帰還
ダンジョンの出口が見えたとき、
なぎは思ったよりも強く息を吐いていた。
外の空気は冷たくて、
それだけで「戻ってきた」と分かる。
「……生きてる」
思わず漏れた言葉に、
ルミエルが少しだけ首を傾けた。
「それが、何よりです」
街道を歩く間、会話は少なかった。
でも、沈黙が重くない。
足取りは、来たときより確かだった。
赤竜亭の看板が見えた瞬間、
腹の音が鳴る。
「……ただいま」
店の扉を押すと、
いつもの匂いと喧騒が迎えてきた。
「お、帰ってきたか」
バルドがカウンター越しに手を振る。
「顔色いいな。死にかけてない」
それ、基準おかしくないか。
「一匹だけって言ったよな?」
「……途中で、増えました」
なぎが視線を逸らすと、
バルドは鼻で笑った。
「生きて帰ってきたなら上出来だ」
ルミエルを見る。
「そっちの姉ちゃんは?」
「一緒に潜りました」
「ほう」
それ以上、深くは聞かれなかった。
「飯、食うか」
「……食べる」
即答だった。
椅子に座ると、
足の力が抜ける。
疲れているはずなのに、
嫌な感じじゃない。
(ちゃんと、帰ってきた)
なぎはテーブルに肘をつき、
天井を見上げた。
今日の自分は、
ダンジョンに入って、
戦って、
食べて、
帰ってきた。
それだけ。
それだけなのに。
「……明日も、行けそう」
小さく呟くと、
バルドが聞き逃さなかった。
「調子乗るなよ」
でも、その声は少しだけ優しかった。




