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食堂でレベリング

朝。

赤竜亭の前に、列ができていた。

「……なにこれ」

扉の影から外を見る。 人、人、人。 武装した冒険者、僧侶風、学者風、なぜか農民。

「祭り?」 アレンが欠伸しながら言う。

「違う」 セリオが眼鏡を直す。 「魔力反応が……祈りに近い」

ルミエルが顔を覆った。 「……まさか」

その時。

「赤竜亭式レベリングを――!!」

誰かが叫んだ。

「「「我らに!!」」」

一斉に頭が下がる。

私は扉を閉めた。

「説明して」 私は言った。

昨日の客の一人―― 額に汗を浮かべた中年冒険者が、正座している。

「はい……」 「簡潔に」 「はい」

彼は深呼吸した。

「昨日、ここで料理を食べた者たちが」 「うん」 「全員」 「うん」 「レベルが」 「うん」 「上がりました」

「うん」

「それを見た周囲が」 「うん」

「“赤竜亭式レベリング”と呼び」 「やめて」

「正式な修行法として」 「やめて」

「信仰対象に」 「やめて!!」

外がうるさい。

「赤竜亭に入れば強くなれる!」 「料理は試練!」 「胃袋を捧げよ!」

「誰が言った」 私は低く言った。

「……元Sランク冒険者のグラド様が」 「なんであの人いるの」

セリオがこめかみを押さえる。 「理論武装されると厄介だ……」

ルミエルが震える声で言う。 「祈りが……集まってます」 「やめてって言ってるでしょ」

その時、厨房から。

「うるせえ」

バルトが出てきた。

包丁を肩に担ぎ、 目が完全に据わっている。

「ここは店だ」 「修行場じゃねえ」 「宗教でもねえ」

扉を開ける。

「帰れ」

沈黙。

一人が恐る恐る言った。 「……でも、あの奇跡の料理は」

バルトは即答した。

「腹壊すぞ」

ざわっ。

「体質合わなきゃ死ぬ」 「素材は選ぶ」 「鍋は気分だ」 「再現性はねえ」

三連打。

「それでもいいなら」 包丁をトン、とカウンターに置く。 「“客”として来い」

静寂。

――次の瞬間。

「「「客としてお願いします!!」」」

土下座。

私は頭を抱えた。

その日の張り紙。

赤竜亭からのお知らせ

・レベリング目的の入店禁止

・祈り禁止

・唱和禁止

・「胃袋を捧げよ」禁止

※普通に食べたい人歓迎

しかし。

張り紙の下に、 誰かが小さく書き足していた。

※それでも強くなったら自己責任

私はそれを見て、 ため息をついた。

「……世界、もう戻らない気がする」

バルトが言った。 「今さらだ」

外では今日も、 静かに列が伸びている。

――赤竜亭式レベリング。

本人たちが最も嫌がっているのに、最も広まっている概念だった。

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