宗教戦争
【公式声明】
「ルミエルはサクラ教の聖女である。
キリスト教は、手出し無用。」
――以上。
私は、
本当にそれだけのつもりだった。
境界線を引いただけ。
所属を明確にしただけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
……はずだった。
街に落ちた瞬間、
声明は血を吸った。
黙示派の解釈。
「“手出し無用”とは」 「我々の“沈黙への侮辱”である」
「奪われたのだ」 「聖女を」 「言葉で」
「沈黙を守るためには」 「血で語るしかない」
――最悪の方向に、理屈が完成した。
一方、サクラ教。
「ナギ様が“聖女”と明言された」 「つまり」 「守れ、ということだ」
「命を賭して?」
「当然」
「これは殉教ではない」 「正当防衛だ」
理屈が、 あっという間に刃物になる。
最初の衝突は、
夜明け前の路地だった。
黙示派の信徒は、 無言で歩いてきた。
武器は持っていない。 代わりに―― “見ている”。
サクラ教の信徒が叫ぶ。
「近づくな!
聖女に近づくな!」
「……」
「黙るな!
返事をしろ!」
沈黙。
その瞬間――
「沈黙を破ったな」
どちらが先に殴ったかは、 誰も覚えていない。
気づけば。
・祈りが呪文になり
・沈黙が威圧になり
・象徴が標的になった
誰も、 ルミエル本人の意思など 一度も確認していない。
赤竜亭。
私は事態を知って、凍った。
「……殺し合い?」
アレンが怒鳴る。 「お前、何したんだよ!」
「線を引いただけよ!」
「宗教で線引いたら血が出るんだよ!」
セリオが静かに言う。 「ナギ」 「“手出し無用”は」 「“触れたら死ぬ”って意味になる」
「……知らないわよそんなの」
ルミエルは、 事態をまだ理解していない。
「え……?」 「みなさん、どうして怒ってるんですか?」
その一言で、 全員が黙った。
外では、 サクラ教 vs 黙示派 最初の死者が出た、という報せ。
理由はこう記録された。
「聖女を巡る正統性の衝突」
――本人は、
パンをちぎっていただけだった。
私は思う。
(……まずい)
(これは、煽りすぎた)
でも同時に――
(……印税、跳ねるわね)
最悪の自覚が、 胸の奥で静かに笑った




