ザビエル爆死
法王ザビエルは、戻った。
――何も成し遂げないまま。
神にも会えず、
210号室にも行かず、
ただ「理解できなかった」という事実だけを抱えて。
そして、それが致命傷だった。
数日後。
街に、新しい本が出回り始めた。
表紙は黒。
金文字で、こう書かれている。
『法王ザビエル、ここで沈黙す』
副題。
《――“二一〇号室の二人”を前にして》
中身は、ザビエルの演説集だった。
・これは罪である
・理解不能である
・神への冒涜である
・なぜ人は熱狂するのか分からない
……要するに、全編ブチギレ。
だが問題は、そこじゃない。
信者たちの解釈が、勝手に始まった。
「法王が“理解できない”と言った……」 「つまり、神の領域ということでは?」 「法王を沈黙させた物語……」 「これ、逆にすごくない?」
誰かが言った。
「これって…… “法王すら言葉を失った章”じゃない?」
――終わった。
数日後には、分派が生まれた。
名称: 沈黙黙示派
教義: ・法王が理解できなかったものは、深淵である
・深淵は、覗いた者を変える
・ゆえに“理解できない”と告白した法王は、証人である
ザビエル、聖典の脚注になる。
サクラは頭を抱えた。
「……ナギ様」 「はい」 「これ、こちらの教団がやったことにされてます」 「事実では?」 「我々、何もしてません」 「“何もしなかった”のが原因ですね」
最悪の評価だった。
街では、こんな呼び名が定着する。
・法王を沈めた本
・叫びを無力化する物語
・断罪を素材に進化する聖書
そして帯文。
《※本書には法王の断罪が含まれます》
売れた。
異常に。
その頃、当の本人。
ザビエルは、机を叩いていた。
「なぜだ……!! 私は否定した!! 理解しないと宣言した!! なのになぜ…… “解説役”になっている!!」
側近が震えながら言う。
「法王聖下…… 現在、“ザビエル版注解”が三刷目です」
「やめろォ!!」




