210号室の男たち
ダンジョンの安全地帯に簡易焚き火が立ち、四人分の食事が並んだ。
ゴブリンの肉を香草で誤魔化したシチューだが、意外といける。
「じゃ、改めて自己紹介しとこっか」
そう言って口火を切ったのは、剣を背負った男だった。
「俺はアレン。前衛の戦士。細かいこと考えるのは苦手だから、殴る役だな」
笑いながら言うと、隣に座る男の肩に自然に腕を回す。
「で、こいつが相棒」
「セリオです。魔法使い。主に支援と殲滅担当ですね」
そう名乗ったセリオは、アレンの腕を特に気にする様子もなく、平然とスープを口に運んだ。
むしろアレンの器が空くのを見ると、
「ほら、こぼすな。まだ熱い」
と、当たり前みたいに器を受け取り、少し冷ましてから返している。
(……距離、近くない?)
なぎはスプーンを持つ手を止めた。
「二人は、長いんですか?」
何気ない問いに、アレンが即答する。
「ん? パーティー組んで三年」
「生活も一緒です。宿も部屋一つで」
「そりゃ効率いいしな!」
あっはっは、と笑う二人。
息が合いすぎていて、説明の必要すらない感じだった。
なぎは視線を逸らし、シチューを一口飲む。
(……男二人で、相部屋で、三年)
「……たぶん、私が汚れてるだけだよね」
小さく呟いた声は、焚き火のはぜる音にかき消された。
その隣で、ルミエルは何も気にせず酒をあおり、
「人の関係に口を出すのは野暮よ」
とだけ言って、また飲んだ。




