街中に溢れる薄い本
街に戻った瞬間、違和感に気づいた。
――本屋が、多すぎる。
しかも全部、同じ表紙だ。
「……は?」
店先に平積みされているのは、見覚えがありすぎる装丁。
『二一〇号室の二人』
一冊や二冊じゃない。
通り沿いの本屋、露店、果ては雑貨屋の片隅にまで置いてある。
「待って、待って、待って」
私は一冊を手に取った。
中身は――
完全に、私が書いたものだった。
誤字まで同じ。
改行の癖、間の取り方、言葉を濁した箇所まで。
ただし、一点を除いて。
欄外に、書き込みがある。
本文の余白に、赤インクで。
《ここで二人は、互いの魂の結びつきを自覚する》
……書いてない。
そんな一文、私は書いてない。
「それ、最近よく売れるんですよ」
店主が気軽に言った。
「教団から原本が回ってきてね。
写本は各店で作っていいって」
「写本……?」
「ええ。手書きですけど。
まあ、書き手の解釈が入るのはご愛嬌ってことで」
(ご愛嬌で済ませるな)
私は別の店で、もう一冊を開いた。
同じ話。
同じ流れ。
でも――違う。
《このときアレンは、無自覚にセリオの手を取っている》
……取ってない。
取ってないし、そんな描写もしてない。
三冊目。
《夜、二人は同じ寝台で祈りを捧げた》
祈ってない。
普通に寝ただけだ。
写本ごとに、
少しずつ、
確実に、
“意味”が盛られている。
私は背筋が冷たくなるのを感じた。
そのとき。
「……なあ」
背後から、低い声。
振り向くと、
アレンとセリオが立っていた。
二人とも、顔色が悪い。
「俺さ……」
アレンが、私の手元の本を見る。
「これ、俺たちだよな?」
「……うん」
私は、正直に答えた。
セリオが、震える指で別の写本を持ち上げる。
「僕たち、
こんなこと……してたことになってるんだけど」
ページには、
“聖なる沈黙の夜”
“魂の共鳴”
“言葉なき誓い”
――全部、後付けだ。
「……私のせいだ」




