聖人おこる
玉座の間を出た直後。
「……なあ」
ぼそっとアレンが言った。
「お前だったのかよ」
「何が?」
「これ全部」
私は一瞬、視線を逸らす。
「……まあ、うん」
次の瞬間。
「ふざけんな!!」
声がでかい。
「俺とセリオが!!
朝キスする聖人とか!!
誰が決めた!!」
「いや聖書の写本が――」
「写本のせいにすんな!!」
アレンが頭を抱える。
「俺、今朝パン食っただけだぞ!?
それが“聖餐”ってなんだよ!!
ただの朝飯だろ!!」
セリオが小声で言う。
「……でも、
“二人で同じパンを分け合った”
って書かれてました」
「書くな!!」
アレン即ツッコミ。
「それ美談にすんな!!
昨日の残りだよ!!」
私は咳払いした。
「一応言っとくけど、
私は“聖人にしろ”とは一言も――」
「でも止めてねえよな!?」
「それはまあ……」
「ほら!!」
アレンが指差す。
「俺たち一般人!!
ただの宿泊客!!
210号室!!」
「番号まで聖数字扱いされてるよ」
セリオが真顔で追撃。
「“二一〇は完全数”って」
「知らねえよそんな数学!!」
アレンが天を仰ぐ。
「なあナギ」
真剣そうな顔で言う。
「これ以上何か書いたら、
次は何になる?」
私は少し考えて答えた。
「……寝相」
「やめろ!!」
「寝返り=輪廻転生とか言われるから!!」
セリオがぽつり。
「でも、
信者さんから
“お二人の自然体が尊い”って……」
「自然体で世界救うな!!」
その瞬間。
廊下の向こうから信者の声。
「聖アレン様!
昨日のため息には
どのような意味が――」
「ねえ!!
ため息にも意味乗せられてる!!」




