教会介入
昼。
赤竜亭の前にできている列は、一本だけだった。
白。 金。 やたらと整った列。
「……増えた?」 アレンが言う。
「宗教だな」 セリオが即答した。
私は見なかったことにして扉を閉めた。
――ノック。
三回。 祈るように正確。
「失礼いたします」 「神聖教会・教理整合局でございます」
一番面倒な部署名が来た。
入ってきたのは、年配の司祭。
笑顔。 低い声。 敵意ゼロ。
「ナギ殿」 「ご安心ください」 「異端審問ではありません」
(来た)
「最近」 司祭はゆっくり言う。 「街で奇妙な現象が起きています」
「奇妙?」 「ええ」 「食事をすると、信徒が元気になる」 「祈らなくても、です」
私は即答した。 「料理です」
司祭は満足そうに頷いた。 「ええ。神は日常に宿りますから」
(解釈が強い)
「さらに」 司祭は続ける。 「“あなたの一言”が、特に効果を高めている」
「……どの一言ですか」
「『たまたまです』」
私は頭を抱えた。
「謙遜」 司祭は静かに言う。 「聖性の発露です」
「違います」 「誤解です」 「偶然です」
司祭は微笑む。 「奇跡とは、常にそう説明されます」
ルミエルが口を開く。
「わ、私は……」 「火を……祈りに……」
司祭がすっと振り向く。
「素晴らしい」 「火を媒介とした信仰解釈」 「すでに信徒の間で広まりつつあります」
「待ってください!」 ルミエルが慌てる。 「私はそんな――」
「大丈夫」 司祭は優しい。 「正典化はこちらで行います」
私は机を叩いた。 「勝手に決めるな」
司祭は少し困った顔。 「では“自然発生的信仰”という形で」
「余計ひどい!」
奥からバルトが出てくる。
「飯屋だ」 「信仰は出してねえ」
司祭は深く一礼。 「承知しております」 「だからこそ、尊い」
(論破不能)
「教会としては」 司祭は淡々と言う。 「介入はしません」 「ただ、見守ります」
「見守らなくていい!」
「寄付も不要です」 「巡礼も強制しません」
一瞬、安心しかける。
「ただ」 司祭は続けた。 「“解釈”は止められません」
私は理解した。
「……勝手に盛り上がるやつだ」
司祭は微笑んだ。 「信仰とは、そういうものです」
司祭が帰ったあと。
赤竜亭は妙に静かだった。
外から、ひそひそ声が聞こえる。
「……あの人が」 「否定するほど、聖いらしい」
アレンが言った。 「俺たちを巻き込むな」
「私もそう思う」
セリオがぼそっと。 「でも」 「もう巻き込まれてる」
ルミエルが小さく呟く。 「……私、祈ってないのに」
私は椅子に座り込んだ。
「最悪だ」 「教会が何もしないのが、一番やばい」
外では今日も、 祈られない祈りが増えていく。
赤竜亭は、 静かに、確実に、聖地になりかけていた。




