聖女
ルミエルは、階下の騒音で目を覚ました。
拍手。どよめき。
「尊い……」
「今、更新が入った……!」
(更新?)
寝間着のまま、二階の手すりから覗く。
信者たちが円になって、真剣な顔で議論していた。
「今朝の物音は“起床の兆し”」
「いや、“沈黙の準備段階”だ」
「どちらにせよ聖性が高い」
(何もしてない)
ルミエルが思わず息を呑む。
その小さな吐息に、信者が反応した。
「聞きましたか?」
「今のは――」
「“世界への配慮”」
(ちがう)
「聖ルミエル様は、
自分が聖人だと一切思っていない」
「そこが一番、聖人」
(ロジックが強い)
勇気を出して声をかける。
「……あの、私、普通です」
間。
「否定来ました」
「聖性、安定」
「“普通”を名乗れるのは、完成している証」
(もう無理)
階下でアレンが叫ぶ。
「俺たちを巻き込むな!!」
即座に書記が走る。
「“怒りによる世界修復”確認!」
「アレン様が怒ると秩序が戻る!」
「ふざけんな!!」
「はい、もう一段」
(最悪)
セリオは言葉を失っていた。
信者が小声で囁く。
「……否定しない」
「受容の兆し」
「ち、違う……」
「声量が小さい」
「聖性、進行中」
ルミエルは頭を抱えた。
(止めないと……)
その時、ナギが楽しそうに言う。
「今日の公式解釈ね」
一斉に静まる。
「ルミエルが聖人だと自覚していない理由」
(言うな)
「――周囲が勝手に意味を足してるから」
ざわっ。
「なるほど!」
「我々の問題!」
「理解が遅れていた!」
(そこで反省するんだ)
ナギは続ける。
「だから今後も、
本人の言動は一切問いたださないこと」
「おお……!」
(それ、私の発言権……)
誰かが小声で言った。
「……あの距離感」
「神との近さを感じる」
別の誰か。
「接触はない」
「だからこそ清い」
(……知られてないのに、正解だけ引かれてる)
二階で、ルミエルはそっと後ずさった。
(今日も何もしてないのに)
階下ではもう、
新しい“解釈”が増えていた。




