所有宣言
広場が静まり返る。
静かすぎて、
鳩が一羽、空気読まずに鳴いた。
ルミエルは、白いローブのまま立ち尽くしている。
寝癖、ちょっと残ってる。
(あ、これ絶対まずい流れだ)
そう思った瞬間、
私はもう前に出ていた。
「……彼女は」
自分でも驚くほど、声が通る。
「私のだ」
――以上。
補足なし。
説明なし。
勢いだけ。
アレンが即ツッコむ。 「いや待て待て待て待て」 「今の、言う必要あったか?」
セリオも青ざめる。 「ナギ……それは、その……」
遅い。
世界のほうが、解釈を始めていた。
「……私の、だと?」 「神が、所有を?」 「聖女は神の私物……?」 「つまり貸出不可……?」
誰だよ最後。
ざわざわが、勝手に方向性を持つ。
「触れるな」 「所有物だ」 「近づくな」 「指紋がつく」
ルミエルの周囲から、人が引いていく。
三歩、五歩、なぜかきっちり等間隔。
「え、え?」 ルミエルが困惑する。 「私、モノじゃ……」
「聞いたか!?」 「聖女が“私はモノではない”と否定された!」 「所有を否定できるほど尊い!」
アレンが頭を抱える。 「だから言っただろ……」 「俺たちを巻き込むなって……」
セリオは、なぜか神妙な顔で頷いている。 「……否定が肯定になる段階に入ったね」
知らん段階を作るな。
ルミエルが、必死にこちらを見る。 「ナギ様、違いますよね?」 「私、普通に――」
誰かが即座に割り込む。 「聖女は“普通”を名乗られた!」 「これは“人に戻りたい”という祈りだ!」
「戻らなくていいです!」 ルミエルが叫ぶ。
「おお……」 「慈悲だ……」 「我らのために留まってくださる……」
私は、何もしていない。
本当に、何も。
ただ一言、口を滑らせただけだ。
(……やばい)
(でも)
(訂正したら、もっと増えるやつだこれ)
私は諦めて、腕を組んだ。
「……ルミエル」
全員が、息を呑む。
「とりあえず今日は、宿に帰る」
「!!!!!」
「聖女が!」 「神と同じ宿に!」 「同衾!!?」
「してません!!」 アレンが即否定する。 「毎日じゃねえからな!!」
誰も聞いてない。
ルミエルは、赤くなって俯いた。 「……いつも通り、寝るだけです」
「聞いたか!?」 「“いつも通り”だと!!」
私は、空を仰いだ。
(ああ……)
(“私のだ”って)
(所有じゃなくて、ただの本音だったんだけどな)
その日、街に広まった公式見解はこうだ。
聖女は神の所有物であり、
所有者は特に管理する気はない。
一番困っているのは、
その“所有者”本人だった。




