表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/45

冒険者の入口

赤竜亭での仕事は、相変わらず地獄だった。

朝は掃除。

昼は配膳。

夜は皿洗い。

冒険者は遠慮を知らない。

飲む、食う、こぼす、割る。

そのたびに、仕事は増える。

「……これ、修行じゃなくて労働だよね?」

誰に聞くでもなく呟くと、返事は返ってこない。

返ってくるのは、次の皿だけだ。

でも、不思議なことが起き始めた。

重かったジョッキが、前より安定して持てる。

客の動きが、少しだけ読みやすい。

足も、昨日ほどもつれない。

《Dexが1上がりました》

《Vitが1上がりました》

……地味。

あまりにも地味だけど、確実に上がっている。

「成長演出がショボいんだけど」

そう言うと、バルドは肩をすくめた。

「生きてりゃそんなもんだ」

夜になると、賄いが出る。

この日は、ダンジョンワニと根菜の煮込みだった。

脂が多くて、腹にたまる。

「……美味しい」

噛むたびに、体の奥が熱くなる気がする。

《Strが1上がりました》

「また上がった」

「モンスター飯は、冒険者の基礎だ」

バルドは淡々と言う。

「いきなり強くはならねぇ。

 でも、弱いまま死なねぇ程度にはなる」

その言葉が、妙に胸に残った。

数日後。

赤竜亭の仕事にも慣れてきた頃、

私は裏口で木箱を運んでいた。

バランスを崩しかけた瞬間、

体が勝手に動いた。

転ばない。

落とさない。

(……今の、避けた?)

《Dexが1上がりました》

息をついて、私は笑った。

「……地味だけどさ」

剣も、魔法も、まだ使えない。

でも。

「前の私よりは、確実にマシだ」

その夜、バルドが言った。

「そろそろだな」

「なにが?」

「街の外に出ても、即死しねぇくらいにはなった」

即死基準なのか。

「ダンジョンは、逃げ場のある浅い層からだ。

 欲張るな」

私は、静かにうなずいた。

明日。

私は初めて、ダンジョンに入る。

そこで――

誰かと出会う予感がしていた。

理由は、ない。

ただ、そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ