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臭い魔法

ダンジョン第三層。

湿ってて、暗くて、最悪の匂いがする――はずだった。

「……あれ?」 私が立ち止まった瞬間、空気が変わった。

腐臭付与オード・オブ・グール

意識したわけじゃない。

たぶん、アレンがさっきからずっと不機嫌だからだ。

「おい私、今なんか――」

言い終わる前に、

奥の闇から、ぞろぞろと影が出てきた。

グールだ。

「来るぞ!」 アレンが剣を構える。

……のに。

グールたちは、走らない。

唸らない。

むしろ――

「……あ?」 セリオが目を瞬いた。

グールの一体が、私の前で立ち止まり、

首を傾げた。

くん、と鼻を鳴らす。

次の瞬間。

仲間を見る目をした。

「……え、待って」 私は一歩下がる。

グールも一歩寄る。

「やめろやめろやめろ」 私はまた下がる。

グール、寄る。

アレンが叫んだ。 「それ敵認識されてねえぞ!!」

「知らないよ!!」 私だって知らない!!

周囲のグールたちも、次々と反応し始めた。 武器を下ろし、 唸りをやめ、 じりじりと――私の周りに集まってくる。

完全包囲。

「なあ私」 セリオが冷静に言う。 「それ、攻撃魔法じゃなくて……」

「言うな」 「……挑発だね」

「言うな!!」

グールの一体が、

私の肩に手を置こうとした。

「触るな!!」

反射的に後退した瞬間――

腐臭が、ぶわっと濃くなる。

次の瞬間。

グールたちが、一斉に跪いた。

「………………は?」

沈黙。

ルミエルが、震える声で言った。 「見てください……」 「死者が……選んでいます……」

「選んでない!!」 私は即否定した。

アレンが頭を抱える。 「最悪だ……最悪の魔法だ……」

セリオは、どこか遠い目をして呟いた。 「……聖性、上がったね」

その瞬間だった。

グールの群れが、 私の進行方向を避けるように、道を開いた。

「……通れるぞ」 アレンが言う。

私はゆっくり歩き出す。

グールたちは、静かに見送る。

(違う) (これは違う) (私、ただ臭いだけだから)

背後で、ルミエルが小さくメモを取る音がした。

「“聖人は怒りにより死者を従わせる”……」

「書くな!!!!」

アレンが叫んだ。 「俺たちを巻き込むな!!」

でも――

その声が一番響いたせいで。

腐臭が、また少しだけ、広がった。

グールたちが、深く、深く、頭を垂れた。

私: (……ダンジョン攻略、楽すぎるんだけど)

アレン: 「地獄かよ」

――こうして後に、

聖路行進オード・オブ・グール》と呼ばれる戦法が

正式に聖典に載ることになる。

※本人は最後まで認めていない。

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