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飲み屋でバイト

赤い竜の紋章が描かれた看板の下で、私は立ち止まった。

《赤竜亭》。

ギルド受付嬢に紹介された、宿兼酒場だ。

中に入ると、むっとした麦酒の匂いと、肉を焼く音が迎えてくる。

昼間だというのに、客は多い。

カウンターの奥にいた男が、こちらを見た。

大柄。

無精ひげ。

腕は丸太みたいに太い。

……こわ。

「なんだ」

低い声。

短い一言。

「あ、えっと……働き口があるって聞いて」

男は私を上から下まで一瞥した。

白い服。武器なし。細い体。

「……名前は」

「ナギ」

「ふん」

男は鼻を鳴らして、カウンターの中から出てくる。

「俺はバルド。この店の店長だ」

近い。

圧が強い。

「言っとくが、ここは冒険者の溜まり場だ。

 甘い考えで来たなら、今すぐ帰れ」

「お金ないから無理」

即答すると、バルドは一瞬だけ黙った。

……怒るか?

「そうか」

そう言って、布巾を投げて寄こしてきた。

「じゃあ今日は皿洗いだ。

 死ななきゃ合格」

基準が雑。

「死ななきゃ、って……」

「ここじゃ普通だ」

普通なのか、この世界。

こうして私は、

ダンジョンでも勇者でもなく、

赤竜亭の皿洗い係・ナギとして、異世界生活を始めた。

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