場に倒れ込んだ。
少女は振り返り、地面に倒れる大和を見て、
思わず、困ったように笑った。
「ご、ごめんなさい!」
大和は顔を真っ赤にした。
こんな姿を見られるなんて、最悪だった。
少女も笑うのをやめ、慌てて言った。
「あ、えっと……だ、大丈夫? 立てる?」
彼女は手を差し出した。
大和はさらに緊張しながら、その手を握り、立ち上がる。
彼はボールを子どもたちに返した。
「私は日和。よろしくね」
少女は、そう言って微笑んだ。
大和の頭は真っ白になった。
――女の子と、話している。
「ぼ、ぼくは……や、やまと……」
「へぇ、いい名前だね。
それに、MP3で音楽聴いてるの、珍しくない?」
「う、うん……。君は、何を聴いてるの?」
「90年代のシティポップ。最高だよ」
「えっ!? 本当!?
ぼ、僕も90年代のシティポップ、好きなんだ!」
まさか、音楽の趣味まで同じだなんて。
大和は、もっと彼女のことを知りたいと思った。
「ごめん、そろそろ行かなきゃ」
「あ、ま、待って!
連絡先、教えてくれない?
いつか一緒にシティポップのライブ、行かない?」
「うん! ぜひ!」
日和は、彼に番号を渡した。
大和は、その後も街を歩き続けた。
けれど――
その日は、少しだけ世界が違って見えた。
自然と、笑顔になっていた。
それも、無理のない笑顔で。
……友達が、できたのだから。




