そして教団へ
教団本部へ向かう馬車は、やたらと静かだった。
いや、正確には――
信者以外が静かだった。
「聖人様方は、普段どのように目覚められるのですか?」
最初の質問が、それだった。
「普通に……起きるけど?」 アレンが戸惑いながら答える。
信者は、深く頷いた。
「“同じ朝を迎える”……尊いですね」
(言ってない) (“同じ”って言ってない)
「お食事は?」 「同じ卓を囲まれるのでしょう?」
「そりゃまあ、部屋一緒だし」 セリオが答えると、
「“日常を共にする覚悟”……!」
(覚悟じゃない) (家賃節約だ)
信者の一人が、羊皮紙に何かを書き留め始めた。
「え、ちょっと待って」 なぎが口を挟む。 「それ、メモ取るほどの話?」
「はい。後世に伝える大切な逸話ですので」
やめろ。
馬車が揺れるたび、
話はどんどん“物語”になっていく。
「戦場で背を預け合ったことは?」 「命を救い合った経験は?」
「あるけど……普通だろ?」 「パーティー組んでたら」
信者は目を潤ませた。
「“命を預ける関係”……!」
(RPGのテンプレを神話にするな)
「夜は、どのように過ごされて?」
「魔法の研究とか」 「剣の手入れとか」
「沈黙を共有する時間……!」
(ただの無言)
アレンが小声でなぎに囁く。 「なあ……俺たち、否定した方がよくないか?」
「もう遅い」 なぎは即答した。
前方で、信者が振り返る。
「お二人が“言葉にしない絆”を大切にされていることは、理解しております」
理解してない。
セリオが眉をひそめる。 「なぎ、これ……」
「うん」 なぎは頭を抱えた。
(説明すればするほど、) (“語られなかった部分”が神聖視されるやつだ)
信者が、満面の笑みで締めくくる。
「どうかご安心ください」 「教祖様は、すでに“物語の核”を掴んでおられます」
「核ってなに」 なぎは聞きたくなかったが、聞いた。
「“理由なき親愛”です」
沈黙。
アレンとセリオが同時に言った。 「理由はある」
だが信者は、首を横に振った。
「理由が語られないからこそ、尊いのです」
(最悪だ)
なぎは、馬車の窓の外を見た。
空はやけに青くて、
世界は今日も平和そうだった。
――なのに。
善意だけで、ここまで歪む。
(世界がBLを神話にする速度、早すぎだろ)
馬車は、そのまま教団本部へ向かって走り続けた。




