異世界のおきまり
街に入ると、空気が一気に変わった。
草原の静けさは消えて、話し声と足音、金属の擦れる音が耳に流れ込んでくる。
石畳の道。木と石でできた建物。
――うん、どう見てもファンタジーの街だ。
問題は、ここからだ。
私は適当に歩いて、通りすがりの男に声をかけた。
「冒険者ギルドって、どこ?」
……通じた。
発音も文法も考えてないのに、普通に通じた。
男は怪訝そうな顔をしながらも、通りの先を指さす。
「赤い旗の建物だ」
「ありがと」
歩きながら、内心で舌打ちする。
――あの腐れ女神、言語能力だけはちゃんとくれたみたいだな。
街の人間は、ちらちらとこちらを見てくる。
装備も武器もない、白い服の女がうろついていれば当然か。
視線が刺さるたびに、居心地の悪さが増していく。
赤い旗の建物は、すぐに見つかった。
無骨な扉。出入りする冒険者たち。
鎧、剣、杖、弓。
全員が「それっぽい」。
……私だけ、完全に場違いだ。
「まあ、異世界転生あるあるだよね」
誰に言うでもなく呟いて、私はギルドの扉を押した。
このあと面倒ごとが起きる予感しかしないが、
それでも行くしかない。
冒険者ギルドに行け。
転生物の基本は、そこから始まるんだから。




