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魔法剣士

通路の先で、また気配が動いた。

今度はスライムじゃない。

皮膚が硬そうな、小型のダンジョンウルフ。

「来ます」

ルミエルが一歩下がる。

それは任せる、という合図だった。

――逃げたい。

正直な気持ちが先に来る。

でも、足は止まらなかった。

(剣だけじゃ、当たらない)

前に出た瞬間、思った。

速い。

さっきのゴブリンとは違う。

なぎは左手を、無意識に前に出していた。

「……ウォーター」

声は小さかった。

掌から、冷たい感触が溢れる。

水が“塊”になり、ウルフの視界を叩いた。

一瞬の減速。

その一瞬で、身体が勝手に動く。

右手の剣を、振り抜いた。

浅い。

でも、確実に当たった。

ウルフが悲鳴を上げ、距離を取る。

(……できた?)

考える暇はなかった。

二度目は、意識してやった。

左手で水を放つ。

右手で踏み込む。

剣先が、今度は深く入る。

ウルフが崩れ落ち、動かなくなった。

静寂。

なぎは、その場に立ち尽くしたまま、自分の手を見る。

左は濡れている。

右は、剣を握っている。

どちらも、ちゃんと自分のものだった。

「……今の」

後ろで、ルミエルが小さく息を吐いた。

「同時使用ですね」

「え?」

「魔法と武器。

切り替えではなく、並行」

それだけ言って、彼女はそれ以上評価しなかった。

でも。

なぎの胸の奥で、何かが静かに噛み合った。

効率じゃない。

最適解でもない。

でも――

できないと言われてきたことを、今、やった。

(……駆け出し、だけど)

なぎは剣を下ろし、濡れた左手を軽く振った。

「魔法剣士」

声に出すと、少しだけ現実味があった。

誰にも認められなくていい。

まだ弱くていい。

それでも。

一歩は、確かに前に出た。

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