著作権料
赤竜亭の扉を開けた瞬間、
私は嫌な予感しかしなかった。
「お、帰ったか」
カウンターの向こうで腕を組んでいる男――
赤竜亭の店長、バルトだ。
筋肉。
無精ひげ。
笑っているのに目が笑っていない。
「……何」 「なんでその顔」
「いやな」 バルトはため息をついた。 「今夜の営業、地獄だった」
「は?」
「“聖人ゆかりの宿”だとか」 「“神ナギ様が食事をした席”だとか」 「誰が言い出した?」
(心当たりが多すぎる)
カウンターの上に、貼り紙が置かれている。
《本日満席
聖餐目的の方はご遠慮ください》
「これ」 私は指差した。 「誰が貼ったの」
「信者」 即答だった。
「勝手に?」 「勝手に」
バルトは頭を掻く。 「昼間なんか、“この椅子に触れれば祝福が”とか言ってな」 「椅子持って帰ろうとしたやつが三人」
「警備は」 「俺」
拳を鳴らす音がした。
アレンが小声で言う。 「……すまん」
「お前らだろ」 バルトは即座に睨んだ。 「特にナギ」
「私?」
「お前だ」 「“原作者”とか言い出してから、客の目が変わった」
「前から変だったでしょ」
「質が違う」 バルトは真顔だ。 「前は“冒険者の溜まり場”だった」 「今は――」
一拍置いて。
「巡礼地だ」
(最悪だ)
「安心しろ」 バルトは急にニヤッとした。 「儲かってはいる」
「え」
「酒も料理も三倍出る」 「“神ナギ様と同じ物を”ってな」
(やめて)
「だから条件がある」 「何」
「店の名前は変えない」 「赤竜亭は赤竜亭だ」
バルトはカウンターを叩く。 「宗教色、これ以上持ち込むな」 「祈るなら外でやれ」
「……守れると思う?」
「無理だな」
即答。
「だが」 バルトはニヤリと笑った。 「その無理を通すのが店長だ」
私は少しだけ安心した。
(この世界で) (一番まともなの、こいつかもしれない)




