タイトル未定2025/12/28 20:58
「……ところで、女王陛下」
沈黙を切ったのは、サクラではなかった。
私――ナギだった。
「“著作権”という概念をご存じですか」
「ちょさく、けん?」
女王は首を傾げる。
「聞いたことがないのう。それは新しい神か?」
「神じゃありません。
権利です」
玉座の間が静まる。
私は一冊の本を掲げた。
「この“聖書”――
『二一〇号室の二人』」
「これは、私が書きました」
ざわ、と空気が揺れる。
アレンが、信じられないものを見る目で私を見て、小声で言う。
「……お前だったのかよ」
セリオは言葉を失い、視線だけが本と私を往復する。
女王は興味深そうに頷いた。
「ほう。では、そなたが“語り部”か」
「違います」
私ははっきり言った。
「作者です」
一拍。
「この世界ではまだ一般的ではありませんが」
私は続ける。
「本を書いた者には、
その内容が生み出すすべての価値を
管理する権利があります」
女王は顎に手を当てる。
「では、この本が街に溢れておるのは?」
「本来なら」
私は淡々と答える。
「私の許可が必要です」
兵の一人が息を呑んだ。
女王は笑った。
「大胆じゃな。で?」
「金です」
「率直じゃ」
私は少し考え――首を振る。
「全部はいりません」
サクラが一瞬、こちらを見る。
「……何パーセントだ」
「10パーセントでいい」
今度はサクラが驚いた。
「ナギ様……?」
女王も眉を上げる。
「安くないか?」
「残り90パーセントは」
私は女王を見る。
「国が管理してください」
静寂。
「条件があります」
「申してみよ」
「無断改変は禁止。
写本には必ず
“原作者:ナギ”と明記してください」
女王は数秒考え――
ゆっくり笑った。
「面白い」
「つまり、国が“神の言葉”を扱いながら、
そなたに頭を下げ続けるわけじゃな」
「そうなります」
「よい。採用じゃ」
サクラが深く一礼する。
女王が続けた。
「では、著作権の詳細については――」
私は一歩下がり、サクラを見る。
「説明は、サクラ。
あなたがやってください」
サクラは一瞬だけ目を見開き、
すぐに表情を整えた。
「……承知いたしました」
女王は満足そうに頷く。
「よい心がけじゃ。
では聞こう、“著作権”とは何か」
サクラが口を開く。
その横で――
アレンは頭を抱え、
セリオは静かに唇を噛みしめていた。
(これ、完全に後戻りできないやつだ)
二一〇号室の二人は、
この瞬間、ようやく同時に理解した。




