炎に祈りを
炎は、もう消えている。
それなのに――
ルミエルは、私の手のひらをじっと見つめたままだった。
「……火は、祈りに似ていますね」
「え?」
私は思わず聞き返した。
「熱を持ち」 「触れれば痛みを伴い」 「それでも、人はそこに意味を見出す」
(なに言い出した)
セリオが少し困った顔をする。
「ルミエル、それはさすがに――」
「いいえ」
ルミエルは首を横に振った。 目が、やけに真剣だった。
「私たちの祈りも、同じです」 「神に近づこうとすれば、戒律が生まれ」 「間違えれば、罰が与えられる」
アレンが嫌な予感を覚えた顔をする。
「……おい」
「ですが」
ルミエルは、私を見る。
「ナギさんの火には、それがありません」
「?」
「唱えも、戒律も、裁きもない」 「ただ“在る”だけ」
沈黙。
「それは――」
ルミエルは、静かに結論を出した。
「とても、正しい在り方です」
(待って待って待って)
「いや、ただのファイヤーだから」 「魔法だから」 「モンスター食べた結果だから」
必死に説明する私を、 ルミエルはやさしく遮った。
「ええ、分かっています」
……分かってないやつの顔だ、これ。
「ですが」 「神の奇跡も、最初は偶然だったはずです」
アレンが小声で言う。
「なあセリオ」 「これ、止めた方がいいやつじゃないか?」
セリオは目を逸らした。
「……否定すると、逆に“深まる”タイプだね」
ルミエルは胸の前で、静かに手を組む。
「ナギさん」 「もしよろしければ」
「なに」
「次に火を使う時」 「少しだけ、祈らせてください」
「……なんで?」
「確認したいのです」
「なにを?」
少し間を置いて、彼女は言った。
「この火が」 「神ではなく、人のものだと」
――それ、確認になってる?
私は頭を抱えた。
(やばい) (世界がまた一段、変な方向に進もうとしてる)
背後で、アレンがぼそっと呟く。
「……神格、また上がったな」
「やめろ」 「私を数値化するな」
でも確かに。
この世界は今――
火ひとつで、祈りを始めようとしていた。




