ザビエル焦り出す
最初に異変が出たのは、
教義でも奇跡でもなかった。
――人数だった。
朝の礼拝。
いつもなら埋まる長椅子が、やけに目立つ。
ザビエル法王は、祈りの途中で目を開けた。
(……少ない)
隣の司教が小声で言う。
「法王猊下」 「南区の信徒が、今朝は見当たりません」
「病か?」
「いえ」 「どうやら“別の祈り”に参加しているようで」
ザビエルの眉が、ぴくりと動く。
「……どこだ」
「サクラ教です」
沈黙。
「理由は?」
司教は、言いにくそうに答えた。
「ええと……」 「“分かりやすいから”だそうで」
「……分かりやすい?」
別の司教が慌てて補足する。
「教義が、ではなく」 「関係性が、です」
「神が誰で」 「聖女が誰で」 「誰が触れていいか、だめか」
「全部、明文化されています」
ザビエルは、ゆっくり椅子に座り直した。
「……馬鹿な」 「信仰とは、曖昧さの中で――」
「その“曖昧さ”が」 「今、嫌われています」
司教の一言が、刺さった。
報告は続く。
・懺悔室が空いている
・説教中に途中退席が出る
・「サクラ教の方が話が早い」という声
・「神が喋るのに、なぜ法王を通すのか」という疑問
ザビエルは、額を押さえた。
「……待て」 「神が“喋る”?」
司教が資料を差し出す。
「はい」 「公式声明が頻繁に出ています」
紙をめくる。
「誤読は自由です」
「ただし責任は知りません」
「返す気はありません」
「……」
ザビエルの口が、わずかに開く。
「なぜ」 「なぜ誰も止められない」
司教が、静かに言った。
「止める理由が、ないからです」
「奇跡は?」
「あります」
「教義は?」
「一貫しています」
「聖女は?」
「実在しています」
「……神は?」
一拍。
「名乗っています」
完全に、詰んだ。
ザビエルは立ち上がり、声を荒げる。
「同性愛は罪だ!」 「それが宗教の常識だぞ!」
司教たちは、目を逸らした。
「……猊下」 「その発言の直後に」
「?」
「サクラ教側が声明を出しました」
紙を読む。
「罪かどうかは知りません」
「ただ、禁止していません」
「以上です」
短い。
強い。
逃げ道がない。
その日、
キリスト教会から
静かに、だが確実に人が流れた。
叫ばない。
叛かない。
ただ、来なくなる。
ザビエルは、夜、一人で呟いた。
「……まずい」 「これは、異端ではない」
「競合だ」
そして遠く、
どこかの宿で。
私は印税の袋を数えながら、
何気なく言った。
「へえ」 「人、減ってるんだ」
誰も止めない。
――むしろ、
加速する音だけがしていた。




