最高級モンスター料理
赤竜亭の裏口が、物理的に開かなくなった。
「……なんだこの箱の山」
扉の向こうで、バルトの声が低く響く。
「開けて」 「開けられねえ」
ガン、と木が鳴った。
「金貨が」 私は即答した。 「大量にある」
沈黙。 次の瞬間、扉が蹴り破られた。
「……何した」
カウンターの前。 床に並べられた箱が、全部開いている。 中身は――金貨。
「女王陛下の侍女が置いていった」 「著作権料」
バルトは一枚拾い、歯で噛んだ。 「本物だな」
「で?」 腕を組む。
「全部、料理にして」 私は言った。 「最高級で」 「量は?」 「全部」
一拍。
「……全員、覚悟しろ」
その夜、赤竜亭は戦場になった。
魔獣の肉。 希少魚。 幻果実。 ダンジョン深層産の香草。
「これ普通は王族用だぞ!?」 アレンが叫ぶ。
「私が頼んだ」 「そうじゃなくて!」
セリオは静かに皿を見つめている。 「……魔力、濃すぎないか」 「うん」 「食べるとどうなる」 「知らない」
バルトが鍋を振りながら言った。 「死なねえ程度には調整してやる」 「それ最低ラインじゃない?」
ルミエルは両手を組んで祈っている。 「これは……祝宴……」 「違う」 「聖餐……?」 「違う」
最初の一口。
世界が、弾けた。
《ステータス更新》
私の視界に、文字が洪水のように流れる。
《HP上昇》 《STR上昇》 《DEX上昇》 《INT上昇》 《耐性:毒+》 《耐性:精神+》
「……なにこれ」
アレンが呻いた。 「身体が軽い……」 次の瞬間、椅子を粉砕。
「おい!」
セリオは静かに目を閉じ―― 「……魔力循環、三倍」 「何それ怖い」
ルミエルは光り始めた。 「神よ……」 「やめて」
バルトは腕を組んで眺めている。 「……料理で人が進化するの、初めて見た」
二皿目。
《全員レベルアップ》 《基礎ステータス大幅上昇》
三皿目。
《隠し適性開放》
「ちょっと待って」 私は手を上げた。 「これ、食べ続けて大丈夫?」
バルトは即答した。 「もう手遅れだ」
食後。
床に転がる四人。
アレンは天井を見ている。 「……俺、今ならドラゴン殴れそう」 「やめて」
セリオは指先に火と水を同時に出している。 「理論が壊れてる……」 「やめて」
ルミエルは静かに微笑んだ。 「これは……奇跡」 「やめて」
私は言った。 「バルト」 「なんだ」
「また頼む」 「二度とやらねえ」
即答。
だが――
カウンターの下で、 バルトは小さく金貨を数えていた。
「……次は予約制だな」




