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金儲け

赤竜亭は、もはや集会所だった。

信者が増えている。 昨日の倍。 静かに、確実に。

アレンが私の耳元で低く言った。

「……ナギ、止めろ」 「何を?」 「全部だよ!」

私は首を傾げた。

「でもさ」 本を一冊、ひょいと持ち上げる。 「売れてるよ?」

信者たちが一斉に息を呑んだ。

「原典だ……」 「神ナギ様が触れた……」

「今朝だけで三刷り」 私は淡々と告げる。 「印税、ちゃんと入ってる」

アレンが顔を覆う。

「くそ……!」

次の信者が進み出る。

「神ナギ様! 昨日、聖アレン様が“面倒くさい”と呟かれた件ですが――」

「あれは独り言だ!!」

「“救済は容易ではない”という

深い嘆きだと解釈されております!」

「……」

私は少し考えてから言った。

「まあ……

“面倒”って言葉、

確かに深いよね」

信者たちがざわめく。

「おお……」 「神の肯定……!」

アレンが私を見る。

「ナギ?」 「なに」

「お前、今――」

「否定してないだけ」

私は肩をすくめた。

「解釈は自由って書いたし」

セリオが恐る恐る言う。

「……僕がさっき、

パンを二つに割ったのも……?」

「“分かち合い”」

即答した。

「ほら」

信者が叫ぶ。

「やはり!!」

セリオが固まる。

「……ナギさん?」

「大丈夫」 私はにっこりする。 「売り上げ、伸びるから」

アレンがキレた。

「俺たちを巻き込むな!!」

「巻き込んでないよ」 私は真顔だ。 「勝手に巻き込まれてるだけ」

さらに追い打ち。

「それにさ」 私は信者を見る。 「アレンが怒ると、

感情が豊かでいいよね」

「“激情の聖人”……!」

「セリオが困ると、

内省的で尊いし」

「“沈黙の聖人”……!」

アレンが叫ぶ。

「お前、煽ってるだろ!!」

「煽ってない」 私は指を立てる。 「観測してるだけ」

その瞬間、信者が走り込んできた。

「神ナギ様! 聖人様方が同時に立ち上がり、 同時に座りました!」

私は目を輝かせた。

「それは――」

アレンが遮る。

「言うな!!」

「“調和”かな」

「言うなァ!!」

信者、感涙。

「印刷、増やします!」

私は満足そうに頷いた。

(よし) (今月の印税、いける)

セリオが小さく呟く。

「……僕たち、

何もしない方が神聖ですね」

「そうだね」 私は即答する。 「不動の聖人」

アレンが天を仰いだ。

「終わった……」

私は心の中でそっと計算する。

(刷部数×単価×10%……)

――うん、

止める理由が、どこにもなかった。

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